アーティストとして多くのライブステージをこなし人々を魅了しつつ、昨今では舞台からも引っ張りだこの松下優也さん。2022年10月18日からは、国内外で大人気のブロードウェイ・ミュージカル『バイ・バイ・バーディー』に出演します。本作は、キング・オブ・ロックことエルヴィス・プレスリーの徴兵エピソードに着想を得て作られ、劇中では、耳に残るキャッチーな楽曲が続々と登場。不安な情勢が続く現代日本においても、心の底からハッピーになれる作品だと期待されています。そんな本作で、世界中の女性をとりこにしているスーパーロックスター、コンラッド・バーディーを演じる松下さんに、一問一答形式でお話を伺いました!
稽古では思いついたアイデアをどんどん試して、柔軟に作り上げていく
──1960年代のアメリカで、若者や女性から圧倒的な人気を誇るロックスターを演じられますが、最初に脚本を読んでから稽古が始まってからのあいだで、役柄のとらえ方や心境に変化はありましたか?
「コンラッド・バーディー自身もアーティストなので、今回の役は自分自身に通じる部分も多いのではないか、と脚本を読んだ時点からワクワクしていました。ほかのミュージカルはセリフを音楽にのせて放つことが多いのですが、今回の作品では、ライブをしている感覚があります。そこは自分が持っているもともとのノリを生かせるので、楽しんでパフォーマンスできそうだと意気込んでいます。
もともとは、エルヴィス・プレスリーの徴兵エピソードをモチーフに書かれた作品でもあるので、全体像としてはエルヴィスを参考にしています。歌はもちろん、ダンス、動き、特にステップは独特のものがあるため、取り入れてみたくて、動画などを見て勉強を重ねています。今回の演出・振付は、ダンサー・振付家として活躍するTETSUHARUさんで、8年ぶりにご一緒させていただくんです。TETSUHARUさんは、僕がある程度踊れることをわかっていてくれているので、ダンスシーンも見どころになるかなと期待しています」
──TETSUHARUさんの演出で印象に残っていることはありますか。
「やっぱりダンサーですから、芝居の演出もまず形をつけてから中身を詰めていく、といった手法で進められます。自分を信頼してくださっているのではないか、という感触があるので、稽古では締めすぎず、自由にやらせていただいてます。
稽古の時点では、とりあえず思いついたことを試してみることが大切だと思っていて。コンラッドは、自分が発する動きひとつによっても、周りがついてきたり、振り回されたりする存在なので、出てきたアイディアをどんどん試して、化学反応を楽しんでいます。決められた振付による表現はもちろんありますが、それ以外は頭をやわらかくして動いたほうが、いい方向に進めますね」
──主演のアルバート役・長野博さんはじめ、稽古場での共演者の様子はいかがですか?
「長野博さん演じるアルバートは、コンラッドのマネージャーで、裏方としてアーティストを支えることになるのですが、いちばん近い距離にいて頼れる存在なはずなのに、互いになかなか理解し合えない。そんな葛藤がありつつも、自分を支えてくれる大切な人であることはわかっている。そこにコンラッドは甘えてしまうのではないか、などと考えながら、役作りを深めているところです。アンサンブルのみなさんはとてもアツくて、その若さとフレッシュさで、舞台でもハジけてくれると思います(笑)。
なにしろ、コンラッドは大スターなので、共演者のみなさんには、ぜひ盛り立てていただきたいですね(笑)。周囲の人たちの動き方次第で、スターとしてのオーラが、より出てくると思うんです。自分は基本的には、最初からあまり固めずに稽古に入るタイプなので、投げられた球をうまく返そう、といった感覚でいます。もちろん、自分の技量が最重要課題ではありますが、とにかく、全員で熱量を上げて作り上げられればと思っています」
この作品は“ライブ感”が強い。セリフを発することなく魅せる冒頭の場面にも注目
──コメディーミュージカルということで、明るい楽曲が多いのですが、曲のおもしろさについてはどのようにとらえていますか。海外版を見ると、コンラッドが歌う曲は、全体的にパワフルな印象を受けたのですが。
「コンラッドというスターの持ち歌を歌う場面が多いので、先ほども言ったように、ライブをしている感覚を味わえます。ミュージカルとしてではなく、アーティストとしての歌い方が生かされる楽曲が多いかなと思っていて。その点は、ほかのミュージカルと大きく違う点です。
コンラッドの歌の中では『正直になれ』が、もっともテンションの上がる曲です。コンラッドのすべてを表しているような曲なのですが、自由度が高くて、歌っていてとにかく気持ちがいい。繰り返しのフレーズが多いのですが、それが多ければ多いほど遊べるんです。ちょっと”はずせる”ポイントにたくさん出合える曲です。劇場を出るときまで耳に残る曲になるのではないでしょうか」
──1幕と2幕で大きな展開がありますが、「この場面、演じがいがあるな」と思うところはどこですか?
「最初に登場する場面ですね。舞台上には出ているんですが、セリフがまったくないんです。ほかの登場人物たちがコンラッドを囲んでコンサート会場で歌っていて、自分はその中心に立っているだけで、セリフなしでみんなを夢中にさせなければならない。一言も発することなくコンラッドのスター性を出すという、難しいからこそ、演じがいがあるシーンです」
──声の出し方や歌い方で、こだわっているところはありますか?
「全体的に、相当こだわってやっています。まずは感覚で歌ってみて練習しますが、その時期が過ぎたら、次はどこまで伸ばすとか、どこの部分でフォールさせるとか、ここはビブラートをかける、かけないとか、歌い方を細かく練っていきます。
エルヴィス・プレスリーの曲はもともと聴いていたのですが、今回この役を演じるにあたり、改めて曲を聴き込んで、どのような方向性にしていくか模索しました。エルヴィスの歌い方には、“自分ならしないな”という“遊び”が多く入っています。ときには、ふざけてめちゃくちゃ低めに歌ったりするのですが、コンラッドの場合もそんなポイントがあったりするので、参考にしたいと思っています。それと、プレスリーの歌い方は、若々しくてビビッドなんですよね。その部分が自分とは違うところだと感じています」
──音楽的には、どのような道を通ってきて現在に至るのでしょうか?
「特に好きでやってきた音楽はR&B、ソウルやゴスペルです。自分の歌い方も、“聴いたらまさに、そういう音楽をたどってきたことがわかる”と、よく言われます。グルーヴ感を大事にするR&Bとか、特にアフリカン・アメリカンからの影響を受けてきたので、これをコンラッドの歌にのせられれば、僕ならではの役作りができるのでは、と考えています。
数え切れないほどいろいろなジャンルの音楽に触れてきましたが、“歌って踊って”を昔からやっていたからか、最近ではアッシャーが好きで、1997年のアルバム『マイ・ウェイ』の25周年を記念して当時の楽曲を歌い直したデラックス・エディションが最高です! 40歳を過ぎても、いまだに現役バリバリで、歌もダンスもかっこいいアーティストです」
NYでの経験が大きな糧に。最初はさほど興味のなかった舞台が今は楽しい
──そもそもミュージシャンになりたいと思った特別な動機はありますか?
「祖父母が演歌好きで、よく家で歌を聴いていたのが、音楽好きになる原点です。歌うことに関しては、ちょっと普通と違う感覚だと思います。例えば、学校の授業で歌わされたりするのが恥ずかしいと感じる人って多いみたいですが、そこで周囲との歌に対する感じ方のギャップを抱いたことはあります。自分は人前で歌うことが好きで、恥ずかしいと思ったことがなかったので。
ミュージシャンになりたいと思った動機は、ただめちゃくちゃ目立ちたいからでしたね。12歳のときに紅白歌合戦でw-inds.が歌って踊る姿を見て、“自分もやりたい!”と、すぐにオーディション雑誌を買って、レッスンを受け始めたんです」
──中3のとき、音楽の勉強をするためにニューヨークに行かれたそうですが、その若さでのニューヨーク体験はいかがでしたか?
「自分がやると言ったら、親の言うことは聞かない、やれと強制されたことは、まったくやらない。そんな子どもだったので、ニューヨーク行きを決めたときも、親は理解してくれたようです。そのころ、ミュージカルにはさほど興味がなかったんですが、せっかくニューヨークに来たんだからと観劇したり、ゴスペルを聴いたり、ダンスレッスンを受けたりと、それなりに充実した日々を過ごしていました。
日本にいたころは、自分が好きになる音楽がどちらかというとマイノリティーだったんです。ヒップホップとかR&Bは、今に比べてやっている人たちが少なく、自分たちのまわりの仲間だけだったんです。今はだんだん変わってきていますが、日本では音楽チャートのトップ10にこのジャンルの音楽が入ってくることは、まずなかったんですよね。アメリカでは、逆にそれが大衆音楽だったので、すごくうらやましかったんです。本場の音楽を目の当たりにして、“これらを自分が好きなものとしていいんだ”と思わせてもらえた。ニューヨークに行っていちばんよかったのは、それがわかったことですね」
──音楽活動をメインに活動していらしたかと思いますが、舞台に出ることになったきっかけはありますか?
「ニューヨークから日本に戻ってスクールに通っていたのですが、プロデューサーと曲を準備していき歌でデビューしました。それからは、ミュージシャンとしての活動がメインで、初めて舞台に出る機会があったのは18歳のときです。レコード会社からお話をいただいたのですが、“やってもいいかな”くらいの消極的な気持ちでした。当時は芝居にも舞台にも、さほど興味がなかったんです。ただ、性格的にまじめなほうなので、自分なりにがむしゃらに取り組んではいました。だからこそ、今、ミュージカルの舞台に声をかけていただけるような評価をいただけたのかなと思います。
今は舞台が楽しくなりましたし、現時点では楽しく稽古を進めています。演出家がトップにいて全員で共有して作るのが舞台ですから、自分の意見を伝えることはあまりありませんが、例えば今回で言うと、コンラッド・バーディーはロックスターで、みんながロックスターとして扱うからこそスターに見えるわけです。そういうことへの共通認識を、アンサンブルも含めてもっと高めていってもいいんじゃないか、さらにステップアップする段階として必要になってくるんじゃないかな、と思ったりしています」
──一度聴いたら忘れられないキャッチーな楽曲に彩られ、キュートでパワフル、底抜けにハッピーな作品で、映画化もされ、何度も再演されている作品ですが、今回の舞台の最大の見どころを教えてください。
「やはり、自分が歌っているシーンですね。心底楽しそうにやっているのがわかってもらえると思います。ミュージカルから入った役者さんだと、苦戦する役だったと思うんですよ。自分は、もともと音楽からスタートしていて、ライブをたくさん経験させてもらっていますから、ステージ上ではそれを踏襲して、いつもどおりのパフォーマンスをすればいい。そういう意味では、コンラッドは自分にとってやりやすい役といえます。ですから、ミュージカルとしても、また、ライブとしても楽しんでいただけたらうれしいです」
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita)
【PROFILE】
松下優也(まつした・ゆうや) ◎1990年5月24日生まれ、兵庫県西宮市出身。2008年ソロアーティストとしてデビュー。’11年『マイケル・ジャクソン トリビュート・ライブ 』ソング・ステージにアーティストとして最年少で出演。’16年NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』に出演。「栄輔ロス」を巻き起こし大きな話題となる。’20年YOUYA名義で海外を視野に入れた音楽活動を始動。’22年には個人事務所『Mars Art』を立ち上げ、音楽活動と並行し舞台やドラマなどジャンルの垣根を越え幅広く活動している。
ブロードウェイ・ミュージカル『バイ・バイ・バーディー』
原作戯曲:マイケル・スチュワート/音楽:チャールズ・ストラウス/作詞:リー・アダムス/翻訳・訳詞:高橋亜子/演出・振付:TETSUHARU/音楽監督:岩崎廉
出演:長野博/霧矢大夢/松下優也
寺西拓人/日髙麻鈴 内海啓貴 敷村珠夕/田中利花 樹里咲穂/今井清隆 ほか
【神奈川公演】2022年10月18日(火)~30日(日)@KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
【大阪公演】2022年11月5日(土)~7日(月)@森ノ宮ピロティホール
【東京ファイナル公演】2022年11月10日(木)@パルテノン多摩 大ホール
※公演詳細やチケット情報情報は公式HPにて→https://www.byebyebirdie.jp/