映画デビュー作となった2017年公開の『カメラを止めるな!』で、一躍、時の人となった竹原芳子さん。年をとることは不自由なことばかりだと思う人も多いかもしれないが、竹原さんのイキイキとした姿や言葉を聞いているうちに、そんな不安は解消されるに違いない。窮屈な価値観を作っているのは自分自身。
竹原さんの話を聞いていると、人生をもっと軽やかに生きてもいいんじゃないか? と思わせてくれる。150cmという小柄ながらパワフルな人生をひもといていくと、前向きに生きるヒントがいっぱいだ。
【後編】は、自由に生きる竹原さんが考える“老後”についてや、生きていくうえで大切にしている“ポリシー”などをうかがいました。
(※【前編】『どんぐり改め竹原芳子、1枚1枚コンプレックスがはがれていった「自分探しの旅」』もぜひお読みください)
先のことをあれこれ考えて不安に思っても前には進めない
──現在、スケジュール管理はご自分でされてるそうですが、大変ではないですか?
「そんなことないです。ボケ防止にいいんですよ(笑)。“何時にこの電車に乗って〇〇駅で降りてください”って言われて行くのと、自分で調べて行くのとでは全然違います」
──仕事を受けるうえで、ポリシーはありますか?
「スケジュールが合えば、すべて断らないようにしてます。ただ……私、カナヅチなので、水の中に入るお仕事はちょっと……。1回、琵琶湖を走って渡るみたいなお仕事をいただいたんですけど、そのときはお断りさせていただきました(笑)。おもしろそうだからやりたいとかそんな感じです。せっかくこの世界でお仕事させていただいてるので、いろんな経験をしたいなと思っています」
──この先の人生を考えて不安に思うことはないですか?
「ないですね。たぶん、深く考えてないからかな(笑)。先を見るっていうよりも今を見てる。今を楽しみたいという考えです。
若いころは、“手に職をつけなあかんとか、自分は何者や?”っていうことにばかり目がいってたけど、今はこのままでいいと思っています。不安がないって言ったらウソになりますけど、先のことをあれこれ考えて不安に思っても前に進めないですもん」
──現在、61歳。こういう役をやってみたいとか、出たい作品はないですか?
「よく聞かれるんですけど、ごめんなさい。それもあまり考えたことないんです。その場その場が一生懸命なんですよね。今の自分は、目の前のことを精いっぱいがんばることで、今まで応援してくれた方たちに恩返しをしたいという気持ちが強いです」
今は食べたいものを食べたいときに食べてます
──セリフを覚えるのに、苦労したりはしますか?
「私の場合、長いセリフじゃなくて短いセリフなので、今のところは覚えられてます(笑)。ただダンスは何回やっても、なかなか覚えられなくて」
──食事で心がけていることはありますか?
「ないです。サプリも飲まないし、果物や野菜はなるべく食べるようにしてます。生のゴーヤとバナナや果物を入れたスムージーを飲んでたことはあったけど、今は食べたいものを食べたいときに食べるという感じです。最近だと、夜中に甘いものが食べたくなって、あんこを食べました(笑)。
ウォーキングしたりジムに通ったりはしてないけど、体力が必要だということはすごく思うので、ふだんから階段を使うようにしてますね。足腰が弱って、みなさんにご迷惑をかけられませんし。よく“ちゃんと食べてる?”って心配されるんですけど、今のところずっと健康できてます」
──結婚を考えたことはありますか?
「一度もないですね。……あ、でも昔の話ですけど、1999年の7月に人類が滅亡するというノストラダムスの大予言というのが流行(はや)って(笑)。まだ学生だったときに、友達と“ホンマにきたらどうなるんやろ? 私ら子どもを抱えて逃げてるんと違うか?”って話してたんです。
結局、何ごともなく無事だったし、私も結婚してませんでした(笑)。友達と1999年7月が近づいてきたときに、“生きてたらお祝いしよう”って言って、その秋に京都へごはんを食べに行きました。あの日の紅葉は忘れられません」
年齢を理由にあきらめたくない。59歳で初めてスイスへひとり旅
──生きていくうえでのポリシーはありますか?
「これ! というのはないですけど、今、目の前にあることをやるということですね。老後のことを考えてもわからんし(笑)。私、いつも行き当たりばったりなんですよ。年齢のことは考えないようにしてます。年齢であきらめたくなくて。いくつになっても、チャレンジする気持ちを忘れたくないですから。
59歳のときにひとりでスイスへ旅行に行ったんですけど、初めての海外ひとり旅でした。これも挑戦やと思って。私、マッターホルンが大好きで、昔、友達と行ってすごく楽しかったのもあって、英語はできないけどなんとかなるやろうと思って行ってきました(笑)。
──すごい度胸ですね。ひとり旅はいかがでしたか?
「満喫しましたよ。『カメ止め!』でイタリアの映画祭に呼んでいただいたときに飛行機に乗ったんですけど、そのときに“そうか、飛行機に乗れば行きたいところへ行けるやん”と思ったんです。それで自分がひとりでどこまで行けるかチャレンジやと思って、チケットを予約して。最初はドキドキでしたけど、飛行機に乗ったとたんテンションが上がって、CAさんに“ワイン、プリーズ!”とか言ってましたね(笑)。
着いてから券売機の切符の買い方がわからなくて、戸惑っていたら助けてくださる方がいて目的地に到着、宿で“マウントビュー!”って言ったら、ちゃんと山の見える部屋にしてもらえたし、もう楽しんだもん勝ちです!」
──竹原さんの話を聞いてると元気になります。
「ありがとうございます。私は元気だけが取り柄です(笑)。スイスの山々を見たときに“生きてるだけで幸せやな”って思ったんです。この大自然を目の前にしたら、もう何もいらんって。ご先祖様って戦国時代やいろいろな時代をくぐりぬけて、私たちに命をつないでくれてる。ひとつ間違えてたら今の自分は存在してないので、生きてるだけでありがたいって思えるんです。
あと、頼れるのは自分だけという思いもありました。山道はよそ見をして歩いていたら足をくじいたりするので、一歩一歩、地面を踏みしめて目の前を向いて歩いていくっていう……、なんか人生に似てるなあと思って。山はいろいろ教えてくれますね」
人生は何が起きるかわからない、すべては自分次第
──40歳、50歳って守りに入る人が多いと思うんですけど、思い立ったらすぐ行動するって大切ですね。
「やりたいことをやってみるのはいいことだと思います。でも、それは私にとってはですけどね(笑)。石橋をたたいて渡る慎重派の方には受け入れられないかもしれないので、すべての方にオススメできないですけど、私はやった後に何があるかと言ったら充実感なんですよね。
やってみないとわからないし、とにかくやってみる。悔いを残したくないんです。50歳でNSCに入るときも、“このままで自分の人生、いいんやろか”と思ったし。そこからは“第二の人生、何でもやってみよう!”という気持ちになりました」
──「やらない後悔よりも、やって後悔したほうがまだいい」と?
「私、ひとつも後悔してないですよ。すべては、あのときがあったから今につながってると思っているんです。しんどいこともツラいことももちろんありますけど、それがなかったら今はないんやし、自分にとっては悪いことだと思っていたことでも、あれがなかったら今の自分はないって思えるので」
──そのとき失敗や挫折だと思っても、いま振り返ってみたらすべてが糧(かて)となっていたということですね。
「そうです。挫折と思ったら挫折ですけど、挫折と思わず続けている間は挫折じゃないなって思います。だって挫折って言われたら私、短大の就活で第一志望の会社に落ちてますからね(笑)」
──今となってみれば、落ちたおかげで女優として活躍されてるわけですし。
「第一志望の会社に入社してたら、素敵な人と結婚してたかもしれへん(笑)。人生は何が起きるかわからない。すべては自分次第。決めるのは自分やなと思います」
(取材・文/花村扶美)
《PROFILE》
たけはら・よしこ ◎1960年2月10日、B型。短大卒業後、証券会社に就職。その後、派遣会社や裁判所の臨時事務官を経て、2010年NSC大阪校へ入所。2016年、間寛平さんが座長を務める「劇団間座」に参加。2017年、映画『カメラを止めるな!』で映画デビュー。以後、ドラマ『ルパンの娘』『探偵・由利麟太郎』、映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』『最高の人生の見つけ方』『閉鎖病棟-それぞれの朝-』『あの頃。』『劇場版 ルパンの娘』『老後の資金がありません』などに出演。
Instagram:@donguri.lucky
Twitter:@YoshikoTakehar1
●公開中の出演作品
映画『劇場版 ルパンの娘』公式サイト
https://lupin-no-musume-movie.com/
映画『老後の資金がありません』公式サイト
https://rougo-noshikin.jp/