5年前に、最長7時間待ちという“行列ができる原宿発のアイスクリームショップ”として話題になり、今も人気を保ち続けている「ROLL ICE CREAM FACTORY」(ロールアイスクリームファクトリー)。運営をしている株式会社トレンドファクトリーの社長、浅野まりさんには意外な職務遍歴があり、その経験が今の活躍に生かされているようです。
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今回は、そんな浅野まり社長のインタビューをお届けします。今後、仕事で成功したい人、また異業種の仕事にチャレンジする人にとっても、参考になるお話かもしれません。
ナレーター、雑誌ライター、議員秘書……華麗なる職歴
──一番はじめのお仕事は何ですか?
「ナレーターやイベントコンパニオンのお仕事をしていました。学生のときにバイトから始めて、天職だと思ったので、夜間のアナウンス学校に通って、ナレーションを本格的に学びました。展示会全盛期のときに、モーターショーやビジネスショーなどのナレーターをやったりして、30歳くらいまで続けていました」
──スゴイですね。特にモーターショーは、ナレーターであれば誰もがやりたがるくらいの憧れの舞台であり、オーディションで仕事を勝ち取らなくてはいけない花形のお仕事ですよね。30歳を過ぎてからは、「雑誌ライター」のお仕事をされていたのだとか?
「当時、たくさん映画を観ていて、ブログに書いていたら、2社の出版社から“記事を書かないか”とお声がけをいただき、映画のレビューを書いていました。
よく香港や台湾に旅行していて、“いつか映画を原語で理解できるようになりたい”と思うようになり、台湾に5年間、留学しました。留学中に映画雑誌で連載をもつことができたので、午前中は語学学校に行き、午後は金城武さんやケリー・チャンさんなど、俳優さんを現地でインタビューして、原稿を日本に送るという生活をしていました。5年くらい続けたのですが、母が亡くなってしまったのを機に日本に帰国しました」
──その後は、「議員秘書」をやられていたようですが、そもそもどうやったら、議員秘書になれるのでしょうか?
「母が結婚前から国会議員の公設秘書をやっていたつながりで、いわゆる“ウグイス嬢”のお仕事をしていたことがあり、声をかけていただきました。ある参議院議員の方の公設秘書になり、先生の原稿やブログを書くのをお手伝いしたりしていました。
でも、その後、仕えていた議員さんが選挙で落選してしまったんです。“これからどうしよう”と思っていたら、ちょうどその頃、飲食店『俺のイタリアン』の立ち上げがあり、私は文章が書けて、SNSの発信が得意だということで、知人が紹介してくださったんです。それで、立ち上げメンバーの1人になりました」
「俺のイタリアン」ブームの火付け役に!
──「俺のイタリアン」を運営する「俺の株式会社」(以下、「俺の」)では、どんなお仕事をされたのでしょうか?
「企業戦略室長として、ブランディングと広報を担当していました。とはいえ、本部は、社長と常務、料理人のトップと経理、そして私しかいなかったので、何でもやっていました。取材が入ったら対応して、シェフたちとメニュー会議もする、といった感じです。でも、広報の経験はなかったので、当時、初めてプレスリリースを書きました」
──「俺のイタリアン」はテレビをはじめ、あらゆるマスコミ媒体が取り上げて大ブームになりましたよね。かなりの広報手腕なのに、それまで未経験だったというのは驚きです。
「当時、社長だった創業者の坂本孝さんに、“広報はやったことがない”と言ったら、“とにかく取材に来られた方たちに希望通りに撮影していただいたり、試食していただいたり、テレビ番組のADさんにも親切にして、ゆっくり楽しんでもらうようにしなさい”とアドバイスをいただきました。
タレントさんがお店を紹介する番組の撮影が終わったあと、残って物撮り(ぶつどり)をしているADさんにも、シェフが作った温かい料理を食べていただくようにしました。“いつもロケ弁やコンビニ弁当しか食べていないので、初めてフォアグラを食べました”と喜んでくださるADさんもいらっしゃいました。
その当時のADさんたちが、今ではディレクター、プロデューサーになられ、“あのとき、本当に浅野さんにお世話になったんですよ”と言ってもらえることが多いです。そういうご縁もあり、私がロールアイスクリームファクトリーをオープンしたときには、取材に来てくださいました」
──そうやって人間関係を築いていき、“ロールアイスブーム”につながったのですね。
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飲食業界で能力を発揮し、自らの会社を立ち上げ
──「俺の」でのお仕事の後は、その経験を生かして、フリーランスで「飲食店のPRのお仕事」をされるようになりましたよね。きっかけは何だったのでしょうか。
「他の飲食店のオーナーが『俺の』の評判を聞いて、“店の相談に乗ってほしい”というご依頼をいただくことが増えたので、フリーになって、それぞれの会社とは業務委託という形でPRのお仕事をするようにしました。焼肉、ステーキ、居酒屋、餃子、串カツ、ケーキなど、さまざまな業態に携わりました。
もともと私は、秘書や広報など誰かのサポートをする仕事が好きで、社長がどんどん有名になっていくことに生きがいを感じていたところがあったんです」
──そんなサポート好きな浅野さんが、自らロールアイスクリームのお店を出店することになった理由はなんですか?
「SNSで、“ニューヨークでロールアイスがはやっている”ことを知ったとき、これは絶対に日本でも流行すると思って、“このお店をやりませんか? 私がPRをやるので”といろいろな経営者の方々に提案していたのですが、なかなか乗ってくれる方が見つからなかったんです。“だったら、まりちゃんがやりなよ”と言われることも多くて……。そこで、私を含め3人の経営者で立ち上げることにしました。
ただ、オープンした2年半後に、コロナ禍になってしまったんです。そこで、立ち上げメンバーで話し合い、お店の今後を考慮した上で、2020年4月からは自分だけの会社(株式会社トレンドファクトリー)を設立して、そこでロールアイスクリームを運営することにしました」
──これまでお話しいただいた職業1つ1つで、それぞれ高いレベルの実績を作っているのがスゴイです。何をやってもデキる人っているんですね。
どの業界でも、最後は「人」が重要!
──これまでの経歴で、“今も役立っている”と思うことは何かありますか?
「議員秘書のときは、“最後は、人(が重要)なんだ”ということを学びました。選挙活動は、チラシを配ったり、演説をしたり、選挙カーを走らせたりとアナログなものが多く、今の時代にそぐわないと感じることもあったのですが、そうはいっても、実際に面と向かって握手することで、“あなたに投票するわ”と応援する人に変わっていくことが多いんです。
それって、全ての商売に通じると思うんです。どんなにSNSで上手に宣伝したとしても、商品がよくても、お店のスタッフの対応が悪かったら、全然ダメなもの。最後は、人ありきなんです」
──初めて外食業界に入った「俺の」の経験も、大きな影響があったのではないでしょうか。
「そのことがきっかけで、外食業界の魅力にハマりました。以前、創業者の坂本さんが“外食だけは、小が大に勝てる”とおっしゃったんです。例えば、大手の飲食店の隣に、小さなイケている飲食店があったら、そっちのほうに行列ができることがある、と。ロールアイスクリームファクトリーも大手に比べたら小さいけど、大手ではできないことを目指して、ファンを作っていきたいと考えています」
──フリーランスでの「飲食店のPRのお仕事」を通していろいろな経営者を間近で見てきたことで、学べたことはありますか?
「ここでも、飲食店を長続きさせる秘訣は、人だと感じました。スタッフから見て“社長が尊敬されているけど、遠くない”と言いますか、社長との距離が近くてもきちんと威厳を示せている会社は、アルバイトから社員になる確率が高かったです。アルバイトの経験だけで終わらせて、他のところに就職するよりも、“ここで社員になろう”という人が多いんです。
ある社長さんは、従業員をとても大切にしていて、夜はお店に行き、従業員たちと時間を共有していました。“いつ家に帰っているの?”と不思議に思うくらいでした」
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──「人材を大切にする」って重要ですよね。従業員が頻繁に辞めてしまうと、また新たな人材を探し、仕事を一から教えて慣れてもらわなくてはいけなくなるので、会社にとっても、効率が悪いものです。さまざまな業種を経験されてきていますが、今後、異業種の仕事にチャレンジしたい人に何かアドバイスをお願いします。
「私は、はじめは“儲かるかどうか”ということはあまり考えないんです。それよりは、“今やるかどうか”ということが大事で、大抵すぐに動いています。“思ったときがタイミング”です。もちろん失敗することはありますが、その後、修正することもできますから。
例えば、ロールアイスの場合、“これをやりたい”と思って、いろいろな人に声をかけ始めたのが2016年12月。翌年の2月には一緒に立ち上げた2人と会って、4月には1人でニューヨークにロールアイスクリームを見に行き、5月に会社を起こし、6月にオープンしました。
すごく好きでどうしてもやりたくて、今がチャンスだったら、やってみたほうがいいと思います」
◇ ◇ ◇
まずは「行動してみること」、そして「人を大切にすること」、さらに「自分の“人となり”を磨くこと」が、成功の秘訣なのかもしれません。ナレーターや議員秘書の仕事は一見、今の飲食店経営の仕事に関係ないようであっても、実は大きな影響を与えていると感じさせられます。精いっぱい打ち込んだ経験は、どんなことも無駄にはならない、ということでしょうね。
第2弾インタビューでは、ロールアイスクリームファクトリーが人気を保ち続けている理由や、経営者として大切にしていること、殺処分寸前のところを保護した愛犬メロンちゃんのことなどを伺っていきます。
(取材・文/加藤弓子 撮影協力/ビジネスエアポート京橋)
〈PROFILE〉
浅野まり(あさの・まり)
株式会社トレンドファクトリー代表取締役。一般社団法人日本外食リサーチ&PR協会代表理事。ナレーター、雑誌ライター、国会議員秘書をへて、俺のイタリアンなどを展開する「俺の株式会社」創業期の企業戦略や広報を担当したのちに独立。現在、おもに中堅・大手外食企業の広報・PR業務支援を行う傍ら、中小企業庁の全国支援事業「専門家派遣事業」のPR専門家としても活動中。