日本だけでなく、世界中で愛されているあの青いネコ型ロボット。愛されすぎて、世界中にいろんな「仲間」がいるようです……。おもちゃ収集家のいんちき番長さんに、そんな彼らの傾向を解説していただきました!
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わあ、未来の世界のネコ型ロボットがたくさん! でもよく見ると(よく見なくても)、あれれ? なんだかちょっとヘン? まるでお母さんがうろ覚えで描いてくれた絵みたいで、思わず笑みがこぼれてしまう。
これらはすべて、世界各地で生み出された“どえらいモン”たち。著作権てなにそれ? とばかりに自由に作られ、流通してきた“いんちき”なおもちゃの数々だ。
そんな“いんちきおもちゃ”をまとめたシリーズの最新刊『どえらいモン大図鑑』が、国内外を問わず話題騒然となっている。いんちきおもちゃの中でも「青いネコ型ロボット」風のおもちゃをまとめ、その収録数は多岐にわたって373種!
今回はそんな世界中で愛されている“どえらい”おもちゃ事情について、著者のいんちき番長さんに話を聞いた。
「青地に白い丸を描いて、真ん中に赤い丸をつけてみてください。もう、あの有名なネコ型ロボットに見えてきませんか? これは、世界中の幅広い世代の人が持っている感覚です」
細部が全然違うのに、どれも「どえらいモン」に見えてしまうのは、私たちがあのロボットのことをよく知っていて“とっても大好き”だからこそなのだ。
これらのおもちゃは、いんちき番長さんが中国をはじめとしたアジア各国で買い付けたもの。どれも本家発祥の地である日本ではとてもできないような思い切ったデザインを実現し、スイッチを押せば音楽が流れ、さらに光って回って走るなど「お得な機能」がてんこ盛りでついている。これこそが「いんちきおもちゃ」の魅力だ。
「きちんと版権をとると版元が認めたものしか作れません。でも、そういうものを完全に無視しているのが、いんちきおもちゃのすごいところであり、まずいところなんです。われわれの凝り固まった常識が、いとも簡単に覆されてしまう」
では、「偽物」と「いんちき」の違いはなんなのだろうか?
喜ぶだろうという気持ちから
「『偽物』は人をだまして儲(もう)けてやろうというものですが、私が『いんちき』と呼ぶものは違います。多少は儲けようという気持ちもありながら、人気のあるキャラクターにさらに付加価値をつけて、もっと子どもを喜ばせたい気持ちが伝わってくるもののことですね」
本物ではないけれど、サービス精神にあふれているものが「いんちき」。中国では、人気が出たキャラクターのおもちゃは、最初は「偽物」が出回り、やがていんちきなものが増えていく。機関車が合体変形して巨大ロボットになったり、ネコ型ロボットがMARVELヒーローと夢のコラボをしたり……。「いんちきおもちゃ」シリーズではそんな自由気ままな世界を堪能することができる。しかし、見る人によっては複雑な思いもあるようだ。
「最初の本が中国で出版されたときに現地の方から『俺が子どものころに大切にしていたあのおもちゃはいんちきだったんだ……』という感想を多くもらいました。『どえらいモン大図鑑』では日本の古いものもいろいろ紹介しているのですが、同じような反応をもらっています」
子どものころに大事にしていたおもちゃは本物ではなかった……しかし、その裏には作り手、そして買い与えてくれた大人たちの愛が詰まっている。しみじみする話ではないか。
近年は中国でも版権意識が高まり、正規商品の流通が増えてきているそう。では「いんちき文化」はなくなっていくのだろうか?
「今でも地方に行けば、街中に1軒だけある、1年に1回しか品ぞろえが変わらないような雑貨屋さんでしか正規のおもちゃを買えないことが多くあります。それに、中国はありとあらゆる国に輸出をしています。世界のすべての国が豊かになるか、世界中で版権がフリーにならない限り、無版権のものはなくならないでしょう」
ピッカピカの本物ではないけれど、驚きとともにどこか懐かしさも感じさせてくれるいんちきおもちゃの世界。知れば知るほど、あのメガネの少年がネコ型ロボットを呼ぶときのように「どえらいモ〜ン!」と叫びたくなるはず!
次は『どえらいモン大図鑑』で紹介されている“どえらいモン”を少し紹介します。
よく見れば違うのに
※以下、写真の上段・左から
●ネコ型ロボットの最終型!?
セグウェイ的な乗り物に乗るアンドロイド。よく見れば顔面以外にどえらい要素はない……はずなのに、私たちはこれを“どえらいモン”だと認識してしまう。スイッチを入れると物悲しげな音楽とともに光ってあたりを無軌道に走り回る。
●カラフルでキラキラ!
ピンクのかわいいどえらいモン。デンマークのポップミュージックとともに透明な頭がピカピカに光る。青・水色との3色展開で、ピンクはいちばん人気がないのだとか。かわいいのに!
●温かい瞳が特徴的なインド生まれ!
お母さんがうろ覚えで描いたみたいなデザインのぬいぐるみだけど、「ドレモン」なので無問題(モウマンタイ)!? 全部のバランスが違うだけではなく、ポケットすらなくしたこちらはインド生まれのどえらいファミリー。インドには「Doorimon」もいるという。
●トコトコ歩くオリジナリティーの塊
ツノつきヘルメットに蝶(ちょう)ネクタイ、マントのようなものを羽織ったオリジナリティーあふれるどえらいモン。ゼンマイ式でトコトコ歩く姿も愛らしい。よく見ると目がだいぶ小さいのだけれど、私たちの脳はなぜか気づけない。
※以下、写真の下段・左から
●願いも2倍叶えてくれそう
2人いる(?)からあんなこともこんなことも2倍叶(かな)えてくれそう! 仲がよすぎてくっついちゃったどえらいモン目覚まし時計。目覚まし音はなぜかラテンのヒットナンバー『ランバダ』……もうわけがわからないよ!
●どえらい“ワルえもん”
くわえタバコに無精ひげ……の通称「ワルえもん」。台湾の夜市などで売られていたいわゆるパロディー(?)Tシャツのイラストがなんと立体化。なにをお願いしても「独裁スイッチ」か「地球破壊ばくだん」しか出してくれなさそう。
●首を縮めると走り出す!
“ろくろ首”的な魅力を放つどえらいモン。首を縮めるように押し込むと、中のゼンマイが巻かれて走り出すという、無理やりな構造。よく見ると手が長いのもポイント。二頭身なのがかろうじて原作準拠?
●色も違うのにやっぱり“どえらいモン”
鈴もある、ポケットもある。でもこれはパンダだそうです(キリッ)。美白されすぎてホラー感すら感じるハンドル式の扇風機。実は青いものも売っていたそうだが、それだけが売れて謎の多色展開(白・グレー・緑)が残ったという。
《PROFILE》
いんちき番長 ◎ライター、いんちき玩具研究家。変形玩具収集をきっかけにアジアのおもちゃ・オタク文化の世界へ。アジアおもちゃコレクターユニット「アジガン」としてトークイベント等の活動も。Twitter:@INCHIKIBANCYO
(取材・文/高松孟晋)