手作り感が否めない、変な演出も多い、でも面白くて愛おしい……そんな“ローカルCM”が、みなさんの地元にもあるのではないだろうか?
筆者の地元である静岡では「今話題のハッピーグルメ弁当と言えば?」「コンコルド人間、略して?」と聞けば、何のCMか答えられる人がほとんどだろう。それくらい、地域に根強いた個性あふれるCMは多く存在する。
今回はそんな「ローカルCMの魅力」に迫るべく、テレビCMをはじめとする広告戦略事業を展開する株式会社テムズ代表・鷹野義昭さんにお話を聞いた。
数々のローカルCMや地方PR動画がランキング形式でまとめられた「ぐろ~かるCM研究所」の運営者でもある鷹野さんから見た、ローカルCMの魅力とは? また記事の後編では、地方に限らない、企業のCM戦略に関するお話も伺った。
自由度の高さが生む、ローカルCMのアイデア性
──はじめに、今回お伺いする“ローカルCM”の定義について教えてください
「民放が発する地上波のテレビCMは、東京キー局と大阪キー局、その他のエリアに分けられます。そのうち“東京キー局”から流れるCMの多くは全国各地に展開されており、その他に分類される北海道や宮城、静岡、鳥取などのCMはその地域のみに放送され、エリアを超えることはなかなかありません。
そのため今回は、“その他”の分類で東京キー局・大阪キー局に流されないものをローカルCMと定義しようと思います」
──会社の個性が強く面白いCMが多い印象ですが、全国CMと比べてどんな違いがあると考えていますか?
「“自由度”の側面で、ローカルCMと全国(キー局)には大きく違いがあります。
CMを流すためにはテレビ局側の“考査”を通過する必要がありますが、キー局はこの審査基準がかなり厳しい。手作り感が強すぎたり、セクシーな表現だったり、マイノリティを少しでも揶揄(やゆ)するような表現があると、そこに悪意はなくともアウトになってしまいます。
地方テレビ局にも考査があるのですが、全国に比べて広告主が少なく、審査基準を緩めないとCM枠が埋まらない。ある程度のコンプライアンスは審査されますが、手作り感が強くとも問題なく流すことが可能になる。テレビ局側が企業のCM制作をするパターンだってあります」
──手作り感の強いCMは確かに多い印象です。鷹野さんから見て、地方CMの魅力はどこにあると思いますか?
「アイデア性の高さ。それを可能にするのは、“予算が限られていること”が理由だと考えています。
CMを流す際、全国で流すCMは予算1億円以上は当たり前。有名タレントを起用したり、高価な機材を使ったり、多くのスタッフを動員したCMになれば、場合によっては数十億にも上ります。ただそれゆえに、広報担当者としても“失敗したくない”という気持ちが働きます。ネットで炎上してクレームがきたら打ち切りの判断を迫られ、ヘタに突飛なCMを出して反感を食らえば担当者自身の評価にもかかわります。ゆえに、角の取れた普通のCMにせざるをえず、印象に残るCM作りは難しくなってくる。
地方の場合、CM予算は全体で数百万円程度(放送料込み)。動画制作費だけ見れば、場合によっては20万円以下の場合もあります。数百万の放送枠なのに、数千万円のタレント契約を結ぶことはナンセンスで、そこまで潤沢な資金があるわけではありません。それゆえに、いかに少ない予算で知恵を絞り、企業の色を出すかが大事になる。 “金がなければ知恵を出す”という姿勢が、地方CMに個性を出している理由だと感じます」
──予算が少ないゆえ、アイデアの出し方に違いが出てくると。魅せ方の部分だといかがでしょう?
「ローカルCM特有の“ツッコミどころ”が、面白さを引き出していると感じています。
全国版のCMだと、ロケが何日にわたってもCM内の時間軸が同じになるようメイクを調整したり、高度なCG技術を使用したり、ストーリーの起承転結がしっかりしていたりと、動画として完璧な見せ方が多いですよね。ただ地方の場合、同じシーンなのに明らかに髪型が変わっていたり、あからさまに合成があったり、荒唐無稽な言葉を連呼したり(笑)。“いやいやそんなわけないだろ!”と思わずツッコみたくなるCMが多いです。
予算が潤沢ではない分、視聴者の印象にどう残すか? をしっかり考えることで、結果的にCMのインパクトは強くなる。経営者や社員がCMに出演することもあり、一見“安っぽいCMだな~”と感じても、会社の気持ちがダイレクトに伝わりやすいというメリットがあります。それこそがローカルCM特有の魅せ方ですし、広告のあるべき姿を体現してくれていると感じます」
──地域別にもCMの特色はあるんですか?
「全国のCMを調査する中で、北海道や東北地方は比較的おちゃらけたCMが少なく、九州や東海地方ははっちゃけたCMが多いですね。
あくまで持論ですが、例えば静岡の場合、東海道を通して、人・物・技術の交流が昔から盛んにおこなわれた背景がある。新しいものを受け入れ面白いものを作る姿勢が昔からあって、その県民性がCMにも出ているのかなと感じています」