イントロクイズの全国大会優勝を皮切りに、イントロマエストロとして各メディアでイントロの素晴らしさを紹介している藤田太郎さんへのインタビュー企画。前編ではイントロの世界にのめり込んだ背景や、aikoさんやOfficial髭男dismさんなど秀逸なイントロを生み出すアーティストについて紹介していただいた。
【第1弾→「aiko、official髭男dismのイントロは神」3万曲のイントロを最短0.1秒で答える男! イントロマエストロ・藤田太郎さん】
第2弾では、藤田さんが独自に調査した1980年代から2020年代の”イントロ史”についてインタビュー。実はここ30年で10秒も短くなっているイントロのトレンドについて伺った。
実は3秒も長くなっていた! 1980年代と1990年代のイントロ比較
──これまで20年以上、イントロを研究してきた藤田さんですが、「イントロ」ってトレンドとかあるんですか?
「ありますね。個人的に毎年のヒットチャートTOP100を集計して調べてるんですよ。
以前、イントロクイズを出題したときに“最近はイントロがない曲も増えているから、藤田さんも厳しいね”と言われてカチンときて“本当に短くなってるのか調べてやろう”と思って(笑)」
──(笑)。それすごく興味深いです。各年代でどんな特徴があるんですか?
「まず’80年代と’90年代を比較すると、実はイントロが3.3秒も延びているんですよ」
──え、どうしてだろう……。
「背景として大きいのは『ザ・ベストテン』(TBS系)が’89年に終了したことですね。あの番組は生放送なんですが、イントロの間に久米宏さんや黒柳徹子さんが曲紹介をします。
だからヒットチャート上位の曲は、自ずとイントロを口上に合う長さにしなきゃいけなかったわけです」
──なるほど! そこは盲点でした。番組のバイアスがあるのか……。
「そう。その代わりに同年『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS系)が始まります。そして’90年代にはバンドブーム・シンガーソングライターブームが来るんですよね。すると何が起きると思います?」
──え……なんだろう……。
「作曲家や編曲家に頼むのではなく”自分で曲を作ること”に重点が置かれるわけですよ。だから“早々に歌パートに進む”ではなく“イントロもこだわって作る”という感覚に変わっていくんですね。
特にバンドは、楽器の演奏もありきでバンドですよね。だからよりイントロにも価値を見い出して制作していくという背景があるんです」
──おもしろいです。理にかなってますね。
「中でも’90年代のイントロを延ばした立役者がX JAPANとTM NETWORK……というかリスペクトを込めて言うと“YOSHIKIのピアノ”と“小室のキーボード”ですね(笑)。例えばX JAPANの代表曲のひとつ『Say Anything』はイントロが約54秒あります。TM NETWORKも代表曲のイントロは軒並み30秒以上です。
そしてこの流れでTK(小室哲哉)ブームが来ます。個人的に“小室哲哉プロデュースの曲の売り上げTOP50”のイントロ時間を調べたんですが、1~2秒と40秒以上の比率がほかのアーティストと比べて大きいことがわかりました。globeの場合、マーク・パンサーのラップをイントロに加えるのか否か議論が分かれるところなんですが(笑)。
だから歌を聴かせるか、曲を聴かせるかで割り切って作ってたんだなぁ、と思いましたね。ちなみに最長だったのが安室奈美恵さんの『a walk in the park』で、イントロ秒数はなんと78秒です」
イントロ縮小傾向は2022年で下げ止まりか
──それ以降のイントロはどう変わっていくんですか?
「’00年代になって、一気にイントロが短くなるんですよね。バンドブームが終わったこともありますが、大きな要因は“携帯電話の普及”と“着メロ・着うたの流行”なのかな、と思ってます。
前編でもお伝えしたとおり、当時自分は着メロを販売する会社にいたんですが、イントロではなくみんなサビに注目していた時代でした。その結果、イントロに対する注目度が下がり、どんどん短くなっていったんじゃないか、と思います。
今イントロクイズを出題しても、’00年代の楽曲はかなり正答率が低いんですよ。それくらいサビが重視されていた時代でしたね」
──なるほど。確かに、そのころは子どもでも着メロ設定していましたね。
「ですよね。’00年代のヒットチャートは、オリコンよりもレコチョクランキングのほうが正確だと思うくらいですね。握手券でCDを売る文化も出はじめたころですし。
この後、スマホに切り替わってもイントロ秒数は減り続けているのが実際のところです。“本当にイントロが短くなってるのか”と、半ばキレぎみで始めた調査でしたが、実際どんどん短くなってましたね(笑)」
──この背景としては、どのような要因があるのでしょうか。
「サブスク型音楽配信サービスの流行はあると思います。CDの時代って1枚いくらの世界だから、借りたり買ったりしたら最後までちゃんと聴くじゃないですか。
でもサブスク型のアプリケーションだと自由に次の曲にスキップできるんですよね。だからアーティスト側も飛ばされないように、”歌い出し”から始めることでインパクトをつけるようになったんだと思います」
──そう言われると、私もピンと来なかったらスキップしちゃいますね。
「そうでしょ。日本で最初にサブスクでヒットした曲は、あいみょんさんの『君はロックを聴かない』(2017年)だといわれていますが、これ以降は特にイントロがない曲が増えているんじゃないかな。
ただ一方でグラフを見ていただくと、2020年~2021年では2.1秒も平均イントロ時間が短くなっているのに対して、2021年~2022年では0.4秒しか減っていないんですよ」
──本当だ! 下がり幅が圧倒的に短くなってますね。
「そうなんですよね。特に’22年のTOP100にはAdoさんの曲が10曲もランクインしていて、うち8曲がイントロ0秒~2秒と、ほぼ歌い出しから始まります。それなのに、全体のイントロ時間の平均はほとんど変わっていないんです。
これを見ると“歌い出しでインパクトをつける”という手法が限界に来たのかもしれないな、と。イントロが短くなった中でも、前編でご紹介したOfficial髭男dismさんや、あいみょんさんは多くの曲で長めのイントロを用いていますし、今後は“声”とは違った手法でイントロにインパクトをつけるようになると思いますよ」
──なるほど。ではイントロ業界的には、まだまだ楽しめる余地があるわけですね。
「逆に楽しい時期ですよね。“イントロの秒数が減る”ということは、イントロに注目が集まっていることの証明でもありますから。
だからサブスク型音楽配信サービスは逆に追い風だと思っていて、着メロと違って最初から聴けるのでイントロがより重要視されるようになるんじゃないかな、と思いますね」
実は15年で飛躍的に人口が増しているイントロクイズ界隈
──イントロクイズの界隈は以前と比べて盛り上がっているんですか?
「はい。コロナを経てオンラインでのイントロクイズ人口が増えましたね。今はだんだんとリアルイベントも盛り上がっている印象があります。
私が全国大会で優勝した’08年は参加者が50名ほどでしたが、今は登録者が200人ほど集まっているイントロクイズ大会があるという話を聞きます。QuizKnockさんなどの影響もあって、クイズ人気が高まっているんじゃないかな。
私が東京都文京区で月1回開催している、クイズ専門店『SODALITE(ソーダライト)』の早押しイントロクイズイベントにも、10代から70代までさまざまな人がやってきますね」
──え~、そんなに幅広い人が参加しているんだ。すごいですね。
「これがおもしろくて……。最近のヒットソングを出題すると若い方はすぐ答えられる。でもご年配の方は“そんなのわかんないよ~”って。一方で昭和歌謡を出すと、その逆転現象が起きるじゃないですか。
でもみんな早押しクイズで強くなりたいんですよ。だから、翌月には若い方もご年配の方も、サブスク配信サービスで自分の世代じゃない曲を聴いて、ちゃんと答えられるようになっているんですよ(笑)。
参加される人は変に意固地じゃない、というか。世代じゃない曲も吸収していくフラットな考え方の人が多いと思います。
中には“クイズをきっかけにアーティストのファンになりました”という人もいます。これはやりがいというか、イントロの出題を続けていてよかったなぁ、と思える瞬間ですね」
──いいですね。なんだか、すごくほっこりする空間です(笑)。
「ただ、サブスクでイントロクイズを練習している人の弱点として、サブスクに解禁していないジャニーズ、ハロプロ、山下達郎さんの曲はわからないんですよね。明らかに押すのが遅いんですよ(笑)」
──今の世相というか。サブスク解禁しないことで認知度が下がっていくのかもしれませんね。早く解禁してほしい(笑)。
「ほんとそう思いますね」
──藤田さんはこれまで数十年イントロに携わっているわけですが、ぶっちゃけ「もういいかな」と思うことはないんですか?
「よく質問を受けるんですが、飽きないです。というのも、ヒットチャートって毎日更新されるじゃないですか。つまり毎日新しい刺激があるんですよ。
イントロクイズも5年間毎月出題していますが、やっぱり回答者のみなさんが楽しんでくれますし、変化があるから楽しいですね。
例えばスピッツさんの『ロビンソン』は、もうぶっちゃけ300回くらい出題しているんです(笑)。だけど最近だと『ロビンソン』を知らない若い子が現れたりするんですよ。
時代に合わせて変化があるのが楽しいので、イントロにハマり続けられるのかな、と思います」
──「歌は世につれ、世は歌につれ」というか、音楽を通して時代や世相が見えるのっておもしろいです。ちなみに今後やりたいことはあるんですか?
「いま特番として放映されている『クイズ!ドレミファドン』(フジテレビ系)の制作をするのがずっと夢ですね。やっぱり”イントロクイズの王様”といっても過言ではない番組だと思うので、ぜひ携わりたいです。今年はずっと“やりたい”と宣言していこうと思っています(笑)。
それと今の活動を通して“イントロは音楽を楽しむ入り口だ”ということを、どんどん伝えていきたいですね。“曲の自己紹介となる部分”という意味で、アーティストの方々が本当に心血注いで作っている部分ですので、もっと多くの方にイントロの重要性を理解していただけたらうれしいです」
イントロは日本人のバロメーターなのかもしれない
1時間の取材は「ハッ!」という発見の連続だった。日本人がいかに音楽を愛しながら暮らしているのか。そしてイントロというセクションが「日本社会のバロメーター」として機能しているような感覚を受けた。
イントロの長さは「リスナーを離さないため」に伸び縮みしている。その根本は「その時代の人が長いイントロを許容できるか」という尺度だ。そう考えると、余裕のあるバブル期には許せたイントロの長さを、現代を生きるわれわれは我慢できないのかもしれない。「あれこれ選べる便利さ」は「常にあらゆる刺激を受ける忙しさ」に言い換えられるのかも……なんてちょいちょい「ハッ!」とした。「ハッ!」としていたら1時間たっていた。
いろいろ選べる今だからこそ、いま一度「自己紹介」であるイントロに耳を傾けてみたい。その先に好きなアーティストの熱量が垣間見えるに違いない。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)
藤田さんのTwitter→https://twitter.com/taicotarofujita
藤田さんの公式サイト→https://taromai.wixsite.com/taicotaro
藤田さんが出題者として登場するSODALITE→https://quiz-sodalite.com/
藤田さんが(ドレミファ)ドン太郎として登場する「うたドン!【イントロクイズ】」→https://www.youtube.com/@utadon