今年で俳優デビュー27年目を迎えた藤木直人さんが2年ぶりの舞台となる、奏劇vol.2『Trio~君の音が聴こえる』に出演中。作曲家・岩代太郎氏が企画した新感覚の朗読劇として注目の本作について意気込みなどを伺った。さらに50歳を迎えた心境、人生の分岐点、大切にしていることなど、プライベートについても語ってもらった。
(インタビュー記事の前編はこちら→藤木直人、“新しい朗読劇”で27年目の挑戦「演技には点数がつかないから、これまでやってこられたのかも」)
舞台は観客のリアクションが楽しい
──俳優としての活動の主軸は映像だと思いますが、舞台や演劇は、藤木さんにとってはどういう場なのですか?
「舞台は最初、恐怖でしかなかったです。お芝居というものを何も知らずに飛び込んで、映像をずっとやってきたので。映像とはこういうふうに進んでいくもので、こういう準備をして……いうのが、だんだんわかっていくわけじゃないですか。でも、舞台はそれとはまったく違って。映像で細切れでの本番しかやっていない人間が、ノンストップで芝居を2~3時間やるなんて、無理だと思いました。
でも、舞台をやっている事務所の先輩に“1か月稽古すればできるよ”って、背中を押してもらって『冬の絵空』(’08年)という作品で初舞台を踏みました。不安や緊張感はありましたけど、実際に舞台に立ってみたら、客前でパフォーマンスするという意味では、ライブと似ている感覚だなと思えた部分もあって。
あとは、やっぱり笑いが起きたり、拍手だったり、観終わったみなさんの表情だったり、そういうダイレクトなリアクションは映像では味わえないことなので、すごくやりがいがあります。やっていて楽しい部分ですよね」
──映像とは違うやりがいを感じたんですね?
「そうですね。同じ芝居を何回もやるという経験も初めてで、それはすごく勉強になりましたね。もう出来上がっているだろうと思っても、何かふとした瞬間に違う解釈や別の方法もあるんじゃないかと思えたりしますし。それまでは、台詞を覚えていけばいいやとか、作品によっては現場に行ってから覚えようみたいな時期もありましたけど。舞台で1か月稽古をしたものを観ていただくことを経験して、映像でもひとつのシーンに対する準備をしっかりしようという思いに変わりました」
──それで、頻繁ではなくても舞台をやりたいという考えになったんですね。
「でも、たまに台詞が飛ぶ恐怖心はあるので、自分からは手は挙げないですよ(笑)。お話をいただいたら、覚悟を決めてやらせていただいています。今回は台本を読みながら演じる朗読劇なので“岩代さん、ありがとう!”って感じですね(笑)」
ブレイクした状況についていけなかった
──2022年7月に50歳を迎えて、考え方などで何か変化を感じることはありますか?
「正直、そんなに変わらないですよね。ただ、こういう仕事なので50のときにライブをしたいなという思いはあったし、そういう意味では意識していました。この歳になったらね、もうめでたいなんて思えるようなことも特になく、1歳や2歳、歳をとったってほぼ誤差みたいなものだろうって。でも50ってやっぱり節目というか、半世紀生きてきたのかという感慨はありましたよね」
──俳優デビューしてからの27年は長かったですか?
「あっという間だった気もします。でも、テクノロジーは進化していくわけじゃないですか。テレビの画面の解像度が上がって、映像がすごくきれいになったので、たまに昔のドラマで4対3の映像を見ると、愕然としますよね。“俺、こんな時代から仕事していたのか”と(笑)。だから自分はあっという間だと思っていても、それだけ長い時間が流れているということですよね」
──藤木さんが20代~30代前半のころにたびたび取材をさせていただきましたが、ここ数年の藤木さんは当時よりも楽しんで仕事をしているように感じます。これまでの仕事や人生経験を振り返って、分岐点になったと思うことはあったのでしょうか?
「20代のときに世間に知ってもらった……簡単な言葉でいえばブレイクした作品(『ナースのお仕事』シリーズ、『ラブ・レボリューション』、『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』、『高校教師』など多数)はやっぱり自分にとっては大きいですし、その貯金で今までやってこられた部分もあるだろうなと思っています。でも、当時は、あまりにも物事を知らなかったから、その状況の変化についていけていなかったところもありました。どこかで窮屈だとも思っていたし、自分なりにこうしたいっていう思いが芽生えてきたということもありましたし。
1年に1本、大きな作品で大きな役をやろうという方針になったときに、自分は演技をちゃんと学んできた人間でもないし、その中で表現することにプレッシャーやコンプレックスもありました。そこで演じることもそれ以外のことも、楽しむことはなかなか難しかったですよね。だから、もっともっといろいろな作品に出て、勉強したいなと思うようになりました。それで、デビューから道筋をつくってくれていたスタッフと離れることにしたんです。それは自分の中で大きな変化でしたね」
──具体的にはどんなアクションを起こしたのですか?
「2005年の7月クールから4クール連続で、ドラマにも積極的に出ました。そこでいろいろな人に出会って話を聞く機会がありましたし。2005年4月に『おしゃれイズム』も始まって、MCとしてゲストを迎える立場になって自分の視野が広がったというか気づくことも多くありました。いろいろな可能性はあったと思いますが、これが自分らしさなのかなと。今のフラットな感じでいられるのは、そうやって自分で決めて動いたことがあったからかもしれません。ただ、表に出る側の人間がフラットだけでいいのか……と思ったりもします」
──今の藤木さんは、いい意味で力が入っていない感じが素敵だなと思いますし、いい人生を生きているんだろうなと推察しますが。
「いやいや、すごい才能を見ると自分に足りない部分を思い知らされるわけで。かといって、もうすべてを投げ出して辞めますというわけにも、家族がいるからできない(笑)。結局、表現って、演技にしても音楽にしても自分の中からしか出てこないじゃないですか。
そういった意味ではありがたいことに子どもを授かって、子どもたちが成長する中で体験させてもらうことや、『おしゃれイズム』でいろいろなゲストの方にお会いして感じることもあります。自分自身の経験は間違いなく演技にも返ってくることだと思っているので。何も知らなかった20代の自分とは違いますよね」
釣りユーチューバーにハマって
──父親になって変わった部分もありますか?
「そうですね。少し楽になったというのはありました」
──2020年にはベスト・ファーザー イエローリボン賞(芸能部門)も受賞しましたが、子育ても楽しんでいますか?
「楽しいことだけじゃないですよね。小さいときは可愛い、楽しいで済みますけど小学生になれば勉強も始まって、人間関係も始まってくるわけで。反抗期になったら言うこと聞いてくれませんから(笑)。
高校1年生の長男には、理屈で説明することをしていたら、理屈っぽいところが自分と似てしまって。だから、僕みたいな理屈っぽい女の子がいたら嫌だなと思って、下の女の子にはいろいろ言わないようにしています(笑)。たまには、叱ることもありますけどね(笑)」
──怒っている藤木さん、想像つきませんね(笑)。それでは今、生き方で大切にしていることは?
「やっぱり自分が楽しいって思ったことを、好きにやることかな。9年前くらいから釣りにハマっているんですけど。いろんな釣りを勉強している中で、釣りユーチューバーっていう人たちがいるのを知って。それまでYouTubeは全然見なかったんですが『釣りいろは』というYouTubeチャンネルをよく見るようになって。見ているうちに“これに出たい!一緒に釣りしたい!”って思って。こちらから申し出て、今、出まくってます(笑)」
──ご自分から出演オファーするとはすごい!(笑)ぜひ拝見します。プライベートで大切にしている時間は?
「ここ1年は、料理にハマってよく作っていましたね。それも、2021年のドラマ『恋なんて、本気でやってどうするの?』でフレンチのシェフ役をやって、その役作りがきっかけではあるんですけど。ドラマの撮影中は、ほぼ毎日、台所には立つようにしていましたね。家族や知人にふるまったりもします」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
藤木直人(ふじき・なおひと) 1972年7月19日、千葉県出身。早稲田大学理工学部在学中に映画『花より男子』花沢類役に抜擢され、1995年デビュー。以降、フジテレビ系『ナースのお仕事シリーズ』、日本テレビ系『ホタルノヒカリ』シリーズなど数多くの話題作に出演。舞台では2008年に初舞台を踏み、その後出演した蜷川幸雄演出の『海辺のカフカ』ではワールドツアーを経験。蜷川氏の最後の演出作となる舞台『尺には尺を』では主演を務めた。1999年にシングル『世界の果て~the end of the world~』でCDデビュー。俳優活動と並行して音楽活動も精力的に行う。全国ツアーでのライブ本数は250本以上を数える。2022年7月には50歳記念のライブツアーを行い多くのファンが駆けつけた。そのライブを収録したDVD/Blu-ray『NAO-HIT TV Live Tour ver13.0~L-fifty-~』が12月21日発売予定。近年の出演作は、【ドラマ】『恋なんて、本気でやってどうするの?』(’22年)、連続テレビ小説『なつぞら』(’19年)、『グッド・ドクター』(’18年)【映画】『夏への扉-キミのいる未来へ-』(’21年)【舞台】『グッドバイ』(’20年)、『魔都や曲』(’17年)など。ラジオ『SPORTS BEAT supported by TOYOTA』(土曜10時~10時50分/TOKYO FMほか)メインパーソナリティ。
●公演情報
奏劇 vol.2 『Trio~君の音が聴こえる~』
【原案/作曲】岩代太郎
【脚本】土城温美
【演出】深作健太
【出演】三宅健 大鶴佐助 黒田アーサー サヘル・ローズ 藤木直人
【演奏】三浦一馬(バンドネオン) 西谷牧人(チェロ) 岩代太郎(ピアノ)
【日程・会場】2022年12月15日(木)~12月24日(土)よみうり大手町ホール(読売新聞社ビル)
公式サイト https://tspnet.co.jp/sougeki-2022
公式ハッシュタグ #奏劇トリオ