広瀬すずさんを主演に迎え、田島列島さん(『子供はわかってあげない』)の傑作コミックを、前田哲監督(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『そして、バトンは渡された』)が映画化した『水は海に向かって流れる』。
年齢も仕事もバラバラな、クセ者ぞろいの住民が暮らすシェアハウスを舞台に、いつも不機嫌そうにしているOLの榊さんと、そこに居候することになった高校生の直達の出会いから生まれる変化を中心に見つめた、爽やかな物語です。
クールなオトナ女子・榊千紗役で主演の広瀬さんの相手役・熊沢直達に抜てきされたのは、大西利空さん。2023年5月に17歳になったばかりの現役高校生で、生後5か月で芸能界入り(!)を果たし、子役として活動。
映画『キングダム』(2019年)では信の幼少期役、映画『るろうに剣心 最終章 The Final』(2021年)では明神弥彦役を務めるなど、キャリア十分の若手注目株です。ですが、本作ほどの大役を前に「自分にできるかな」と不安だったとか。
大西さんへのインタビューで、広瀬さんとの共演の感想や、これから歩んでいく役者人生の「ターニングポイントになった」と振り返る、ある場面の撮影エピソードなどを聞きました。
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広瀬すずの相手役として物語の二本柱となる重要なポジションを演じた
──直達役はオーディションでつかんだとか。広瀬すずさん演じる榊さんの相手役で、二本柱と言っていい、本作における大きなキャラクターですね。
“自分にできるかな”という疑問と不安が、最初に背負った感情でした。オーディションに受かったと聞いてから原作を読んだのですが、自分の役の大きさにめちゃくちゃビックリしました。
広瀬さんは、本当にいろいろな作品に出演されている女優さんで、テレビをつければ出ていらっやいますし、もちろん表現力もすごいです。
憧れる存在だったので、そうした方の相手役として作品を成り立たせていくというのは、すごいプレッシャーでした。決まった喜びはもちろんありましたけど、最初はプレッシャーのほうが勝っていました。
──直達をどんな子だと思いましたか?
芯を持っていて、すごく正直でいい子だなと感じました。僕も物事を正直に言うタイプで、我(が)が強いところがあるので、そのへんはすごく共感できました。
ただ、自分より年上の女性に恋心というか憧れを抱く部分は、あまり共感できなかったんですけど、役として体験できたので楽しかったです。
──年上への恋心はわからないですか?
僕自身は同じ年代のほうがわかり合える部分があるかなと思います。直達は環境のこともあって、僕よりはちょっと大人なのかなと思いました。
──実際に、広瀬さんと一緒にお芝居されていかがでしたか?
榊さんが感情を出すシーンがあって。普段の榊さんって、あまり感情を表に出さないんです。その場面は、直達に向けての感情ではなかったのですが、隣にいて、直達もグッと感じるものがあり、純粋に“やっぱり広瀬さんはすごいな”と思いました。
──ご本人の印象は。
榊さんはクールでミステリアスな感じですが、広瀬さんはすごく優しくて明るくて面白いです。すごく気さくで話しかけやすい方でした。
大役に自分らしくないほどプレッシャーを感じた
──大西さんの、ここ何年かの印象的な役柄として『キングダム』『るろうに剣心 最終章 The Final』を挙げる人も多いかと。両作とも動のイメージが強いですが、今回は静かな人間ドラマです。演技に向かう際に何か違いはありましたか?
役柄自体が違うので、もちろんそこに気をつけますが、作品の系統が同じなら何かが同じということもないですし……。役が違えばすべてが違うので、ジャンルによってどうというのはないです。一作一作、出合う役柄ごとですね。
──直達の感情が一気にあふれ出たシーンがとても印象的で、見ているこちらも一緒に泣いてしまいました。あの場面は2日間にわたって撮影されたと聞きました。もともと2日間で撮る予定だったのですか?
もともとは1日で撮影する予定だったんですけど、うまくいかなくて、前田監督が次の日に持ち越すことを決めてくださったんです。それで翌日に、仕切り直してやらせていただく形になりました。
うまくいかなくて悔しくて。いろんな方から声をかけていただきました。監督はもちろん、スタッフさんや、直達の叔父さん役の高良健吾さんにも励ましていただいて、気持ちを切り替えていきました。
その日、家に帰ってから、あえて撮影のことは何も考えずに、次の日までに自分を真っ白の状態にすることができました。
──真っ白の状態にすることで、次の日にやり遂げることができたと。
自分のやり方として、それが合ってると思うんです。これまでも、頭で考え込みすぎずにやってきました。けれど今回は、脚本を最初に読んだときから、あのシーンがとても大事だということはわかっていましたし、クランクインしてからその日まで、ずっとそのシーンの撮影日のことを気にしちゃってたんです。
大きな作品で、大きな役ですし、おっしゃってくださったように、見る方の印象にも残る本当に大事なシーンです。この作品に与える影響の大きさというのが、自分の中でわかっていたので、考えすぎてしまいました。
それがよくないとわかっていたんですけど、それでも考えずにはいられなくて……それでやっぱり1日目はうまくいきませんでした。
でも、そのまま落ち込んでいてもしょうがないので、ここからは本当に“何も考えずにいこう!”とゆっくりお風呂に入って、切り替えて臨みました。
大きな役柄を演じ切り、役者としての思いがますます強く
──大西さんは、年齢は若くとも芸歴は長いですが、本作に携わったことによって自分の中で何か変わったことはありますか?
今お話ししたシーンでつまずいたことが、僕にとっていちばん大きな出来事でした。そうした大事なシーンに向けての心構えって、すごく大事なことだと思うんです。
大きな作品、大きな役柄を前にして、今まで当たり前にできていたことができなかった。そこで実際に経験した(気持ちの)切り替えは、すごくためになったと思いますし、ターニングポイントになったのかなと感じます。
──現在17歳です。まだお若いですが、今後も役者としてやっていきたいという気持ちは強いですか?
強いです。いろんなお仕事をしたり、先輩の姿を見たりして、どんどん強くなっています。今回の仕事も経て、ますます“自分は役者を続けていくんだな”という思いです。
──どんな役者になっていきたいですか?
人の心を動かしたいです。そこを極めたい。まずはこの『水は海に向かって流れる』がとてもいい作品になっていて嬉しかったです。すごくキレイで鮮やかで、いろんな感情が楽しめる映画です。ぜひ見てください。
(取材・文/望月ふみ、編集/本間美帆)
【PROFILE】
大西利空(おおにし・りく) ◎2006年、5月16日生まれ。東京都出身。生後5か月で芸能界入りし、ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』(フジテレビ系)にて初のレギュラー出演。『3月のライオン』(2017年) 、『キングダム』(2019年)などで主人公の幼少期を演じた。近年の映画出演作に『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(2019年/声の出演)、『るろうに剣心 最終章 The Final』(2021年)。Instagram→@rikuonishiofficial