2004年3月から今日まで継続して投稿されている『虚構新聞』。フィクションのニュースを実際の新聞のようにリアリティたっぷりに書くことで生まれる「シュールすぎるユーモアセンス」はまさに唯一無二だ。
今では冗談みたいな事実のニュースが流れると、SNS上では「虚構新聞かと思ったわww」など、もはや新種の慣用句のような使われ方をされる。そろそろ広辞苑に載せてもいいんじゃないか、というほど市民権を得た”笑えるニュースメディア“である。
今回は開設から1人で1000本以上の記事を更新している虚構新聞社 社主・UKさんにインタビュー。これまでの活動を振り返りつつ「記事をつくるうえで大切にしていること」を聞いた。
左右に分断されない、万人に共感されるテーマ
──まず最初に、私はもうゴリゴリの虚構新聞ファンなんです。高校・大学と、帰宅部の主活動として爆笑しながら読んでました。
「ありがとうございます。高校生で記事を読んでくださった方が、社会に出ているとは驚きです。かれこれ始めてから19年になるので“遠くに来たものだな”と、しみじみしてしまいますね」
──いや本当にお世話になってます(笑)。「サブカル青年の遊び場」のような存在から、メインカルチャーとなったのは、UKさんの編集方針の賜物(たまもの)だと思いますが、どうやって記事をつくるんですか?
「多くの方に読んでほしいのと、新聞をモデルにしているので、まずは“いま話題のテーマ”を探しています。テレビ、新聞、ネットニュース、SNSなどで常に情報を仕入れてネタ帳に追加していますね。
その中でも“みんなに共感してもらえること”を意識しています。記事のテーマによっては、同じ話題でも右と左に大きく分かれることもあると思うんですよ。特に最近はSNSが社会の分断を生んでいると言われることも多いので」
──なるほど。例えば極端に言うと「きのこの山がたけのこの里を圧倒」みたいな話題を出すとたけのこ派は共感できない。
「そうですね。だから“きのこ・たけのこが和平に前進”としたほうが共感を呼べますよね」
──たしかに(笑)。そもそもなんで争ってんの? という共感もある。
「古くからネットでやってきた“きのこ・たけのこ論争”が、いいかげん陳腐になってきたなって感じる人も増えてきたんじゃないか、という意識もあって書いたように思います。
いずれにしても、そういう対立を煽(あお)る記事より、“実はきのこ・たけのこ対立ネタに飽きてきてるんじゃないか”って、大きな声では言えないけど薄々感じていることをネタにすることで、笑い飛ばしてほしいと思っていますね」
──「共感」という点で、パッと思いつくのは2021年12月投稿の「アベノマスク活用した巨大スプラウト園が開園 東京ドーム2個分」というニュースですね(笑)。
「あれは実際に、アベノマスクを苗床に使ってカイワレダイコンを育てたっていう新聞記事が話題だったんですよ。もうその時点でネタが成立していたんです。それで調べると実際に8000万枚の在庫があることがわかって“在庫を全部苗床にしたら大規模農園作れるやん”と」
──実際、アベノマスクの配布に関しては”ウソみたいな事実”というか。配布が決定した当時、みんな「虚構新聞かと思った」と言っていました。そこからのカウンターもありましたよね(笑)。
「そうですね。ワクチンもなかった当時、コロナで不安を感じる人が多いタイミングで“なんでマスクなんだ”ってみんな首を傾げたと思うんです。まさにみなさんに共感してもらえた例ですね」
──おもしろいです。そもそも、この「新聞としてフィクションを書く」という設定が矛盾していて笑えますよね。
「虚構を引き立たせるためには“いかに現実っぽく見せるか”が重要だと思っているので”新聞っぽさ”は意識してます。最初に5W1Hを書いて大切なことからブレークダウンしていく、いわゆる『逆三角形型』の書き方を意識していますね」
──そのリアリティがしっかりしているから、フィクションでユーモアが生まれるわけですよね。まじめに書くほどバカらしくて笑えますもん。UKさんご自身のユーモアセンスも気になるんですが、お笑いは好きだったんですか?
「いや特にお笑い好きだったわけではなかったと思います。ダウンタウンの番組を好きで見てるって感じで、当時の子どもとしてはわりと普通だったんじゃないでしょうか。
ただ私は関西・滋賀出身なんですが、新喜劇みたいなベタな笑いよりもシティボーイズさんとか、ちょっとシュールなネタのほうが好きでしたね。海外のコメディとかも好きです。マンガだと吉田戦車さんの『伝染るんです。』(※)は、小学生のときに好きでよく読んでました」
※伝染るんです。(小学館):ギャグマンガの歴史を変えたともいわれる、不条理ギャグのパイオニア的な作品。
──そのあたりのルーツが今にも虚構新聞にも通じていそうですね。たまに出てくるブラックユーモアとか(笑)。
「そう言われると、そうかもしれませんね。だから初対面の方からよく“東京生まれだと思ってました”と言われますね(笑)」
19年続いた秘訣は「数字を追わないこと」
──虚構新聞を始めたきっかけって何だったんですか?
「もともと2000年代初頭のころって個人でニュースサイトをつくるのが流行(はや)っていたんですよ。それで私も自分でニュースのまとめサイトを立ち上げたんですね。“サイト上に見出しと元記事へのリンクを仕込んでおくもの”なんですけど。
そのWebサイトの企画でエイプリルフールにウソのニュースを自分で創作してみたんです。それがすごく楽しかったんですよ。もともと何か書くのが好きだったこともあって“向いているのかも”と」
──なるほど。
「それでエイプリルフールの後も創作ニュースを書き続けて、本数が溜まってきたので、元の個人ニュースサイトとは別に『虚構新聞』というウソニュースを専門に配信するニュースサイトをスピンアウトしたんです。すると、ありがたいことにすぐ話題にしてもらえたんですよ。
2004年の6月くらいに立ち上げて1、2か月後には2ちゃんねるで“虚構新聞っていうなんか不思議なサイトがある”とスレッドを立てられてましたね」
──当時から長く続けることを想定していたんですか?
「いえ、当時は学生だったので。こんなに長く続けるとは思っていなかったですね。
ただ当時、雑誌『ネットランナー』(ソフトバンクパブリッシング社※現・SBクリエイティブ株式会社)のWebサイトコンテストで金賞を受賞して、更新支援金という名目で3万円もらったんです。
学生にとって3万円って大金じゃないですか。もらってすぐ閉鎖しようもんなら勝ち逃げみたいで(笑)。それで“3万円分は頑張らなあかんわ”と思ったんですよね」
──それはやすやすと辞められない(笑)。
「それと、当時メールなんかで読者さんと交流できたことも、モチベーションになりました。今はTwitterのリプ欄に置き換わりましたけど、変わらずモチベになってますね」
──そのまま19年も更新し続けているのがすごいですよ。ちなみにPV数などの管理はしているんですか?
「最初はしようと思ったんですけど、当時使っていたツールが無課金だと広告が出てくる仕様だったので、めんどくさくなっちゃって(笑)。
今でも数字は追いかけていないですね。数字ばかりを追ってしまうと、釣り記事や釣りサムネみたいに邪悪さが出ちゃいそうなので。バズるための記事ではなく、自分が書いていて楽しい記事をつくるためにも数字はあえて見ないようにしています。これが長く続いている秘訣かもしれないですね」
──「自分が楽しい」は続けるうえで大事です。そしてUKさんが楽しんでいるからこそ、読者のわれわれも笑えるような気がする。
「私は虚構新聞で食べているわけではないですからね。あくまで趣味なんですよ。生活がかかっていないからこそ数字を見ずにできるのかもしれません」
文化庁メディア芸術祭で受賞し、客員教授に
──そんな中2012年に虚構新聞が『第16回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門推薦作品』を受賞します。もうなんかこの出来事自体が虚構なんじゃないか、と(笑)。
「これはね、文化庁の方から応募のお誘いをいただいたんですよ。どんな企画かも知らなかったので“ノミネート作品を水増ししたいんかなぁ”くらいの気持ちで応募したら賞をいただいて……。こんなに大規模なものだと思っていなくて、授賞式に出たときに“えっ?”って(笑)」
──当時の大賞はPerfumeの世界進出プロジェクトでした。受賞作品一覧で、虚構新聞の隣には庵野秀明/樋口真嗣の特撮映画『巨神兵東京に現わる』が名を連ねています……。そうそうたるメンツというか(笑)。
「そう。授賞式当日に“こんな大きい賞やったんや……”って驚きました。あまりに出来すぎだったので、スタッフの方にこっそり出来レースじゃないか聞いたんですよ(笑)。“違います。ちゃんと審査しています”って言われましたけど。
当時は東日本大震災の翌年で、Twitterが普及し始めた時期だったんで“拡散文化”を象徴するものとして評価していただいたようです。実際いまはTwitter経由で記事が広がることも多いので、当時の審査員の方は先見の明があったんやなぁ、と思います」
──まさか芸術的な分野で評価されるなんて、という感じですよね。一つひとつがフィクションであり創作なので、虚構新聞は立派な芸術作品だと思います。
「そう言っていただけるとありがたいですね」
──受賞してから10年、2022年からはご出身の滋賀県で成安造形大学情報デザイン領域 客員教授に就任されました。
「文化庁メディア芸術祭の関係で、成安造形大学の真下武久准教授とご縁がつながって、就任させてもらいました。真下先生は仮想と現実をテーマにしたインタラクティブ性のあるアートを創作されているので、虚構新聞に興味を持ってもらったみたいです」
──学生にはどんなことを教えているんですか?
「2022年は忙しくてあまり参加できなかったんですが“フィクションを現実っぽく見せるうえで工夫していること”について講義しました。
例えば“写真のリアルさ”って、単純に解像度を上げて高精細になるほど、リアルさが増すってわけではないと思うんですよね。例えば”UFOが出現”というニュースを扱うとき、鮮明な円盤の写真を出すと、かえって信じてくれない。むしろ解像度を落とした白黒写真のほうに信ぴょう性を感じることもある。
要するに虚構を現実っぽく見せるうえで大切なのは、読者の頭の中のイメージを想像して、その姿を写真や文章で表現して合致させることだと思っています。必ずしも現実=リアルではない。そんな感じのことを学生のみなさんに講義しました」
──なるほど~。おもしろいです。その先に「わかる!」とか「ありそうだよね」というユーモアが出てくるわけですね。
「そうですね。冒頭のお話に通じる部分もありますが、こうした工夫によって“共感”が生まれると思っています」
※後半は2000年代~2020年代にかけて虚構新聞の立ち位置はどう変わったのか。またUKさんは虚構新聞をどのように読んでほしいのか、についてお届けする。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)