ゴキブリが活発に動き出す季節になりました。台所で食器棚を開けたら大きなゴキブリがいたり、深夜の枕元でカサカサカサ……、と足音が聞こえたりしたら悲鳴をあげてしまうかも。そんな恐怖体験、ありますよね。でも、みなさんはどのくらいゴキブリの生態をご存知ですか? 食中毒の原因になるなど、ゴキブリは不衛生な“害虫”ですが、私たちの生活に悪影響を及ぼすだけの悪い虫なのでしょうか。
今回はアース製薬で研究用の虫を飼育している有吉立さんに“ゴキブリの生態”についてお話を伺いました。ゴキブリの生態や行動傾向、弱点を知れば、退治に役立つかもしれませんよ。
フムフムな発見1:本当の名前は“ゴキブリ”ではない
──早速ですが、“ゴキブリ”は間違った名前というのは本当ですか?
「はい、本当はゴキブリじゃありません」
──正式には何と言うんですか?
「“ごきかぶり”というのがいちばん有力な説ですね。ゴキブリの“ごき”は“器”のことで、“御器”と書きます。“かぶり”は“囓(かぶ)りつく”という意味です。食事を終えて、器の食べ残しをゴキブリが食べようとしている様子が、器をかじっているように見えたから“ごきかぶり”です。江戸時代までは“ごきかぶり”と呼ばれていました。
ところが明治になって、日本初の昆虫学事典の執筆にあたった学者が、本当なら“ごきかぶり”と表記すべきところを誤って“ゴキブリ”と書いてしまいました。編集者も、『高名な先生が“ゴキブリ”と書いたのだから、あれは“ゴキブリ”と言うのだろう』と思って修正しなかったらしく、そこから『ゴキブリ』になったと言われています(※諸説あり)」
──間違った名前が定着したんですね。
「いつごろ名前がつけられたのかは定かではありませんが、本当は“御器囓り(ごきかぶり)”だったようですよ」
フムフムな発見2:ゴキブリは、実は汚くない
──ゴキブリは汚いというイメージがありますが、実際にどれくらい不衛生なのでしょうか?
「研究用に飼育しているゴキブリは純粋培養された虫ばかりなので、体に食中毒菌などが付着していないし、ぜんぜん汚くないんです。だから素手で触っても問題ありません。
一般家庭にいるゴキブリは、排水管の中をつたってきたり、家の中でもほこりがたまっている隅のほうを歩き回ったりするので、そのときに食中毒の原因になるサルモネラ菌など、いろんなバイ菌を体にくっつけて来るんです。きれいに洗った食器を食器棚にしまっても、その上をゴキブリがはったり、ゴキブリが運んできたバイ菌が食べ物に落ちたりすると、それが原因で下痢になったり食中毒を起こしたりすることがあります。だからゴキブリは害虫と呼ばれるんです」
──漢方薬になっているゴキブリもありますが。
「はい。煎じてお茶みたいに飲むこともあるそうです。ここ何年かは昆虫食がブームになっているので、ゴキブリでたんぱく質を補給できるのではないでしょうか。弊社は昆虫を使った漢方や昆虫食を製造していないので、はっきりとしたことは申し上げられませんが……」
──生物飼育室を拝見すると、ゴキブリの漢方薬が展示されていますが?
「ゴキブリを使った漢方薬もありますよという意味で、他社さんが作った漢方薬を展示させてもらっています」
フムフムな発見3:ゴキブリは泳げる?
──ゴキブリは排水口からも出入りするという話ですが、水の中でも泳げるんですか?
「泳ぐと言っても犬かきみたいな泳ぎ方です。体に油があるから水には浮きますけど、水泳選手のように深く潜ることはできないですね。
排水管を通っていろんな場所に移動しますが、基本は水のないところをはってきます。排水管の中でも水が流れていないところを選んだり、壁をつたって家の中に侵入してきます」
──玄関から入ってくるゴキブリもいますよね。帰宅して玄関のドアを開けた瞬間に、割り込むようにゴキブリが先に入っていったことがありました。
「わずかな隙間があれば、ゴキブリはどこにでも侵入できます。なので、なるべく隙間は埋めておいたほうがゴキブリの侵入を防げるでしょう」
フムフムな発見4:羽があるけど、ゴキブリは空を飛べない?
──ゴキブリは何種類いるんですか?
「世界には約4600種類のゴキブリがいるのですが、日本に生息しているのはそのうち63種類です」
──ゴキブリだけで4600種類もいるのにまず驚かされますが、日本だけで63種類ものゴキブリがいるんですか?
「はい。でも、その中で、害虫として家の中に入ってくるのはわずか4~5種類だけなんです。そういうゴキブリは飛ぶのは得意ではありません。虫ケア用品を噴霧したときなど、羽を広げているところをご覧になったことがあるかもしれませんが、鳥のように飛べるわけじゃないんです。ただ、グライダーのように、高いところから低いところへ滑空をしています」
──沖縄では大きいゴキブリが空を飛んでいたりしますが。
「野外で生息するゴキブリの中には、飛行できる種類もいます。そういうゴキブリは、羽のつけ根にある『翔筋(しょうきん)』という筋肉が発達しているんです。野外にいる“モリチャバネゴキブリ”は、飲食店などに生息している“チャバネゴキブリ”と姿形がそっくりですが、飛ぶ能力が全然違います。チャバネゴキブリは飛べませんが、モリチャバネゴキブリは2~3メートルぐらい飛びます。
ちなみに、見た目は全く同じでも、チャバネゴキブリは害虫ですが、モリチャバネゴキブリは害虫ではありません」
──害虫になるゴキブリが飛べないのなら、高層マンションに住めばゴキブリは入って来ない?
「遭遇しないとは言い切れませんが、確率は低くなります。でも、高層マンションの上層階に住んでも、ゴキブリは壁をよじ登っていきます。
ゴキブリの脚の先には爪の他に、吸盤のような働きをする褥盤(じょくばん)があります。褥盤は粘着物質に覆われているので、ガラスでもペタペタと吸い付きながら登れるし、天井に張りつくこともできるんです」
──空を飛べなくても、壁をよじ登って来られたらお手上げですね。
「荷物に紛れ込んで侵入することもあるんですよ。引っ越しのときなどは要注意です。たとえばタンスの裏などにゴキブリが卵を産みつけていた場合、それに気づかなければゴキブリの卵ごと新居に移ることになります。だから引っ越しのときは、家具の裏まで注意したほうがいいですね」
──高層階に住んでいても、油断はならないですね。
有吉さんの解説で、ゴキブリの本当の姿の一部がわかりました。わずかな隙間から侵入したり、引っ越しの荷物などに紛れ込んでくるなど、生命力の強い生き物です。次回は“食いしん坊”なゴキブリの習性に迫ります。
◎第2回:【Gの生態#2】ゴキブリ退治は、“なんでも食べる”習性を利用する(8月26日18時公開予定)
(取材・文/久保弘毅)