たれぱんだ、リラックマ、すみっコぐらしなど、さまざまなヒットキャラクターを生み出してきたサンエックス。その中で2015年に誕生、新しいなかまを増やし、企業コラボなどで世界観を広げ続けているのが『じんべえさん』です。作者のタケウチユミコさんに、じんべえさん誕生から7周年を迎える今日までの歩みを伺いました。
水族館での衝撃的な出会いから『じんべえさん』が誕生
海のように大きい体と心を持ち、細かいことは気にしないジンベエザメをモチーフにした『じんべえさん』が生まれたのは2015年。きっかけはタケウチさんが、水族館に行ったことだった。
「水槽の中で大きく優雅に泳ぐジンベエザメの姿に感動しました。それでジンベエザメをモチーフにしたキャラクターを作れないかと。
私は小さいころから泳ぐことが好きで、川やプール、海で水の中に潜りそこからよく空を見上げていました。太陽や泡がキラキラした世界は本当に素敵で、その中でゆったり泳いでいる生き物のことも大好きに。
忙しい毎日でも、水の中は静かでキレイでゆったりしている。そういう世界観をじんべえさんの中で出せればと思いました」
そのような想いでスタートしたが、最初にタケウチさんが出したデザインは陸に上がったジンベエザメの下でカフェが開催されているもの。ジンベエザメの大きさにフィーチャーしたもので、色は現在よりも暗く、少し角張った形だった。
「一度はそれで提案したものの、やはりジンベエザメの泳いでいる姿が描きたいなと。最初にテスト販売したメモパッドで、カフェのうつぶせのポーズから泳いでいるポーズに絵柄を変えたんです。
するとこのメモパッドが、サンエックスの新キャラ選手権で1位に選ばれる結果に。そこからトータルデザイン展開されるようになったんです」
その後に発売されることになったぬいぐるみは、試作第1弾からイメージどおりの出来だった。新素材の柔らかいもちもち生地がじんべえさんのイメージともマッチし、プランナーと大喜びしたそうだ。
またじんべえさんの世界観を演出するために大切にしているのが、言葉選びや文字だ。言葉は見ている人に伝わりやすいように、短くゆるめに。でもテンポをよくして伝わりやすいようにしている。
「手書きっぽい文字のほうがイラストに合った優しい感じが出るかなと思い、ゆるめの手書き風フォントを使用しています」
じんべえさんの魅力を広げるなかまたち
じんべえさんの世界を広げ、多くのファンを魅了してきたのが、なかまたちの存在だ。シリーズ第3弾で登場した『まいごのこくじら』には、多くのファンがついた。
「元気で甘えんぼうなまいごのこくじらは、じんべえさんの優しさをより強調するようなキャラクターになりました。おかあさんを探していたまいごのこくじらは、みんなが応援したいと思う存在のようで、たくさんの人に気にかけてもらえたのだと思います。
『さめさん』も非常に人気があります。さめさんの登場は、サメが好きな人たちにじんべえさんを知ってもらうきっかけに。これを機にファンになったという声をいただくこともあります」
なかまたちの誕生秘話はまだまだある。ネコの形をした『ネコンブ』は、実はタケウチさんが入社して初めて作ったキャラクター。当時は採用されず商品化されることはなかったが、海の生き物ということもあり、じんべえさんの世界にサブキャラとして取りこまれた。
水族館で王道人気のペンギン。いつかはキャラクターにしたいと思っていたものの、なかなかタイミングが訪れなかった。ペンギンは1羽ではなく集合で何羽かいる姿が可愛いと考え、5周年を機に5匹を『星空のぺんぎん』としてデビューさせたそう。
そして2022年に新しく加わったのが『うみうさぎ』だ。
「以前に担当プランナーと、海にうさぎがいたら可愛いという話をして盛り上がっていました。のちにわかったのですが、実際に『うみうさぎ』という、白いうさぎのような外観の貝が実在していたんです。
私たちのうみうさぎは空想の生き物で、海と親和性の高い月から降りてくる設定に。見た目もカラフルにして、個性豊かなたくさんのうみうさぎを誕生させました。ぬいぐるみも可愛くできあがり、おかげさまであっという間に売り切れました」
新しいシリーズやキャラクターを考える際は、水族館を訪れることも多いというタケウチさん。お土産売り場を見たり、ネットで動物を見たりすることでアイデアを生み出すそうだ。うみうさぎのように、プランナーと盛り上がりながらできるキャラや設定も多いとか。今後も新しいなかまが増える予定があるそうで、今からどのようなキャラクターが加わるのか期待がふくらむ。
今後もじんべえさんとともにすぃーっと泳いでほしい
なかまが加わるとともに、ファンも増えていったじんべえさん。そのじんべえさんが色を変え、ファンに衝撃を与えたのが、2022年夏の岩下の新生姜とのコラボだった。
「岩下食品の社長がじんべえさんを好きということと、岩下の新生姜ミュージアムとじんべえさんが同じく7周年を迎えるということもあり、コラボをすることに。岩下の新生姜をイメージして色はピンクに、頭にも岩下の新生姜をつけました。じんべえさんが急にピンク色になったため驚いたファンもいたようですが、喜びの声も多かったですね。
ネットで販売したぬいぐるみもすぐに完売してしまい、反響の大きさに驚きました」
岩下の新生姜色のピンクになったじんべえさんに岩下社長も大喜び。岩下の新生姜ミュージアムでもじんべえさんのグッズを取り扱っており、2022年夏頃にはミュージアムカフェでコラボメニューも登場。かわいくておいしいと大好評だった。このように多くの人から愛されているじんべえさんだが、そんなじんべえさんに一番憧れているのは、作者のタケウチさん自身だと言う。
「細かいことに動揺せずゆったり泳いでいるじんべえさんは、私の憧れでもあります。部屋にアートボードを飾っていますが、にっこりしているじんべえさんは自分がどのようなメンタルのときでも癒してくれる存在。いつかじんべえさんと一緒に、すぃーっと泳ぐことができたら嬉しいです」
これまでに2冊発売された絵本でも、じんべえさんは私たちに寄り添ってくれている。まいごのこくじらをテーマにした1冊目には、まいごのこくじらのおかあさんを探すエピソードを収録。2冊目ではずっとひとりぼっちだったさめさんが、じんべえさんと暮らすことになるエピソードを描いている。絵本の冒頭では、まいごのこくじらもさめさんも、寂しい思いをして暮らしていたのだ。
「日常生活の中で私たちにも困ったことや難しいことが起こりますが、解決してもしなくても時間は流れていきます。絵本ではじんべえさんと出会い優しさに包まれることで、まいごのこくじらたちは寂しさを抱えつつも毎日を楽しく過ごせるようになります。
たとえ悩みが解決しなくても、何かをきっかけに毎日を楽しく過ごすことができたらいいなという思いを込めてストーリーを考えました。じんべえさんのファンは本当に優しい人が多く、久しぶりにSNSを更新しても温かい言葉で迎え入れてくれるんです。その気持ちに今までたくさん助けられてきました。今後もゆったりしたじんべえさんの世界を楽しみつつ、一緒に泳いでもらえたら嬉しいです」
岩下の新生姜とのコラボで、海以外のものともコラボできる新しい可能性を開拓。「新型コロナウイルスの影響で落ちこんでしまった水族館などを、じんべえさんと一緒に盛り上げていくお手伝いが少しでもできたら嬉しいですし、みなさまの毎日が楽しくなるきっかけのひとつとなれたらという気持ちで今後も制作していきたい」とタケウチさんは話していました。どのような世界をじんべえさんと作り上げ見せてくれるのか、楽しみでなりませんね。
(取材・文/酒井明子、編集/福アニー)
【Information】
●『じんべえさん すいーっとのんびりじんべえらいふ』(タケウチユミコ著、主婦と生活社刊)
海の人気者・じんべえさんの優しい世界を描いた絵本第2弾! いつもゆったりごきげんなじんべえさんは、みんなの憩いの場。新しい仲間も加わって、ますますにぎやかな「のんびりらいふ」が広がります。春夏秋冬の4コマ、新しい仲間とのお話、ちょっとじーんとする描き下ろしストーリーなどボリュームも読みごたえもたっぷり。お話にはすべてふりがなつきなので、大人も子どもも楽しめて癒やされる大満足の1冊になっています。プレゼントにもおすすめ☆