セックスレスという一見、色眼鏡で見てしまいがちな、そして際どいテーマをフックに、その実、夫婦関係の深いドラマを描いて、さまざまな考えを巡らせてくれるドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)。
6月1日、第8話が放送され、主軸となる2組の夫婦の脇で、さとうほなみ(ほな・いこか)演じる三島結衣花のエピソードが区切りを迎えた。
「こわ!」第8話、まずは冒頭の地獄の3分間に戦慄
「ヒイ、怖くて泣いちゃう」と悲鳴が出てしまうほどの、戦慄の幕開けだった第8話。本作は、主人公で建設会社の営業課で働く32歳のOL・吉野みち(奈緒)と、その夫でカフェ店長の陽一(永山瑛太)、みちの上司・新名誠(岩田剛典)とその妻でファッション誌副編集長のバリキャリ女性・楓(田中みな実)の2組の夫婦を通して、夫婦のあり方や関係性を見つめていくドラマだ。
第8話、誠とみちの関係を知り、会社に乗り込んできた楓が、みちと喫茶店で対峙(たいじ)した。“砂時計”が置かれたテーブルでティーカップの音が響くなか、地獄の3分間が流れたが「たかがレス(セックスレス)で」の楓のひと言をきっかけに、火蓋(ひぶた)を切ったみちの逆襲など、見どころだらけの3分間だった。
登場した当初は、さっぱりとした女性に映った三島結衣花だが
そうしたメインのストーリーはもちろん、第8話は三島のエピソードも見ごたえがあった。三島といえば、陽一が店長を務める喫茶店のすぐ近くの工事現場の警備員として、陽一に“おじさん”に間違われて登場した女性。
このときすでに、疲れた身体にコーヒーをサービスしてくれた陽一に、多少なりとも三島は惹(ひ)かれていたのだろうが、当初見ていたこちらには、恋愛含め、さっぱりとどんな場所でも自由に、ひとりで強く生きている女性に映った。
第2話で最初に陽一とキスした際の、陽一の「帰る」という言葉への反応も(「やっぱ、正直者だ。」と敬礼をして、あっさりと帰宅したかのように見えた)、さっぱりした人なんだろうと思わせた。感情に任せてキスしてしまうことこそあれ、そこに引きずられることはないのだろうと。
陽一と距離を縮め、ついに関係を持ち(第3話)、逆にみちへの愛を再確認した陽一から「なかったことにしてもらえないかな」と、なんともヒドイ言葉を投げられても「いいですよ。私もそのつもりだったんで」と応じた三島(第4話)。しかしそれは、さっぱりしたイイ女という仮面をかぶった彼女の強がりだった。
好きな相手のタバコをねだる三島に衝撃! 実は完璧な恋愛依存体質女だった
そのイイ女風“仮面”がよくできていただけに、第4話でタバコにまつわる過去のエピソードが描かれたシーンには心底ビックリした。三島は過去にも妻のいる人と付き合っており、しかもどっぷり恋に漬かっていた。
好きな相手のタバコをねだる、かつての三島。「これがいいの。キスの味、思い出すから」と。「オイオイオイ~! 完璧な恋愛依存体質女じゃないかぁ!」っと、これまで三島に抱いていたイメージとのギャップも相まって、声に出してツッコんでしまった人は、私だけではないはずだ。
おそらく彼女は、最初に私たちが彼女に描いたイメージどおり、本来自由に生きていきたい人だろう。でも同じく第4話、こと座流星群を一緒に見るために、みちを迎えに行こうとした陽一を前に、「行かないで……」と漏らしたのがいまの三島の本心。
さらにコーヒーをこぼして陽一を止めたのは、わざとではなかったにせよ、潜在的な意識が身体を動かした結果に違いなかった。しかし結局、陽一の心はみちにあり、三島にも謝罪し、ふたりの関係は終わった。
だが、三島には過去の不倫で残した傷が尾を引いていた。自分が負った傷ではなく、負わせた傷が。
第7話の名言は、自分かわいさから出た部分もあるのでは
第7話では、三島から名言が出た。みちに裏切りを告白したと明かした陽一に放った言葉だ。「言えなくて苦しかったですか。言えてすっきりしました? 自分の心に刺さってた杭(くい)抜いて、代わりに奥さんにそれ刺しただけでしょ。それで奥さんいま血流してるんですね」。確かにそのとおり。ここだけ聞けば拍手したくなるほど。
しかし、この裏には三島の自分かわいさが潜んでいることが、続く言葉からわかる。「奥さんに刺さったその杭、どうなるかわかります? 女は痛みが消えるまで黙って耐えるほどバカじゃないから。今度はそれ、不倫相手の女に突き刺すんですよ」と。
意地悪な見方をすれば、自分に突き刺されることを恐れているから、奥さんに杭を刺すなと言っているとも取れるのである。
「人の心を殺した」ことを知ったことが三島を変えた
実際、三島はかつての不倫相手の妻から訴えられていた。最近ふたたび携帯に連絡が来たが、会ってはいない。三島にとってその不倫は、あくまでも3年前に終わった過去の出来事にすぎなかった。「なぜいまごろ?」そんな本音がよぎったはずだ。
第8話、三島に損害賠償を請求する内容証明を送ってきた、かつての不倫相手である岩井の妻・鞠子(佐藤めぐみ)が、陽一の喫茶店に三島を訪ねてきた。そこで、三島は初めて鞠子の苦しみをはっきりと感じることになる。
「この3年間、空を見てキレイだと思ったことはありますか? お腹が痛くなるくらい笑ったり、声を荒げるほど腹を立てたことは? セックスはしました? 私は一度もありません」と話した鞠子は、さらに続けた。
「私の心は、3年前に死にました」と。自分の行為がひとりの人の心を殺した。そのことを三島がはっきりと知った瞬間だった。
三島には真のイイ女になる可能性が。メインの4人はさらにドロドロに
ようやく三島は、自分自身を客観的に見られるようになる。「私、どっかでずっと言い訳してたんです。不倫したのは男のせいとか。不倫のループから抜け出せないせいとか。だから幸せになれない自分がかわいそうとか思っちゃったりして」と。
そして鞠子への損害賠償を全額払うことを決意。それで鞠子の心が生き返るわけではないが、三島にできる精いっぱいの誠意だ。さらにカフェを辞めることに。
最後に陽一の淹(い)れた1杯のコーヒーを味わうと、すっきりとした顔でカフェを後にした。間違いを犯したかもしれないが、これから真のイイ女として進んでくれそうな後ろ姿を、三島は見せてくれた。
しかしメインの2組4人のほうは、さらに大変な展開に。セックスレスに悩み、それぞれに、心も身体も愛されることを望んでいたはずのみちと誠だったが、互いに夫の陽一、妻の楓に誘われるも、望んでいたはずの行為を拒んでしまった。
それは、みちと誠の心に、夫や妻ではない相手がいるから? そして陽一と楓は、今まで自分がしてきたことが返ってきたことで、初めて相手が感じてきたつらさを実感する。
第9話の予告編では、誠がみちの手を取り走り出す姿が! すでに放送回は終盤だが、さらなる迷宮に入り込んでいる『あなたがしてくれなくても』。
単なる不倫モノではなく、それぞれの“思い”と、そこから生まれる“すれ違い”や、だからこそ求めたい“つながり”を見つめている本作。見る側も語り合いたくなる思いがますます尽きない。
(文/望月ふみ、編集/本間美帆)