東海、近畿、九州の一部と沖縄で熱中症の危険度が「警戒」ランクとなったこの6月。7月には東北南部や関東甲信の内陸部も「厳重警戒」になると予想され(日本気象協会発表による)、熱さへの対策が欠かせないシーズンがやってきた。とはいえ、暑さへの心配と比例するかのようにおいしくなるのが、仕事のあとや入浴後に、「プハー!」と飲み干す一杯のビール!
お仏壇でも見かける、気になるアイツ
そんな「イケる口」の人にとってちょっと意外な存在が、「ミニ缶」といわれる缶ビール。レギュラー缶と呼ばれる350ml入り缶ビールの半分以下、手のひらにすっぽり収まる大きさの135mlと、ロング缶と呼ばれる500ml入り缶ビールのちょうど半分の量の250mlの2種があって、ビールとは無縁の下戸の方々も、仏壇にちょこんと収まっていたり、お盆のお墓でお供え物になっているのを見かけたことがあるかもしれない。お供えとして絶妙のサイズ感から、「いったい誰向け? もしかして仏さま専用!?」と呑んべえたちには、ちょっと気になる存在になっているのだ。
「いえいえ(笑)、“お供え用”というニーズがあるのは知っていますが、仏さまでなく、ご自分で飲む方が9割です。お酒の弱い方や高齢の方など、“ちょっとだけ飲みたい”という方に人気です。135ml缶は年間およそ200万人、250ml缶はおよそ140万人の方にご愛飲いただいていて、構成比で見てみると、50代以上の女性によく召し上がっていただいています」
こう語るのは、1958年に日本で初めて缶ビールを発売したアサヒビール株式会社でマーケティング本部ブランドマネージャーを務めている岡村知明さん。岡村さんいわく、同社でのミニ缶の発売は40年以上前の1981年で、250mlが先行するかたちであったという。
「ビールはもともと瓶ビールが主流でした。技術が進むことでより軽く、より冷やしやすい缶ビールが開発され、レギュラーサイズを中心に、ご家庭にも缶ビールが浸透していったのです。そんな中、スポーツのあとや休日の昼間などに“ちょっと飲みたい”“飲みたいけれど350mlでは多すぎる”“高齢になって若いころのような量は飲めなくなった”といったニーズが顕在化。それで開発されたのが、250mlのミニ缶だったというわけです」(岡村さん)
それほどお酒に強くない人たちが新発売のミニ缶で無理なく無駄なくビールを楽しめるようになると、消費者の要望は「もっと少量」の方向に広がっていった。「寝る前に少しだけ飲みたい。それだと250mlでも多すぎる」「350mlにほんのちょっとプラスしたい」などの声を受け、250ml発売から3年後の1984年に発売されたのが135ml缶。「超ミニ缶」ともいわれるサイズだったという。
「2杯目用に」「寝る前にも」で生まれたミニ缶の“なるほど!”な利用法
このような経緯で開発されたミニ缶だったが、需要が思わぬ方向へと広がっていった。
「ハーフ&ハーフでのミニ缶需要ですね。ビールと黒ビールを1対1で混ぜて作るこの飲み方では、350mlのレギュラー缶2缶では多すぎる。250mlのミニ缶ならば、計500mlとロング缶と同じ量になるんです」(岡村さん)
500mlならば市販のグラスも豊富だ。なるほど、納得。そんなところに目をつけるとは、呑んべえたちは、実に目ざとい。
ちなみに現在、アサヒビールでは、主力商品の「スーパードライ」での135ml・250ml両サイズでのミニ缶を皮切りに、今年2月にはまろやかな味わいで人気爆発中の「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」でも250ml缶を発売。「アサヒ生ビール黒生」も、期間限定で250ml缶を発売した。
「ミニ缶の売上容量構成比はビール全体のわずか0.6%程度」(岡村さん)と低いものの、発売後40年にもわたって愛され続けている。ミニ缶が買える場所は主にスーパーで、次にお酒のディスカウントストアやドラッグストアだという。
ビアカクテル用としても新境地を切り開きつつ、ミニ缶はメーカー想定外の需要も秘めた商品のようである。
アサヒビールでは、「アサヒ生ビール(通称マルエフ)」で「ワンサード」の楽しみ方も提案している。
「ワンサードとは2つの飲み物を2:1の割り合いで混ぜたもののこと。『アサヒ生ビール』を2と『アサヒ生ビール黒生』を1のワンサードなら、『アサヒ生ビール』のまろやかなのどごしを楽しみつつ、黒ビールらしい香ばしさもほのかに味わえます。黒ビール特有の風味を抑えた、より飲みやすいほうがお好きな方には、ハーフ&ハーフよりもおすすめですよ」(岡村さん)
おいしく飲むなら温度は4~6℃。グラスはよく洗って自然乾燥
ミニ缶はもちろん、ビールをおいしく飲みたいのなら、一にも二にも温度が肝心と岡村さん。「なんといってもよく冷やすこと。弊社としての推奨温度は夏場は4~6℃、冬場は6~8℃。そしてビールは鮮度が大事なので、製造の日付がなるべく新しいうちに飲んでいただくのが理想です」(岡村さん)
グラスを冷やす・冷やさないかは好みだが、よく洗って自然乾燥させることを心がけたい。
「グラスに目に見えない汚れやホコリがあると、気泡ができてしまうんですね。見た目もよくないし、ビールの味を損ねます。ですからグラスはふきんで拭かないほうがいい。細かな繊維などをつけないためです」(岡村さん)
クリーミーな泡を立てるには、ほどよい位置から衝撃を加えずに注ぐことが大切だとか。
「乱暴に入れすぎるとカニ泡のような粗いものになってしまいます。そもそも泡とは、冷えているほうが粒は小さくなるものなので、クリーミーな泡をお楽しみになりたいのなら、よく冷やしておくことです」(岡村さん)
「ビールは泡が命」のビール好きな人ならば、缶のフタを開けるときめ細かい泡が立ち上がる仕組みで大ヒット中の「スーパードライ生ジョッキ缶」がおすすめと岡村さん。
では、よくやりがちな、「しまった! ビール冷やすの忘れちゃった!」という緊急事態には?
「早く冷やしたいときには、缶ごと氷水に浸し、くるくると回してください。こうすると中のビールが対流して、効率的に冷やせます。また、キッチンペーパーを濡らして缶に巻き、冷蔵庫に入れてもいいでしょう。気化熱の原理で早く冷えます」(岡村さん)
ビールがいちばんおいしい季節はこれから! この10月には酒税法が改正され、ビールは350ml缶で6・65円ほどの値下がりの予定と、呑んべえたちが飲む理由に事欠かない。コロナ禍も一区切りしたことだし、おおいに飲んで、食べて、この夏はぜひとも盛り上がりましょう!
(取材・文/千羽ひとみ)
《PROFILE》
岡村知明(おかむら・ともあき)さん
アサヒビール株式会社 マーケティング本部 ビールマーケティング部担当副部長 ブランドマネージャー。量販店担当営業を経たのち、2008年よりビールのマーケティングを担当。リサーチ担当を務めたあと、「スタイルフリー」や「ザ・リッチ」のマーケティング担当を経て、「スーパードライ」のブランドマネージャーに。