リラックマやすみっコぐらしなど、世間から愛されるヒットキャラクターを生み出してきたサンエックス。数あるキャラクターの中で2000年に誕生、2021年に15年ぶりに絵本を発売して話題になっているのが、こがされてしまったアンパン『こげぱん』です。「どうせすてるんでしょ……」などやさぐれ感がたまらないこげぱんの歴史を、作者のたかはしみきさんに伺いました。
楕円に白目……あっという間に生まれた『こげぱん』
こげたヴィジュアル、虚無を感じる目、ひねくれたセリフ……キャラクター=かわいいが王道だった時代に、ちょっとやさぐれ感のある『こげぱん』に衝撃を受けた人も多いのではないだろうか。生みの親であるたかはしさんは当時、入社1年目の新人デザイナーだった。
「こげぱんの原型ができたのは、毎月提出するキャラクターカンプ(キャラクターの企画を出すときに作る絵)の自由テーマを考えていたときのこと。なにげなく描いた楕円に白目を足したところ、無表情の“ほぼこげぱん”が生まれたんです。そこに体をつけて、パンが動いたら面白いかもと……。
最初は目が怖いかなと思ったのですが、当時の人気キャラクター・たれぱんだのように動物だったり、キャラクターの性格に多い「明るく元気」だったりとは真逆な見た目と性格のキャラがいてもいいのでは? と思うようになりました。虚無感全開な表情だから売りものにならなかったパン、そこからこげたパンという発想に。
こがされたなら、“どうせ……”というやさぐれたことを言いそう! など、すごいスピードでキャラのストーリーが浮かんできました。あのときの次々とひらめきがつながっていく感覚は今でも覚えています」
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たかはしさん自身は、こげぱんが商品化・シリーズ化されるとは思っていなかったが、想像と違い先輩たちからのリアクションはよく、社内アンケートでも好評だった。
しかし営業担当からの声は厳しく、小学生や中学生を集めて行うモニターアンケートでも好き嫌いが分かれた。
「白い目を心配する声が多かったです。いろいろな目のこげぱんを描いて見てもらいましたが、この目がいいねと白目に決まりました」
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メモパッドのテスト販売をしたときは、売れなかったらどうしようとかなりドキドキしたそうだ。しかしたかはしさんにとって、当時大人気だったたれぱんだの仕事を手伝っていたことが大きく影響した。
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「たれぱんだの作者の末政ひかるさんが、文具デザインや絵本制作するところを間近で見ていました。それにより文具メーカー発信のキャラクターの世界観の広げ方や、見せ方を学ぶことができたのだと思います。
キャラクターの横に意外な説明文や意味深なセリフがあるだけで、一気にキャラの世界観に奥行きが生まれ、人によってはギャップ萌えしたり共感したりするなど、心を動かされるきっかけになるのだなと。それもあってこげぱんには、“どうせすてるんでしょ……”など人の気を引くようなすねたセリフをつけました」
こげぱんとたかはしさんには共通点も!?
ねぼけたパン屋さんがカマドの中に落としてしまい、こがされてしまったアンパンのこげぱん。しかしたかはしさんから、こげぱんは当初はクリームぱんの予定だったという驚きの発言が飛び出した。
「最初はあまり深くプロフィールについて考えておらず、実は今のクリームぱん(こげぱんの親友)を中身のないコッペパンにするつもりでした。そしてこげぱんは、自分が好きなクリームぱんに。そのときにたまたま先輩に“こっちがクリームぱんじゃないの?”と言われて、“じゃあそうしよう!”みたいな感じで変えたんです」
このように先輩たちからのアドバイスや雑談から生まれたエピソードやキャラクターも多かった。キャラクターに関しては商品がシリーズ化されるたびに増えていき、一時期は25を超えたことも。「にくまん」や「あんまん」のように、パンではない(!?)キャラクターがいたこともあったそうだ。
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「新しいキャラクターを出演させるために、こげぱんの存在が霞(かす)んだ時期もありました。せっかく4コマを描いていても、メインのこげぱんをなかなか出せないという本末転倒状態に(笑)。そのため15年ぶりに発売した絵本では、登場キャラクターをかなり厳選しました」
もともとパンが好きで、同僚と何の菓子パンを食べたか交換日記をしていたというたかはしさん。そこからイメージをふくらませて、かわいくなるパン、ダジャレに引っかけられるパンなどを考え、誕生させていった。特に春シリーズで生まれたいちごパンは、非常に人気があったそうだ。
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そんなたかはしさんが、こげぱんを描くときに昔から気をつけていることがある。
「やさぐれていますが、決して暗いだけではありません。ネガティブなんだけど、それが笑いに変わるようなセリフやストーリーを考えています。
私とこげぱんってちょっと似ているんです。こげぱんの商品化が決まったとき、王道のファンシーキャラではなかったので人気が出なかったらどうしようとずっとドキドキしていました。でも“ま、人気が出なくても仕方ないか~”って、こげぱんのようにやさぐれた気持ちもあって(笑)。
売れて人気が出たらもちろんうれしい。でもダメだったときに傷つきたくないからそう思うように。そうやって自分の中で保険をかけつつ、きっとこのキャラを好きになってくれる人がいるはず! と願っていたところがこげぱんと似ていると思います」
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ちなみにたかはしさんの一番の推しパンは、意外にも“こげクリームぱん”。やさぐれずにこげぱんたちのお世話をして慕われているのが、たまらなくかわいいそう。温泉に連れて行って、いたわってあげたいそうです。
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いつか動くこげぱんに会いたい!
2021年に15年ぶりに絵本で復活したこげぱん。実は2000年当時とは、ちょっぴり変わったところもある。
「こげぱんのいるパン屋内も時間が経過したということを、キャラクターやストーリーに盛り込んでいます。歳を重ねてこげぱんは表面が少し固く、古株っぽい雰囲気に。キレイパンへの小言もちょっと増えたんです。その他にも4コマにスマホを登場させるなど、今っぽさもちょっと盛り込んだり。
2000年ごろにこげぱんを好きだった読者も、あのときより年齢を重ねています。そのためまったく同じではなく、こちらも時間がたっているよとわかるような内容もあります」
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4コマの中には当時とがっていた内容を、少しマイルドにしてリメイクしたものも。ただ、こげぱんの絵のタッチやグラデーションは、変えずにそのままにしている。以前はすべて手描きだったが、現在は描いたものをパソコンに取り込み仕上げるようにしていて、そのおかげで直しは楽になったそうだ。
美術大学に通っていたたかはしさんは就職活動を始めた当初、特に目標はなかった。しかしサンエックスに勤めていた先輩に、「自分で描いたものが1年目から商品化されるのはサンエックスだけ!」と言われ、心が湧き立った。小さいころから好きだったサンエックスのキャラクター。そこで働く夢を叶(かな)えただけでなく、キャラクター・こげぱんを生み、入社1年目から商品化された。そして今もなお、こげぱんは多くの人に愛され続けている。
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「15年ぶりの絵本にもかかわらず、みなさんに読んでもらえて本当にうれしかったです。今後も変わらずこげぱんの4コマを描き続けていければと思います。贅沢をいえば、令和版“動くこげぱん”がいつか見られたらいいな(笑)」
動くこげぱんが発する、やさぐれた言葉……。きっとクスッと笑ってしまうだろうと想像することができます。絵本を読みながら、いつか会えるかな、見られるかなとワクワクしつつ、その日を待ちたいと思います。
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(取材・文/酒井明子、編集/福アニー)
【Information】
●『こげぱん 今日も明日もやさぐれ日和』(たかはしみき著、主婦と生活社刊)
高級食パンの次にくるブームは…こげぱん!?シリーズ130万部突破の大人気キャラ「こげぱん」再び!なつかしい!という人も、はじめましての人も、読めばなんだかふ~っと一息。やさぐれたり、ちょっと前向きだったりする日々に、気づけば元気をもらえる4コマ&ストーリーマンガ。ふりがなつきなので、お子さんも一緒に楽しめます♪