日本を代表し続けて約40年。いつまでもゲストを楽しませてくれているテーマパークが東京ディズニーリゾートだ。その魅力について、もう7冊も本を書いているみっこさんにインタビュー。前回は「なぜハマったのか」「なぜ1000回通っても飽きないのか」について伺った。
【第1弾インタビュー→「ディズニーは1000回通っても飽きないです」ディズニーオタク・みっこさんが語る“自宅よりTDR”そのワケとは?】
今回は、そんな東京ディズニーリゾートの“オタク界隈”について語っていただく。ありとあらゆる楽しみ方ができるテーマパークならではの、幅広いうえに深すぎる”沼”が、そこにはあった。
東京ディズニーリゾートには、もう見どころしかない
――前回「東京ディズニーリゾート(以下、TDR)オタクには、いろんな種族がいる」というお話がありました。TDRならではだなぁ、と思ったんですが、例えばどういった種類のオタクがいるんですか?
「まず私を含めて“世界観やバックグラウンドストーリーのオタク”ですね。ディズニーに設けられた各エリアのテーマについてリサーチしながら、そのこだわりっぷりやプロ意識に興奮するタイプです」
――例えばどんなポイントでテンションが上がるんですか?
「そうですね、例えば1912年のアメリカの港町を模した『アメリカウォーターフロント』の話をしましょう。そこにはいろんな店舗のセットがあって、その中に看板屋さんがあるんですよね。で、ちょっと離れたところに、小型船舶用の燃料スタンドがあるんです。そのスタンドの看板に小さく看板屋の店名が書いてあるんですよ。ホントに隅々まで見ないと気づかないポイントなんですけど。
こうした工夫を見つけては“あ、この看板はあそこで作られたんだ!”って気づいて“自分はいまアメリカの世界にいるんだなぁ”としみじみ感慨にひたるタイプですね(笑)」
――(笑)。何回も通わないとわからないポイントですよね。その他にはどんなタイプのオタクが?
「やっぱり多いのはディズニーキャラクター好きの方ですね。あの……バッグとかに大量のぬいぐるみを付けているので、すぐわかると思います(笑)」
――ちなみに、特に人気のキャラクターは?
「やっぱりミッキーマウスが一番人気ですね。いろんなキャラクターが次々に生まれますが、ミッキーは不動です。
ちなみにキャラクター推しの方には“中オタ”というジャンルがあるんですよ。要するにあの……ミッキーの中の……」
――あっ…(察し)。な……なるほど~。ちなみに、どうしてわかるんですか(笑)。
「それが“手首、足首の太さ”とか“サインの字体”とかで”今日のミッキー”がわかるそうなんですよね(笑)。
あとは、ショーのときのアドリブで判断する方もいます。例えば“ミッキーのダンス中に、そばでお祈りしながら見守るミニー”のポージングを見て、”中”を理解するっていう……。オタク界隈では“今日は推しのミニーだった!”って喜んでいる方が多いです(笑)」
――ちょっとすごすぎますね。ここまでキャラクター愛が強い人には、もう感服です。
「ですよね。それとキャラクターオタクに近いところで、アニメ作品から入って、TDRのオタクになる方もいます。これはTDRの再現度の高さの賜物(たまもの)だと思いますよ。
最近だと東京ディズニーランド(以下、TDL)に『美女と野獣』のエリアが登場しました。私、事前にあらためてアニメ映画の『美女と野獣』をスロー再生しながら隅々まで見たんですよね。だからわかるんですが、映画ではほんの一瞬しか登場しない書店の扉や窓の形まで、完璧に再現されてるんですよ。
細かい部分まで徹底されているからこそ、アニメ作品からTDRオタクに流れてくるんでしょうね。やっぱり“好きな作品の住人になれる”という感覚はかけがえのないものです」
――それはおそらくディズニー以外のアニメオタクもわかると思いますね。 現実に召喚してくれるのホントありがたい……。
「キャラクターが近くを歩いているのも大きくて。やっぱり“同じ世界で生きてる”という興奮はあると思いますね。
あとは、パレードが大好きな方もいます。15時のパレードのためだけに9時の開園から来て、6時間ずっとミッキーが踊る場所の目の前に座っている方もいますね。で、見終わったらアトラクションにも乗らずに帰る、という。
現在はコロナ前と状況は若干異なりますが、誰もいない道の真ん中にひとりだけ座っている方がいたら、その方はパレードオタクです。だいたいミッキーが踊る場所の目の前に座っているので目印になります(笑)」
――なるほど。みっこさんもパレードやショーはやっぱりお好きなんですか?
「新しいパレードやショーの初日は並ぶこともありますが、希望の位置はなかなか取れませんね。例えば2022年11月11日スタートの『ビリーヴ!〜シー・オブ・ドリームス〜』のときは朝6時から並んで、開園と同時に急いで場所取りしましたが、もうベストポジションは埋まってました。仕方なく第3希望の場所に座りましたね。19時40分スタートなので、10時間以上その場で友達と話してました」
――マジですか……。モノ売るっていうレベルじゃねぇですね……。
「でも本当に好きな人は、ひとりで10時間座ってますからね。私はまだ話し相手がいる分恵まれてます。
パレード・ショーオタクの毛色はだんだん変わってきていますね。以前は“ただ見てるだけで幸せ”という感じだったんですが、最近だと“好きなキャラクターからレスが欲しい!”と思っている方が多いように思います」
ディズニーの世界観を守りたいがために”学級会”が開催される
――なるほど。“ファンサ(ファンサービス)”という文化が浸透してきたんでしょうか。さすがにアイドルのライブのように“投げキッスして!”的なうちわを持ってる人とかはいないんですか?(笑)
「さすがに見たことないですね(笑)。ただ、ちょっと違いますが、ランド内で男性アイドルグループのメンバーのうちわを持ってきて、一緒に写真撮っている人はいました。それは賛否両論でしたね。“みんな非日常を楽しんでいるのに現実のアイドルを出すのは違うのではないか”という論点で、ちょっと物議を醸しました」
――なるほど。確かにディズニーの世界観としてはNGなのかもしれないけど、楽しみ方は人それぞれではありますもんね……。
「そう。特にSNSが発達してからは、TDRオタクの中でよく議論が巻き起こりますね。われわれは“学級会”と呼んでいます(笑)」
――学級会(笑)。
「TDRオタクは、もしかしたら株式会社オリエンタルランド以上に、ディズニーの世界観を守ろうと必死なのかもしれません。だからルール違反っぽい行動を見つけると、警察化してしまうというか……。一般的に“Dヲタ(ディズニーオタク)は怖い”っていう印象があるかもしれませんが、それは私が客観的に見ても事実だと思います(笑)」
──みっこさん個人としては、どういったスタンスなんですか?
「もちろん、最低限のルールはありますので、そこは守ってほしいな、と。今まで老若男女誰もが安心して楽しめる場所であり続けてきたので……。例えば最近ニュースで報道された”下着ユニバ”みたいなことは許されない風潮はあります。
ただルールさえ守っていれば、相手の楽しみ方を何でも否定するのは違うと思います。さっき紹介したとおり、TDRはいろんな楽しみ方ができるので“パレード見るために長時間座るなよ”とか“レスばっかり求めて何が楽しいんだよ”とは思わないです。パレード好きの友達と行くときは、私も一緒に数時間待ちますしね」
――素敵な考えだ……。あらゆる楽しみ方ができるTDRオタクならではの心の広さな気がします。
「ただ、ぶっちゃけ好きなポイントが違うと、1日ですべてを楽しむことは難しいんですよ。確実に時間が足りないんです。
初めての方でやりがちなのが“アトラクションもパレードもレストランも全部楽しむぞ”と意気込んで、すべて中途半端になってしまったというケースです。TDRを本気で楽しみたいのなら“今日はパレードを見る日”“今日はアトラクションを回る日”という感じで、何かひとつにフォーカスしたほうがいいですね。
それ以上に楽しみたい場合は、ソロで行くことをおすすめします。ただ写真を撮りながらぶらぶら散歩しているだけでも、日ごろのストレスから解放されて、思い切り羽を伸ばしながら非日常を楽しめますから。
気合い入れて耳のカチューシャをつけなくても、週末にディズニーの予定を入れるだけで、“よし、今週は仕事頑張るぞ!”と思える場所なので、もっとフランクに通えるオタクが増えたらいいな、と思いますね」
◇ ◇ ◇
40年間、日本代表であり続けるテーマパークへのリスペクト
みっこさんは普段、カメラを片手にひとりでパーク内を散歩するのが好きなのだという。その中で、思わぬ発見に出くわすことに快感を覚えるのだそうだ。それはわかる気がした。
あれだけ幸福な空間は、日本中探しても他にない。誰もがニッコニコで、疲れを感じないくらい楽しい世界はない。だってほとんど年中花火が上がってるんだぞ。冷静に考えたら、どういうことだよ。最高すぎるだろ。
個人的にはもう20年以上行っていないのだが、それはなんとなく、無理やりカチューシャつけて、無理やりスキップして自分を騙(だま)さなきゃいけないんじゃないか、と思っていたからである。いやしかし、みっこさんの話を聞くうちに、ひどくもったいない20年だったような気がした。
結局、勝手に敷居を高くしちゃっていたのだ。東京ディズニーリゾートとは、きっと無理しなくても「いるだけで楽しい空間」なのだろう。そしてその背景にはキャスト、ダンサー、キャラクターたちのおもてなしの心がある。「唯一無二の世界観をついつい守りたくなる」というDヲタならではの姿勢は、40年間、日本を代表し続けたテーマパークへのリスペクトの表れなのだ。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)
〇みっこさんのTwitter:@mikko_20100518