30歳を機に未知の世界に飛び込み、インテリアコーディネーターの資格を取得した山崎里沙さん。インタビューの第2回(全3回)では、インテリアコーディネーターがどのように仕事を進め、空間をデザインしていくのか、山崎さんなりの取り組みとアプローチをお聞きします。
これから人生を切り開いていく人のお手伝いをしたい
──インテリアコーディネーターはフリーランスでやっている方のほうが多いのでしょうか。それとも、設計事務所やデザインオフィスに所属する人が多いのでしょうか?
「実際の割合はわかりませんが、私の知る限りでは半々くらいです。大手のハウスメーカーの社員など、企業に勤務しているインテリアデザイナーもいます。建築設計士の資格を持っている人がゼネコン企業やディベロッパー(不動産開発業者)に勤めるのと同じですね。
フリーランスでやっている人は、ハウスメーカーや工務店と契約してコンスタントに仕事を受けるパターンが多いと思います。完全にフリーランスでやるには、ある程度の実績や知名度がないと難しいかもしれません」
──ハウスメーカーに所属している場合と、フリーランスでやっている場合とでは、仕事内容や物件の規模が違ったりするんですか?
「フリーランスの方は、個人住宅のコーディネートを手がけるケースが多いように思います。特に子育てを経験したインテリアコーディネーターは個人住宅を中心に依頼を受ける傾向が強く、得意にしてらっしゃいます。子育てにはどのような空間作りや環境が大事か、実際に経験してわかってらっしゃるからだと思います。クライアントにお子さんが生まれるとか、幼稚園や小学校にあがるタイミングで家を新築されるようなケースだと相談にも乗りやすいでしょうし、アドバイスもしやすいのでしょう。
商業施設やアパレルショップのコーディネートになると、設計事務所やデザインオフィスに勤めるか、フリーランスなら業務提携して仕事を請け負う感じが大半ですね」
──山崎さんはどちらのタイプになりますか?
「わたしは主人が経営している設計事務所で設計とインテリアコーディネートを担当しています。主人は個人住宅の設計も請け負えば、マンションや公共施設、総合病院などまで手広く手がけているのですが、わたしはどちらかというと、規模で言えば大きな施設で多くの人が集まる空間のコーディネートをしたり、これから開業したいとか、自分で人生を切り開いていこうとしている人のお手伝いをしたいなあと思っているんです」
──前職(教育コンサルタント業)も“子供たちのこれからを支える仕事”とおっしゃっていましたが、基本的に誰かを支えることに力点が置かれるみたいですね。
「そうかもしれません。きっとそういう性分なんです。でも、わたしはいつもそういう気持ちでお客さまと向きあっているんですよ」
クライアントとは“全力”で“雑談”しています
──山崎さんなりの取り組みやアプローチの仕方を伺いますが、仕事のフロー(流れ)を教えてください。
「ご依頼をいただいたら、まずはヒアリングをして、お客さまのご要望を伺います。個人住宅の個室やリビングなら、本来はどんな空間にしたいのか、どんなトーンでそろえたいのかを聞くのですが、わたしはクライアントが住まいを通して“どんな生き方をしたいのか”を聞くようにしています」
──どんな家にしたいかではなく、“どんな生き方をしたいのか”ですか?
「はい。家というのはクライアントによってとらえ方がぜんぜん違います。ある人は家を“くつろぎの空間”と考えるでしょうし、別の人は“一家団らんの場所”と考えます。さらに別の人は“愛情がたっぷり詰まったところが家”だと思っているかもしれないし、人によっては“仕事や時間に追われる非日常から逃れられる場所”と思っているかもしれません。こんなふうに、“家”に求めているイメージはさまざまで、みんな違いますよね。
たとえば、バリバリ働いているご主人がいたとします。家族のためにものすごく頑張っているお父さんです。そういうクライアントが住まいに“くつろぎ”を求めていたら、その人にとっての“くつろぎの空間”というのは、平日は必死に働いているからこそ、休日は仕事のことを忘れて心身ともにリフレッシュしたい、リラックスしたいところなのかな……、というふうに考えます。その方には仕事がとても大事ですが、家族も大事。どちらも大事にするのがその方の“生き方”なのだなと思うんです。お客さまのヒアリングは、そんなふうに始めます」
──飲食店などの店舗の場合もですか?
「お店の場合はもっとわかりやすくて、クライアントはほとんどが個人事業主になります。会社組織にしていてもそれほど規模は大きくないので、そのお店が“=社長の人柄、生き方”になると思っています。社長の生き方がお店の雰囲気に表れる、と言ったほうがわかりやすいかもしれません」
──お店を見れば、社長や店主の生き方がわかる?
「はい。わたしはそういうデザインやコーディネートをしたいと思っています」
──開放感がある店内にしたいとか、明るいイメージのお店にしたいなど、リクエストが抽象的だった場合は?
「それは主観の問題なので、お客さまが思っている“開放感”と、わたしがイメージしている“開放感”のすり合わせをします。わたしは海が近い街で育ちましたが、都心で育った方の開放感と地方で育った方の開放感は絶対に違うわけですから。そのためのヒアリングなのですが、お客さまには“雑談”のつもりで気楽にお話しくださいと伝えているんです。
話しながら、わたしはいろんなところにアンテナを張ります。だぼっとした服装をした方なら、脱力する感じの部屋が好みかなと思うし、パリッとした服装をしておられればシャープな感じを取り入れたほうがいいのかなとか。ゆっくり話す方もいれば、少しせっかちな感じで話す方もいるし、声のトーンも違うので、その方にとっての“開放感”をわたしなりに探ります。どこにヒントがあるかわからないから、雑談とは言ってもわたしは全力で“雑談”するんですよ(笑)」
──クライアントの“生き方”を探るようなヒアリングだと、ものすごく時間がかかるのでは?
「その方のスケジュールにもよるので、1時間でヒアリングを終わらせる方もいれば、4時間くらいみっちりと話し込む方もいます。わたしからすれば、ヒアリングが終わった時点で仕事の8割は終わったようなものです」
──ヒアリングがどれだけ重要なプロセスなのかわかりますね。ヒアリングの後の流れは?
「次はプレゼンです。CG(コンピュータ・グラフィックス)を使うことが多いのですが、クライアントから伺った話を元に、ご依頼いただいた空間の完成予想図を描きます。壁紙などはサンプルを何種類か用意して持参し、こんな感じの配色になりますという具体例をお見せします」
──ヒアリングからプレゼンまでの時間はどのくらいですか?
「色の組み合わせを考えたり、調べものをする時間を入れて、CGができるまでにだいたい10日~2週間くらいですかね。1フロアだけとか、それほど量が多くないときは1週間くらいで仕上げるときもありますけど。完成予想図をお見せして、クライアントが納得してくださったら、施工の発注になります」
──プレゼンの段階で、クライアントから“イメージしていたのと違う”というようなことを言われたりは?
「この仕事を始めて8年になるんですが、ありがたいことに、いままで一度もそういったことを言われたことがないんですよ。もし、イメージと違うと言われたら最初からやり直しますけど」
──やっぱり、ヒアリングの成果が出ているということでしょうか。
「だと思います。そのために全力で雑談しているわけですから。こう見えてもわたし、仕事にはかなりストイックなんですよ(笑)」
心理学を応用したカラーコーディネート
──実際のCGを見せていただけますか?
「はい。これが浜松市内にあるうなぎ屋さんから店内のリフォームのご依頼をいただいたときに描いたCGになります」
──驚きました。こんなに完成度が高いとは……、床の色が違うくらいで、施工後の店内はほとんどCGどおりにリフォームされるんですね。奥の壁だけ赤いのもインパクトがあります。
「あれは意図的にやってるんです。人間の心理は、手前に派手なオブジェや目立つ色合いのものがあると目を奪われるんですが、それはほんの一瞬だけですぐに慣れてしまうんですね。ところが、奥のほうや遠いところに目立つ色やちょっと変わったオブジェなどがあると、“あれは何だろう”と思って無意識のうちに近づいていく傾向があるんです」
──あの赤い壁に引き寄せられてしまうんですか?
「はい。“誘目性の技法”と言うんですが、心理学の応用したテクニックの1つです」
──心理学も勉強されたんですか?
「専門的に学んだわけではありませんが、時間があるときに文献を漁ったり、大学の講義を聴講に行ったりしてちょっとずつ勉強しています。カラーコーディネートって、心理学的な要素も大きいんです」
──それにしても、なかなかおしゃれなうなぎ屋さんですね。
「浜松と言えばうなぎですが、こちらのお店では関西風のうなぎを提供されてるんですよ。だから、あの赤も“京緋色(きょうひいろ)”という、京都に伝わる伝統的な赤を選びました。もしこれがイタリアンレストランだったら、もっと鮮やかな赤にしていたと思います」
“雑談”からクライアントの“生き方”を引き出すヒアリングや完成度の高いCGなどからもプロの仕事ぶりの一端を見せつけられたような気がします。次回(最終話)も引き続き山崎さんにインテリアコーディネーターの仕事についてお話を伺います。
※第3回:【インテリアコーディネーター#3】ずっと挑戦が続く仕事だからやりがいがある(10月29日12時公開予定)
(取材・文/久保弘毅)