地域・会社ごとにさまざまな特色が表れるテレビCM。前編では、各地域に流れるローカルCMの魅力について、株式会社テムズ代表の鷹野義昭さんにお話を聞いた。
【前編→ツッコミどころ満載、だからこそ面白い! 数々のCMを見てきた所長に聞く、“ローカルCM”の魅力】
後編ではローカルCMだけでない、テレビCM全体の歴史や傾向について取材。インターネットの普及に伴い、テレビの力はどう変わっているのか。各企業の事例についても紹介していく。
時代とともに変わってきた、CMのあり方
──昭和・平成・令和と、テレビCMを取り巻く環境はどう変わりましたか?
「前編でも触れた考査の基準は、時代とともに厳しくなってきています。SNSによる炎上リスクは昔よりはるかに高くなっているので、企業の姿勢も慎重になってきました。
また機材の質が上がり、プロじゃなくともCM並みのクオリティで映像を作れるようになりました。昔のような静止画だけのCMは昭和に比べてかなり減り、CM制作の参入障壁は昔に比べて明らかに下がってきています」
──時代の流れに伴い、CMの見せ方も変わってきましたか?
「1986年からのバブル期は、ブランディングのために企業イメージだけを訴求するCMが多かったです。砂漠でロケしたり、人をいっぱい使ったりと、とにかくお金があった時代で、CMで効果を出すというより、節税対策のために大きなお金を使う企業もたくさんありました。製鉄会社、銀行、小売りなど業界問わず、当時のCMは最後に企業ロゴが出てくるまで“キレイな映像だけど、いったい何のCM?”と感じる見せ方ばかりでした。
その後バブルが崩壊し、モノをしっかり売らなければならない時代になると、CM内で企業の特徴や商材を伝えきる内容理解型のCMが増えました。いかにCM1本で高い費用対効果を出せるかに、企業が全力で取り組んだ時代です」
──平成~令和になるにつれて変わった部分はありましたか?
「インターネットの普及により、CMの目的が変わりました。それまではテレビ・雑誌・チラシなど、多くの媒体に広告を流すマルチメディア型が多かったですが、今はSNSやWebも活用しながら、CM単体で終わらせないクロスメディアの流れが確立されてきました。CMを流して印象をつけ、ネットで拡散してもらい、気になった人が能動的に検索することを促す施策は必須で、これまで受動的だったCMがユーザーに能動的に動いてもらうことを目的にされてきています。 “続きはWebで”みたいなCMがいい例ですね」
企業ごとのCMから見えてくる、各社の戦略
──インターネットがユーザーの活動範囲になる中で、テレビ広告の効果は昔に比べてどうなっているのでしょう?
「かつて全体の7割を占めていたテレビ広告費をネット広告費が追い抜き、テレビCMを流すだけで安泰という時代ではないですね。ただ、検索せずともユーザーに情報を届けることができるという意味では、認知を上げる最初の起爆剤としての力はかなり大きい。テレビですべて完結させるのではなく、あくまで認知媒体として使うのであれば、まだまだ優位性は高いです」
──記事前半で聞いていたローカルCMの魅力である“ツッコミどころが多いこと”は、かなり理にかなった手法と言えますね。
「そのとおりです。ローカルCMはインパクトも強く、社長や従業員が出演したりと会社の色や真剣さも見えますよね」
──前編で、ローカルに比べて全国CMの場合、審査基準も厳しく広報担当の方も慎重になるという話がありました。ただ、日清のCM(日清焼そばU.F.O.・カップヌードルなど)などを見るとかなりぶっ飛んだCMもありますが、それは会社の自由度が高いことが理由でしょうか?
「それもありますが、日清さんに限らず商材ごとに押し出す部分が違うので、そこにはしっかりとした戦略があります。
例えばミツカン・味ぽんのCMは味ぽんそのものではなく、お鍋などの料理がおいしく見えるCMを流しています。ぽん酢・めんつゆ・鍋つゆの市場シェアNo.1のミツカンであれば、商材のことを説明するよりも“今日はお鍋が食べたいな”と思ってもらうほうが、結果的に購買につながるんです。“商品ではなくベネフィット(※)を届ける”CMを愚直に続けているのが、業界リーダーとしてのミツカンの戦略です」
※ベネフィット:商品から得られる恩恵やプラスの効果のこと
──商品以外の部分を押し出したCMは、ほかにどんな例がありますか?
「JR東海の“そうだ 京都、行こう。”のCMです。あのCMは全国に流れている印象があるかもしれませんが、一都六県が中心で大阪ではオンエアされていません。またCM内では京都の寺社仏閣や町並みといった美しい風景を表現していますが、実は新幹線そのものはCMにほとんど出てきません。
都内から京都に行くための公共交通機関は飛行機もありますが、伊丹空港から京都駅はアクセスがよくない。視聴者は必然的に新幹線を使うことになり、“京都の魅力”を存分に表現することで新幹線を利用してもらうことが、JR東海の狙いです」
ブラック缶コーヒーといえば? と聞かれればすぐに思い出せるほど浸透した『UCC・ブラック無糖』。有名タレントは使わず商品を全面に映し出し、訴求内容を限りなく絞ることで、ブラックコーヒーが持つ本格志向のイメージが“UCC・ブラック無糖”のイメージにリンクされるような作りになっている。
【PROFILE】
鷹野 義昭(たかの・よしあき) 1963年長野県生まれ。株式会社テムズ代表取締役、ぐろ~かるCM研究所所長。大学卒業後、大手外資系広告代理店のマーケティング局に務め、26歳で独立。日本広告学会正会員/日本広報協会広報アドバイザーなど、30年以上にわたりCMを中心としたマーケティング戦略立案に携わる。著書に『モノ売る地方CM コト得るPR動画 日本中の心をつかむマーケティング戦略』(幻冬舎)、『CM好感度NO.1だけどモノが売れない謎』(ビジネス社)
本日お話をお伺いした鷹野さんが代表を務める株式会社テムズは、しなの鉄道・JR小諸駅構内にてカジュアルバー「E’cuve(エキューブ) こもろ」を2023年6月15日(木)にグランドオープンしました!
■店舗情報
カジュアルバー「E’cuve(エキューブ) こもろ」
2023年6月15日(木)グランドオープン
所在地: 〒384-0025長野県小諸市相生町1-1-1 小諸駅構内
電話: 050-3706-0115
営業時間: 平日 15:00~22:00(L.O.21:30)
土日祝 12:00~22:00(L.O.21:30)
定休日: 水曜日
(取材・文/FM中西)