実は、私たちがつくウソには2種類が存在します。それは、「自分でウソをついていると自覚しているウソ」と、もう1つ、「自覚していないウソ」です。
前者のウソは、誰かを騙(だま)すためのウソ。
後者も誰かを騙すためのウソであることは変わりないのですが、こちらのほうは、ウソを言っている自覚がないために、自分も騙されてしまうことがあるのです。
今回は、そんな「自覚のないウソが、あなたの成長を止めてしまっている」という話。
心の声が無意識に「ウソ」を言ってしまうことがある
子どものころ、買ってもらいたいゲームがあるとき。親に、こんなふうに言った経験はありませんか?
「みんな持っているから買って!」
こういうとき、多くの場合、親を騙してやろうとかいう気持ちはなくて、本人は、ある友だちがそのゲームを持っていることを思い出しながら訴えています。
ですから、ウソを言っているという自覚はありません。友だちがそのゲームを持っているのは事実だし、自分はそれがすごくうらやましいのです。
しかしそこで、親からこう聞かれたらどうでしょう?
「本当に、みんながそのゲームを持っているの? 誰と誰が持っているか名前を教えてくれる?」
そう聞かれて、そのゲームを持っている友だちは誰だっけと考えてみると、自分が仲のよい、たった2人が持っているだけだった……。
これが「自分で自覚していないウソ」です。
厄介なのは、このウソは、自分の思い込みによって、心の声が無意識に「ウソ」を言ってしまっているという点。そして、そのウソを自分も信じてしまうことがあるという点です。
「無意識のウソ」は、大人になってからもついている
コーチングのプロフェッショナルでリーダー育成家の林健太郎さんによると、この無意識のウソは、多くの人が子どものころだけでなく、大人になっても言い続けてしまっているのだそうです。
例えば、上司がある部下のことを称して、「あいつはこの仕事、絶対に失敗する」と言ったとします。
そう言っているとき、その上司は自分の言葉を真実だと思ってしゃべっています。
しかし、ここで林さんが、その上司に対して「それは本当に本当ですか? 彼は100パーセント確実に、絶対にこの仕事を失敗しますか?」とツッコむと、多くの上司は急に自信がなくなって、「いや、まあ、100パーセント失敗するとまでは言わないけど……」とトーンダウンするそうです。
聞き返すことで、実は結構、いいかげんな先入観で言い切っているのだということがわかるのです。
さらに、林さんによると、こうした自分でも気がつかないウソは、自分自身に関することでも言ってしまっているとのこと。
例を挙げると、こんなつぶやきです。
「私は細かい仕事が苦手なんで……」
「私は数字に弱いので……」
「私は本番に弱いので……」
林さんは、コーチングのクライアントがそんなつぶやきをしているのを聞くと、決して聞き逃さずに、すかさずこう聞くといいます。
「それって、本当ですか?」
すると相手は、今まで聞き返されたことなんてないので、あせって答えます。
「えっ? いや、ずっとそうなんで……」
「ずっとって、いつからですか? そう思う根拠は?」
そうやって問い詰めると、子どものころにたった1度失敗したことが記憶に残っているだけだったり、学校の先生からひと言、「○○さんは、〜ですね」って言われたことで思い込んでいるだけだったりするのです。
要は、本人の思い込みや思いすごしであることが少なくないのだとか。
たしかに、「自分はアバウトな性格なんで」と言っている人が、時間に細かくて、納期をきっちり守るタイプ……なんていうこと、よくあります。自分のことって、自分がいちばんわかっていないものです。
そうした「思い込みや思いすごしによる、自分自身に関するウソ」が、自分の考えや行動を委縮させているとしたら、もったいない話だと思いませんか?
人間は、自分で気がつかないウソを言うものだと自覚し、他人に対してはもちろん、自分に対しても、否定的な言葉が出てきたときは、「それって本当?」と自問自答してみる。
そうすると、「意外とそうでもないかも……」ということに気がつけるかもしれません。
(取材・文/西沢泰生)
【参考『優れたリーダーは、なぜ傾聴力を磨くのか?』林健太郎著/三笠書房刊】