ロシア出身で関西育ちの2人組YouTuber「ピロシキーズ」のメンバー、小原ブラスさんと中庭アレクサンドラさん。『【緊急】ウクライナ侵攻、ロシア人としてもう我慢できません。許されないことです。』などの動画を公開し、話題になっています。親戚や知人から聞いたロシアの現状とは。そして、ロシア出身者として、この戦争をどのような思いで見ているのか。YouTube『たかまつななチャンネル』で聞きました。
(※取材は3月4日に行いました)
国外からの報道や声は「フェイクニュース」とされる
──おふたりはYouTubeなどを通じて、ウクライナへの侵攻について積極的に発信されていますね。お知り合いで、現在ロシアに住んでいる方もいらっしゃるんですか?
中庭アレクサンドラ(以下:アレクサンドラ):親戚だと、祖母やいとこ、おばさんが住んでいます。もちろん、知り合いもいます。
小原ブラス(以下:ブラス):私もロシアに知人がいます。まず私たちは、ウクライナへの侵攻を、絶対にやったらあかんことだと思っている。でも今、ロシア国内の知り合いに向けて、「ロシアのメディアで流れていることは、必ずしも正しくないぞ」と伝えたいのに、うまく伝わらないことに心苦しさを感じています。
私たちはずっと日本で育っているので、(ロシア語での)意思疎通くらいはできるけれど、豊かに伝えられるほどの表現力がなくて。それでも、知り合いや親戚に話をしたり聞いたりしているところです。
アレクサンドラ:実際のところは、現実を伝えたところで信じてもらえず、身内や友達とケンカになることもあります。ロシア内で流れているニュースは、日本で見るニュースとは、まったく違うから。私たちはロシアに住む人々から、“欧米のフェイクニュースを信じて発信しようとしている人たち”、と受け止められてしまうんですよ。
──ちなみに、ロシア国内では今、どんな感じの報道がなされているのでしょうか。
ブラス:「ロシアはウクライナに攻撃しているのではない」と伝えられているようです。例えば、民間人のいる建物に、ロシア軍が攻撃している映像があるじゃないですか。すると、ロシア内では「実際は、ほかの階にウクライナ軍がいて、ロシア軍に攻撃をしかけている。ウクライナは国民を洗脳して軍の“盾”にしているから、ウクライナ軍に反撃しようとしたら、民間人も巻き込まれて亡くなってしまう」といった報道になる。これ、もちろん私の考えとは違いますよ。
アレクサンドラ:あとは、独立系のメディアが政府からニュース配信を止められています。
ブラス:なぜ止めるかというと、政権側いわく、そういうメディアは「フェイクニュースを流しているから」。SNSで広まっている映像がどんなふうに作られたのかを解説する動画もあるそうです。例えば、「CNN(アメリカのニュースチャンネル)で報じている映像は、(真実ではなく、)こうやって作られています。試しにやってみたら、ほら、こんなに簡単にできましたよ」って。それから、「21世紀は情報戦争であって、欧米の人たちは情報操作でロシアを国内からつぶそうとしている。若者たちはSNSでそのフェイクニュースを見て信じているけれども、決してSNSにだまされるな」などと報道されているみたいです。
でも、若者はさまざまなSNSを見ているから、反戦デモをしたり、親にも「テレビのニュースのほうがうそやで」って伝えたりしている。若者は親の世代にテレビを見るなと言うけれど、親はSNSを見るな、スマホを見るなと言う。結果、ロシアの家庭内崩壊、若者と高齢層の分断が激しく起きています。
「本当に戦車が走っている」SNSで知る若者たち
──なぜ若者はそんなにメディアリテラシーが高いのですか。
アレクサンドラ:ウクライナとロシアって深いつながりがあって、お互いの国に友達がいることも多いんです。だからウクライナにいる友達から、映像が送られてくることもあるんですよ。「見て。今、私の家の窓からの景色を映してる。男の人が走っていって、射殺された」って。それがロシア内で拡散されていっているんです。どこかのメディアが撮ったとされるニュースじゃなくて、実際にその場にいる友達からの情報だから、信じられるんじゃないかな。「本当に今、戦車が走っている」「本当に今、人が殺されているんだ」と知った若い人たちは危機感を感じて、必死に止めようとしています。
ブラス:あと、もともとロシアの中では、反プーチン派の若者が多いんです。若者はSNSで多くの情報を見て、欧米のいろいろな文化にも触れて「自由があるほうがいい」と考えている人もいる。「このプーチン独裁状態は嫌だ」と。
──今、ロシアの中で、若者を中心に反戦運動の熱は高まっているのでしょうか。
ブラス:高まっているけれども、そのぶん、どんどん規制がかかっています。例えば、プーチン大統領は今年3月、ロシア政府の説明に反する情報を拡散する人たちに対し、最大で「15年の懲役刑」を宣告する法案に署名しています。
また、今ロシアには死刑制度がないんですが、死刑を導入するべきだという話題が出ている、とも言われています。
──より一層、戦争反対の声を上げにくくなっている状態ということですか。
アレクサンドラ:そうですね、身の危険があるから。自分が死ぬかもしれない。
ブラス:今、反対運動の声をあげている人たちは、本当に命がけですよ。多分、私たちがロシアに行ったら、すぐにでも刑務所入りでしょうね。
アレクサンドラ:実際に、知り合いが送ってきた動画があるんです。ロシアにいる若い男の子が「戦争反対だ」って表明したら拘束されて、ボコボコにされて外に放置されたのを、その知り合いがタクシーを拾って助けてあげた。そのときの動画です。本当に身の危険を感じながら戦っているような状態です。
ブラス:ロシア第2の石油会社であるルクオイルが、ウクライナ侵攻を非難する声明を発表するなど、徐々に状況が変化しているのもわかります。同時に怖いのは、プーチンがかなり追い詰められているということ。この記事が出るころにはどうなっているかわかりませんが、追い詰められている人が核のボタンを握っていることが、いちばん恐ろしい。自国の国民もどんどん戦地に送り込んで、殺してしまっている。それに、これまでロシアの文化に興味を持ってくれていた人たちも、この状況で興味を持たなくなっていますよね。今のロシア政府は、国を守るどころか、ロシアを崩壊させにいっているんじゃないかって思いますよ。
アレクサンドラ:最近はロシア国内に食品が入らなくなってきているみたいです。ちょっとしたフルーツが入っているような食べ物でさえ、7000円くらいするんですよ。
──世界が「ロシア内の反戦運動を応援しますよ」という空気感をつくることで、ロシア在住の方々も反戦の声を上げやすくなり、政府も諦めざるをえない状況になるといいんじゃないかって私は思うんですけれども、それは難しいと思いますか。
アレクサンドラ:たとえ反戦運動をする人たちが増えたとしても、「反戦運動をしたらその場で殺してもいい」なんて許可が出てしまった場合は、声をあげられなくなってしまう。今は小学生でも檻(おり)の中に入れられるんです。小学生ですよ。毎日のように法律が激しく変わっている状態で、国民が反発すればするほど、もっと厳しくしてやるっていう状態。ロシア国内にいる人たちは、必死に自分なりにできることをやっているけれど、やっぱり厳しくなってきていると思います。私たちは日本にいるので頑張ろうと思っていますが、それでも怯(おび)えながらです。私たちだって怖いですよ。
ブラス:私もよく「ロシアに行って反戦活動をしろ」とメッセージをもらうんですが、ロシアの空港に降りた瞬間に逮捕されてしまう可能性がある。でも今、ロシアの中で徐々に反戦運動が高まってきてはいるので、そういう人たちを応援したいです。ただ、反戦運動をしてプーチンを追い詰めることによって、核のボタンを押されてしまうかもしれない、という恐れを忘れてはならない。
──どちらに転ぶか、わからないということですね。
公正な選挙で一票投じられることの意味
──こうして自分たちの考えを発信することで、おふたりはロシアに帰れなくなる可能性も高まるわけですよね。それでも発信されるのはどうしてですか?
アレクサンドラ:やっぱり変えたいですよね。
ブラス:いいかげんに、自由な国にしなきゃいけないなと思う。
アレクサンドラ:友達もいる。ウクライナにも。実際に殺されている人たちがいることに対して、それ(戦争や殺人)は、本当にあってはならないと思う。
ブラス:ウクライナが正しい、ロシアが正しいとか、そういう次元の問題じゃない。命が失われていくことを止めたい、一秒でも早く。それに今回のできごとで、安全保障における世界の秩序というものへの考え方が、めちゃくちゃ変わる気がするんですよね。将来の核戦争や破滅にもつながりかねない話だと思うんです。僕は、いくら自分のルーツがある人たちを守るという名目だったとしても、絶対に越えたらあかん一線があると思う。
──日本人にはどんなことができると思いますか。おふたりから見て、こういうことをしてほしいな、とか。
アレクサンドラ:私は今だからこそ仲よく、みんなひとつになることが大事だと思うんですよ。戦争が起きてるから「ロシア人は〜」「ウクライナ人は〜」と決めつけるのではなく、あなたはロシア側についてるから悪い、などといった話を持ちこまないで、「今ここにいる人たちは支え合う」ということが大切かなと思ったんですよね。
ブラス:ウクライナの人たちが、あんなにも悲しく孤立した状況に置かれているので、日本からの応援の声がウクライナの人たちの耳に入ったら、少し勇気になるのではないかと思います。あとは、ウクライナからの難民を受け入れた場合どうするかというのを、今から考えておく。
──アレクサンドラさんが「今だからこそ仲よく」とおっしゃいましたけど、本当にそのとおりだなと思います。おふたりが、ロシア出身だからという理由で心ない言葉を受けとってしまうのは、本当に申し訳ないなと思います。
ブラス:でも、プラスの言葉が圧倒的多数なんです。「悪い言葉がきても気にせんときよ」みたいな励ましもある。僕、日本の人はすごく理性のある国民なんだなって、今回、改めて感じましたよ。
──ロシアにいる人とプーチンは別なんだっていうことを、やっぱり考えないと。
ブラス:ただ、選挙で彼に投票したのはロシア人だと言う人もいる。この問題って、すごく難しいですよね。もちろん、インターネット投票が不正に改ざんされた疑いもありますし、プーチンに投票しないと年金を払わないぞ、なんて脅迫をされて投票してしまった人も、たぶんいると思うんだけど。
ただ、ひとつ言いたいのは、選挙がどれほど大事かが、今回の事態を見てわかる。日本は若者がなかなか選挙に行かないと言われていますが、選挙がちゃんと行われてる国で選挙に行かないのは、本当にもったいないことだなと。今のロシアを見て、ひとりでも「次は私もちゃんと選挙に行こう」って思う若者が増えたらいいなと思いますね。
「祖国はロシアだが、ロシア政府は祖国ではない」
──最後に何かメッセージがあれば、いただければと思います。
アレクサンドラ:改めて言うなら、「国」は政府じゃないということ。
ブラス:祖国はロシアだが、ロシア政府は祖国じゃないってことかな。
アレクサンドラ:今の戦争をやっているのは、プーチンだということをわかってほしい。国民ではない。
ブラス:今日いろいろ話しましたが、私たちは今、安全な国にいて、健康で食事もできています。安全な地点からいろいろ言っている、という一面もある。なので、現地にいる今のウクライナの人たちの状況は、想像しきれないものだと思うんですね。戦争が今、自分の街で起きている。窓の外を見たら戦車がいる。本当に銃弾がいつ飛び交うかわからない中、買い物に行かないといけない今のウクライナの人たちの気持ちって、絶対わからへん。私も含めて、わかった気になるなよって思う。
だから、常に想像しなきゃいけないですよね。今の国際社会において、この情勢の中で、ひとり一人がどう立ち振る舞っていくのか。「ネットにこう書いてあったから」じゃなくて、自分で想像して、それぞれ考えていかんとあかんと思う。
──これからどうやったら平和が保たれるのか、私たちに何ができるのか、一緒に考えていけたらと思っております。ピロシキーズさん、ありがとうございました。
(取材/たかまつなな 編集協力/塚田智恵美)
【PROFILE】
ピロシキーズ ◎ロシア・モスクワ出身で大阪育ちの中庭アレクサンドラと、ロシア・ハバロフスク出身で兵庫育ちの小原ブラスによる2人組YouTuber。チャンネル登録者数は22万4千人を超える(2022年3月現在)。ロシアにルーツを持つ2人から見た日本人の印象などのほか、最近はロシアやウクライナの情勢について考えることも発信している。
YouTube→『ピロシキーズ』、アレクサンドラTwitter→@Alechan_Planet ブラスTwitterー→@kobaravlas
たかまつなな ◎株式会社笑下村塾 代表取締役。1993年、神奈川県生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。