2022年7月に上演された新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』でヒロインのナウシカ役を務めるなど、歌舞伎界・若手女方として人気上昇中の中村米吉さん。華麗なお姫様から市井の女性まで幅広く役に取り組む姿勢と実力は高く評価されている。また、その美しさと愛らしいキャラクターが“可愛すぎる女方”としてSNSでも話題に。
2023年春には新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』出演も控える米吉さんが、舞台『オンディーヌ』で歌舞伎以外の外部作品に初挑戦。新年1月6日からは東京公演が開幕します。インタビュー後編では美しさの秘訣、こだわり強めのスイーツ愛、ハマっているもの……など、プライベートについてもたっぷり伺いました。
(インタビュー記事の前編はこちら→“可愛すぎる女方”で大注目の歌舞伎俳優・中村米吉がフランス古典劇『オンディーヌ』で美しすぎるヒロインを熱演!)
安手の化粧水を惜しげもなく使っています
──今回の『オンディーヌ』のお姿も美しいですが、素顔もお肌ツルツルの米吉さん。日ごろから美しくあるために心がけていることは?
「全然そんなことないですよ~(笑)。本物(女性)にはかなわないんですから。でもね、本当に何も気にしていないんですよ。ただ、歌舞伎の舞台に出ておりますとほぼ毎日、多いときは4回くらいお化粧して、落として、顔を洗って……を繰り返しているので、まあダメージもありますけど肌をきれいにする回数は多いかもしれないですよね」
──スキンケアにも気を遣いますか?
「嫌味な言い方ですけど、特には……(笑)。化粧品も高級なものとかを使ってるわけではないです。ドラッグストアで売っているオードムーゲを、子どものころからずっと使っていますね。惜しげもなく、バシャバシャと! あとはやっぱり、寝る、食べるかな。それ以外は特別なことは全然していないです。だから、いつもメイクさんに怒られちゃうの。“もう少し気を遣ったほうが肌寿命が延びますよ”って」
──『踊る!さんま御殿!!』に初出演した際にも、女方らしい顔立ちや話し方が可愛いと注目を浴び、SNSでも「可愛いすぎる女方」として話題になりました。「可愛い」と言われるのは嬉しいことですか?
「女方として、可愛いとおっしゃっていただけることは、非常にありがたいことですし、わたくしも“可愛い”で売っておりますので(笑)。でも、その可愛さってものが、事と場合によっては必要ないときもありますからね。歌舞伎でもそうですし、どんなお芝居でもそうでしょうけれど、可愛いじゃなくて、きれいである必要があるとか、カッコいい必要がある役っていうのは、もちろんありますから。可愛いだけではいけないってことは、常日ごろからよくも悪くも気にしていますね」
たい焼きは、天然の焼き立てがいちばんおいしい
──せっかくの取材の機会ですので、米吉さんのお人柄やプライベートについても伺いたいのですが。ご自身のご性格をひと言で表すと?
「人見知り……。人見知りだから、取材なんかだとすごくしゃべるんですよ。本当に仲のいい人って、しゃべらなくていい人じゃない(笑)。無言が平気な人が本当に仲のいい人だから、僕って人見知りだなって、すごく思います」
──そういう方だとは思いませんでした(笑)。取材者のこともすごく受け入れてくださいますし、サービス精神のある方だなと。
「だって、取材者を拒否したら、取材にならないじゃないですか(笑)」
──ありがとうございます(笑)。休日はどんなふうに過ごすことが多いですか?
「ボーッとしてるんですよ、ずっと。ボーッとね」
──趣味とかはないんですか?
「ほんと、無趣味な人間なので……。でも、歌舞伎役者は比較的お休みが少ないんです。毎月25日間公演があると、だいたい26日か27日に千穐楽で、次の舞台は翌月の2日か3日から始まるので、その間の28日~2日までの間にお稽古をするわけですよ。で、また初日が始まるというのを繰り返していますので。純然たる何もないお休みがあまりないんです。
2020年から休演日が生まれたんですけれど、それまでは基本的には休演日という概念がなかったんです。だから、休演日は何をしたらいいかわからないんですよ(笑)。ちょっと買い物でも行くかとか、映画でも観るかとか、考えますけど。でも結局、もう月末だし来月の芝居の勉強をしようかなってことになるので」
──なるほど……。では、気分転換にすることはありますか?
「甘いものが好きなので、甘いものを食べに行きます」
──それはいいですね。特に好きなスイーツは何ですか?
「手軽なものでいえば、たい焼きです。たい焼きって、天然と養殖があるの、知ってます?」
──(笑)。それはどのような意味でしょうか??
「鋳型にば~っと生地を流し込んで、あんこを乗っけて、いっぺんにたくさん焼くのが養殖。鉄の棒の先についた小っちゃい鯛の型で1個ずつ焼くのが天然なんです。でも今、天然のたい焼き屋さんは減ってきていて、人形町と四谷と麻布十番にあるのは天然物の有名なお店ですよね。僕は、やっぱり天然が好き。それも焼き立てがいちばんおいしい! 天然の鯛は鮮度が大事だからね(笑)」
──今、たい焼きの概念が変わりました。
「そうでしょ。だから、たい焼きを箱でドンッて、差し入れでいただくのもありがたいけど、やっぱり焼き立てをお店の前で食べるのがいちばん幸せ。可愛らしい鯛の中には熱されたあんこという、最も危険なものが入ってますから、心して噛みつかなくてはなりませんけど(笑)」
──お酒は飲まれないんですか?
「多少はいただきますよ。でも、飲んだ後の締めにラーメンを食べたりするのは、理解できないんです。僕はお酒をいただくと、甘いものが食べたくなるから。だから、恨めしいのは24時間開いているコンビニなわけですよ。お酒を飲んで判断力が鈍っているときに、プリンとか、シュークリームとか、季節のスイーツとか、ついつい買ってしまうから(笑)。
あとスイーツでおススメは、子どものころから嗜(たしな)んでいる、カステラに牛乳をかけたもの。1本食べきれなくて硬くなってしまったカステラも柔らかくなって、おいしくいただけます。試してみてください」
映画や小説をどうやって歌舞伎にするか妄想して楽しむ
──ぜひ、試してみます。何かハマっているものはありますか?
「今はよしながふみさんの『大奥』を1日1話無料になる漫画アプリで読んでいます。以前にドラマ版を視聴したりして、男女逆転の設定やあらすじは知っていましたが、あらためて最初から読むと史実がうまく漫画のストーリーに生かされていて、感心させられてばかりです。もうすぐ無料話数が終わっちゃうので、自分へのクリスマスプレゼントに全巻買いそろえようと思ってます。
あと僕は歴史が好きで、ず~っと『信長の野望』シリーズのゲームをやってる。しかも何作か前の『信長の野望・創造』を。推し武将は今川義元なんで、仇である信長では絶対プレイしないの(笑)!
ハマっていることではないですけど、頭の中で妄想するのが好きで……映画を観るたびに、どうやって歌舞伎にするかっていうのを、ずっと考えるんですよ。例えば『アナと雪の女王』は、エルサが『レット・イット・ゴー』を歌い終わったところで、雪布を振りかぶせて、お城をバラして道具転換をするとか。そうすると、花道が使えるから、アナとクリストフがトナカイを連れて花道を来ると、スッポン(歌舞伎座の花道にあるせり上がりの仕掛け)から、雪だるまのオラフが出てきてしゃべる……って芝居が、幕外でやれる。なんてことを考えているのが楽しいんです」
──将来、米吉さん演出の新作歌舞伎を観てみたいです。
「ハハハ。『アナと雪の女王』は難しいかもしれないですけど。山本周五郎の時代小説の短編なんかは、もう歌舞伎になるものばっかりだなと思っていて。この話がいいな、この役がいいなとか、常に思っています」
──歌舞伎が本当にお好きなんですね?
「もちろんです! それに好きじゃなきゃ、続けていけない仕事じゃないかなとも思います。いろいろ割に合わないこともありますからね(笑)」
──これからいろんな場面で、米吉さんを拝見できる予感がします。
「見ていただけるように頑張りたいと思います。みなさんのお声でさらに活躍できる場面を増やしていただけたら! 応援してください!」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
なかむら・よねきち 1993年3月8日、東京都出身。五代目中村歌六の長男。2000年7月、歌舞伎座『宇和島騒動』で父・歌六の前名を継ぎ、五代目中村米吉を襲名して初舞台。2011年から本格的に女方を志し、歌舞伎役者として歩みはじめる。近作に、京都南座 三月花形歌舞伎『番長皿屋敷』お菊役、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ナウシカ役など。2021年、第42回松尾芸能新人賞受賞。2023年3月4日~4月12日、IHIステージアラウンド東京にて上演の新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』ヒロインのユナウ役で出演予定。
●公演情報
『オンディーヌ』
【作】ジャン・ジロドゥ
【上演台本・演出】星田良子
【出演】オンディーヌ:中村米吉 ハンス[Wキャスト]:小澤亮太/宇野結也 水の精キラ(ベルタ):和久井優 水の精サラ(ベルトラン):佐藤和哉(篠笛) 水の精ユラ(貴婦人):白鳥かすが 水の精ダヤン(国王):加納 明 水の精トン(オーギュスト):我 善導 水の精セラ(ユージェニー):宮川安利 水の精の王(奇術師):市瀬秀和 水の精アリ(王妃):紫吹淳
【日程・会場】
愛知公演:2022年12月23日(金)~12月25日(日)ウインクあいち 大ホール
東京公演:2023年1月6日(金)~1月11日(水)東京芸術劇場 シアターウエスト
※アフタートークイベント開催! 詳細は公式サイトまで