毎週土曜夜11:30〜という深夜帯の放送にもかかわらず、満足度の高いドラマとして注目されているドラマ『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)。地方都市で代々続く煙火店を舞台に、花火師親子の不思議な日常を描き出す本作で主演を務めるのは、俳優の高橋一生さんです。
高橋さんが演じるのは、花火師の家に生まれ、自身も花火師となった主人公の望月星太郎。物語は「すまん……」という言葉を残して亡くなった橋爪功さん演じる星太郎の父・航が、なんと“幽霊”になって帰ってくるところから始まります。
脚本を手がけるのは、2021年に同じくテレビ朝日のドラマ『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』で向田邦子賞を受賞した橋部敦子さん。『モコミ』もそうですが、ファンタジーな設定をベースに日常のドラマをつむぎ出す橋部さんの物語には中毒性があります。
星太郎と航、そしてひょんなことから住み込みで星太郎と働くことになる本田翼さん演じる謎の女性・水森ひかりの、人間2:幽霊1の奇妙な同居生活を映す本作。彼らが繰り広げる小気味よい会話劇に、いつの間にか引き込まれてしまうのです。むしろ、この物語はほぼ3人の会話で構成されていると言っても過言ではないのですが、不思議と見ていて飽きることはありません。
『フェイクスピア』をきっかけに意気投合! 高橋一生&橋爪功さんの信頼関係
それは高橋さんと橋爪さん、本田さんが往年の漫才トリオのような息の合ったやりとりを常に見せてくれるからでしょう。そこには役者同士の強固な信頼関係が透けて見えます。
高橋さんと橋爪さんは2年前に舞台『フェイクスピア』でも深い間柄を演じた仲。その共演をきっかけに意気投合したそうで、橋爪さんは今年1月に出演した『徹子の部屋』(テレビ朝日系)で「年齢のことを考えないで付き合える」「役者として尊敬してる」と高橋さんへの愛を明かしていました。今回の再共演も橋爪さんの「一生とドラマがやりたい」というラブコールにより、実現しています。
実に40歳という年齢差がありながら、気の置けない関係性を築いているおふたり。その空気感が男同士で長年生活を営んできた星太郎と航の、親子というよりは友達みたいな楽しげな会話を作り出しているのだと思います。
今年で俳優歴60年、’21年には旭日小綬章も受章したベテラン俳優の橋爪さんをも虜にしてしまう高橋さんの魅力。それは年齢や性別、芸歴問わず、どんな役者とも心地よい空気感を作り出せる懐の大きさなのではないでしょうか。
本田翼・飯豊まりえ・岸井ゆきの。共演した若手女優にさらなる輝きを与える!
本作では橋爪さんとはもちろんのこと、初共演となる本田さんとも息の合ったやりとりを見せている高橋さん。他人との生活に慣れず、ストレスを抱える星太郎と、飄々(ひょうひょう)としていてどんなときも自分のペースを貫くことができるひかりの、噛み合っていないようで噛み合っている会話が絶妙なのです!
そんな中、SNSでは本田さんに対して「いちばんのハマり役なのでは?」という好意的なコメントが多く寄せられています。振り返ってみると、これまでも多くの若手女優が高橋さんとの共演作で高評価を受けてきました。
例えば、荒木飛呂彦さんの人気コミックを原作としたドラマ『岸辺露伴は動かない』(NHK総合)シリーズで、高橋さん扮(ふん)する漫画家・岸辺露伴の担当編集者・泉京香を演じた飯豊まりえさん。京香は、漫画家でありながら、ヘブンズ・ドアーという自身の特殊能力を使って人知を超えた事件や事象に挑む露伴の相棒でもあります。その露伴に対する物怖じしない姿勢やコロコロと変わる表情が愛らしく、京香は人気キャラクターとなりました。飯豊さんにとって、このドラマが出世作になったことは間違いありません。
『恋せぬふたり』(NHK総合)で、他者に恋愛感情や性的欲求を抱かない“アロマンティック・アセクシュアル”という難しい題材に高橋さんと挑んだ岸井ゆきのさんもそう。岸井さんの場合はすでにドラマや映画に引っ張りだこでしたが、同作における高橋さんとやりとりの中で抜群の安定感を改めて見せつけました。
なぜ高橋一生と共演する役者は魅力的なのか?
どうしてベテランから若手まで、高橋さんと共演する役者はこうも魅力的に見えるのか。それは高橋さんが同じ作品の中で、主役にも脇役にもなれるからだと思います。
高橋さんが演じる主人公は多くの場合、どこか拗(こじ)らせていて面倒臭いのだけど、そこが愛らしくもある人物です。醸し出す雰囲気から言動までかなりキャラ立ちしているのですが、さらにクセの強い登場人物をぶつけてもケンカにならず、スッとなじむのが面白いところ。そういうとき、高橋さんの対峙(たいじ)する相手の言動を際立たせる受けの芝居が効いています。
自分の見せ場じゃないときは、演じるキャラのままで相手の芝居を真摯(しんし)に受け止める。前に出すぎず、後ろに下がりすぎず。そのバランス調整が絶妙だから、自分も相手も魅力的に見せることができるのでしょう。
見ているこちらも高橋さんの大きな懐に包み込まれ、放送後は安眠できる。そんな『6秒間の軌跡』もそろそろ折り返し。航は本当に幽霊なのか? という物語の核心に迫りつつある本作の展開が今後も楽しみです
(文・苫とり子/編集・FM中西)