「で、君ならどうするの?」
出た。答えを求めるフリをして実力査定してくる上司の質問。
純粋に好きなやり方を答えても、この場に最適なやり方を答えても、どっちみち正解とは言われない展開。
「ふーん。君はそう考えるんだ」
「そうか。それでいいと思ってるんだ」
「あーあ、いつまでもその考えだとダメなんだよなあ」
仕事の話から評価になだれ込み、低評価をつけたがってると思われる展開……! どうすればいいの……!?
大丈夫。それ、懐ゲーで経験してますよ。
今回ご紹介する懐ゲーは、1989年にナムコさんから発売されたファミコン用ソフト「マインドシーカー」です。
ジャンルは「超能力開発ゲーム」で、令和になった今でも希代の怪作と言われる問題作なのですよ。
ファミコンで超能力開発!?
おもしろい。数々のゲームを攻略してきたオレが試してやろうじゃないか。そんな上から目線でこのタイトルを手に取った僕は、今になって気づかされたことがあります。
では、マインドシーカーの紹介を兼ねて、かつてのゲーム体験を思い起こしてみましょう。
ヒントなしで、マジ透視?
ゲームをスタートすると、プレイヤーは超能力研究施設に入所し、エスパーキヨタから超能力のトレーニングを受けます。
超能力、というのはゲーム内の設定ではなく、生身のプレイヤーの超能力を指します。深呼吸や瞑想(めいそう)、しっかりとした睡眠を要求され、その後にいよいよトレーニング開始です。
裏返しになったカードに描かれた記号を透視せよ。
え?
透視?
ゲーム的なヒントなしで、マジ透視?
操作方法は“念じてボタンを押す”のみ。何度かトライすると当たることもあります。
とはいえ、5択問題なので、適当にボタンを押しててもそりゃあ当たるわけで、これが透視と言えるのか、さっぱりわかりません。
透視、念力、予知の3種のトレーニングを終了すると街に繰り出し実地研修を始めます。なお、部屋から外に出る鍵を探したり、ドアを開けるにも超能力を要求してくるので施設内はものすごく面倒くさい……、いや、やりごたえがあるのです。
ここまでで超能力開発の真偽が明らかになることはなかったが、もう少しプレイするとわかるかも。そんな疑念とも希望とも表現できない感情を胸にサイキックシティーに繰り出しました。
そして、そこで忘れることのできないゲーム体験をするのです。
発動しろ、俺の超能力!
道にいる野良猫を超能力で振り向かせる。
え?
何これ?
超能力でってどういうこと?
ボタンの押すタイミングや回数で判定しているんじゃないの?
いろいろ試してみたものの、野良猫が振り向くタイミングはランダムとしか思えません。
念じて押しても振り向かない。適当に押すとたまに振り向く。しかし、あきらめたころに振り向いたり、気持ちと連動している感じもなくはない。
仕組みがわからないのでおもしろさもわからない。貴重なゲーム時間なので、もういっそ他のゲームを遊びたい……。
いや、ゲーム猛者のオレが途中で投げ出すのは敗北を意味する! マインドシーカーの真価を確かめるまではプレイ継続だ!
モヤモヤを抱えたまま、念じてはAボタンを押す謎の作業を継続します。いつ振り向くかわからない野良猫を見ながらAボタンを押し続けるのです。
ちなみに、この野良猫がブサイクなのがまた気になります。
「せめてかわいいグラフィックにしろよ!」
いや、このトゲトゲした感情は邪念なのか? 超能力の妨げになっているのか……? 集中しなければ超能力は発動しないし、クリアもできないはずだ!
集中しろ、俺! 発動しろ、俺の超能力!
野良猫よ、振り向け! ブサイクとか思ってないから振り向け!
振り向け! 野良猫!
振り向け! 野良猫!
振り向けやあ! ブサ猫ぉ───!
マインドシーカーの思うツボ
30年経った今ならわかります。僕ははマインドシーカーの術中に落ちていたのです。
超能力開発がどんなものか試すつもりが、気づいたときには僕の胆力、忍耐力が試されていたのです。
どんなゲームか試してやろうなんて、上から目線で接している時点で油断しきっていたのです。超能力開発というジャンルに気を取られ、ゲームを買った時点で僕は試す側から試される側に立場を変えていたのです。
気力が続く限り野良猫に向かって念を送り続けていたのは、マインドシーカーの思うツボであったと今ならわかります。
コードギアスのルルーシュもこう言っています。「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ」と。
人間関係では常に立場の逆転が成立すると覚えておきましょう。
部下の力量を探ろうとしているときは、逆に上司としての力量を探られています。お友達の知識量を探ろうとしたときも、ご近所さんのお財布事情を探ろうとしたときも、すでにあなたは探られているのです。
上から目線であなたを試そうとしている上司への答え方はもうわかりましたね。
「そんな質問では野良猫は振り向きませんよ」
しかありません。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。