元号の“平成”とはとても長く、30年間も続いた。今のように各所から流行や文化が発信されているわけではなかった、平成期。テレビが最も新しい、文化の発信源だった。誰もがブラウン菅から流れてくる情報に一挙一動していたこと、覚えているだろうか。
中でもテレビが昭和生まれたちの心を動かしたのが、月9を始めとする連続ドラマの数々。今、多くの動画配信サービスで人気を博しているコンテンツだ。そう、過去作はレンタルショップへ出向くわけではなく(古っ!)、Wi-Fiさえあればすぐに平成ドラマを観ることができる。それならば、ぜひ気に入った平成ドラマを紹介したい。そう思い立ったのが私、小林久乃。
ドラマオタク歴30年以上、コラムニストとしてエンタメコラムを書き続けて10年以上の、私が厳選した平成ドラマへナビゲートしよう。いずれもサブスクですぐに観ることができる作品ばかりを選んだので、今夜は一気見で夜が明けてしまうかもしれない。
夜更かし、ご覚悟のほど。
(※配信データは2023年7月23日現在)
『タイガー&ドラゴン』 すべてのシーンに熱量と気合いが詰まっている
私がこの世でいちばん推す脚本家は、クドカンこと宮藤官九郎氏である。各所で「好きだ」と大騒ぎをして、死ぬまでにクドカンと酒を飲むのが、目下の夢だ。どうか、どうか……、とそんな中高年の願望はさて置いて。
数多ある彼の作品で推すとするなら『タイガー&ドラゴン』(TBS系列・2005年)だ。新宿流星会に属する山崎虎児(長瀬智也)が落語に感銘を受け、自らも高座に上がりたいと志願。「昼は噺家(はなしか)、夜はヤクザ」という二足の草鞋(わらじ)を履くことになる。新宿流星会から借金を抱えた師匠の林屋亭どん兵衛(西田敏行)らの協力を得て、虎児は一流の噺家を目指す……というのが、本当に簡単なあらすじである。
クドカンが創る物語はいつも「おっ!」と(落語のごとく)膝を打ちたくなるようなテーマがある。例えば『木更津キャッツアイ』(TBS系列・2002年)では「え、どこ……?」という、ニッチな地域を舞台に選んでいる。これも彼の特徴だ。
そして日本の古式ゆかしき文化を、うまく取り入れるのもクドカン流。映画『舞妓Haaaan!!!』(2007年)はタイトルどおり、何かとうるさいしきたりの舞妓の世界を描いた。『俺の家の話』(TBS系列・2021年)では、能楽一家がメインキャストに。今回は放送当時、注目度の下がっていた落語の世界を取り入れた『タイガー&ドラゴン』。それもヤクザ界とミックスさせているのが、お見事だ。虎児は最終的に噺家になれるのか、どうか。
1話の放送時間内にたくさんのネタが仕込まれている本作。笑って脳内スイッチを切り替えたいときにぜひ。
paravi、Netflix、PrimeVideoにて配信中。
『救命病棟24時』第3シリーズ 大型病院へ行くと、つい進藤先生を探す
1999年からスタートした『救命病棟24時』(フジテレビ系列)で、いちばん感動したのが2005年放送の第3シリーズ。関東直下型の大地震が起きたという設定で、救命救急センターの様子が描かれていた。
水も食料も休みもない逼迫(ひっぱく)した病院内。婚約者が死亡してしまった医師の小島楓(松嶋菜々子)、家族となかなか連絡の取れなかった看護師、ケアの行き届かない避難所。そこに立ち、患者を救い続けるのは、進藤一生(江口洋介)だった。もちろん1話ごとに胸打つ物語はあったけれど、印象に残ったのはこの放送からたった6年後に、私たちは東日本大震災を経験することになる。まさかドラマで見た光景が、現実になるとは想像だにしなかった。こんな奇跡のようなリンクは、できればもう体験したくない。
そして本作は「救命救急センター」という名称を、一気に世へ知らしめた。それまでも素人ながら存在はわかっていたけれど、このドラマで存在がクリアになった。過酷な労働環境の中、患者の命と向き合う医療従事者たちを見る目が圧倒的に変わった。
こんなことがあった。出版社に勤務していた時代、救命救急センターと同じく、ほぼ寝られない、休めない環境で編集部員だったころ。体力のある20代とはいえ、疲労で倒れてしまい、病院送りに。めったに訪れることのない大型病院へ足を踏み入れ、キョロキョロとあの青いユニフォームをつい探している自分がいた。まあ、そんな簡単に進藤先生はいなかったけれど。
FODにて配信中。
『結婚できない男』第1シリーズ 桑野がいつまでも独身であれと願う
現在、第2シリーズまで放送されている『結婚できない男』(関西テレビ、フジテレビ系列・2006年)。建築家の桑野信介(阿部寛)は金も仕事もあるはずなのに、偏屈ぶりが際立って、未婚のまま40代を迎えた。そんな彼の生活ぶりや、人間関係をコミカルに描くドラマだ。
何度見ても面白い。ひたすら単独行動を楽しみ、なんなら流しそうめんも一人で開催する。女性の前ではつい、つい、余分な一言を言って関係性をこじらせる。そんな桑野を日本屈指の俳優となった、阿部ちゃんが大まじめに演じているのだから、笑いはさらに増量する。
……はて? 2006年の第1シリーズ放送当時はどこか他人事のように見ていた本作。2019年の第2シリーズ『まだ結婚できない男』のときは、見事に私も40代を迎えて「結婚できない女」のレッテルを貼られるようになった。もちろん、デリケートなご時世なので本人へ直接「いい人いないの?」と聞かれることはだいぶ減った。家族を含めた関係各所、もうあきらめの境地へ入ったということだろう。と、同時に第2シリーズの桑野に対する共感度が上がっている。これは成長なのか、窮地なのか。そんなことを考えるのも面倒なので、とりあえずサブスクで『結婚できない男』第1シリーズを見返して笑おうと思う。さ、みなさま、ご一緒に。
FOD、PrimeVideo、Huluにて配信中。
(文/小林久乃)
《PROFILE》
小林久乃(こばやし・ひさの)
エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)を上梓後、『45センチの距離感』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)と著作増量中。静岡県浜松市出身