NHKの大河ドラマ『真田丸』で“最大のヒール役”と言われた大蔵卿局(おおくらきょうのつぼね)や、連続テレビ小説『エール』での克子役など、一度見たら忘れられない演技で作品に色を添える女優・峯村リエさん。『ナイロン100℃』(以下、ナイロン)の主力女優として劇団の作品に出演する以外にも、シス・カンパニーのプロデュース公演や映画など、多方面で活躍しており、2023年4月1日からは話題の舞台『帰ってきたマイ・ブラザー』に出演中です。
今回は『真田丸』撮影中の忘れられないエピソードや、スランプをどのように脱出したかなど、芝居との向き合い方をメインに語ってもらいました。
(『帰ってきたマイ・ブラザー』の稽古の様子や、演劇の道に進んだきっかけ、ナイロンの前身だった『劇団健康』で鍛えられた日々については、インタビュー第1弾でお伺いしています→峯村リエ、劇団時代は「ほぼ無給」「価値観がぶっとんだ」、試練だらけの下積み時代を振り返る)
大河ドラマの撮影中に4回連続NG! 堺雅人にかけられた言葉とは
──舞台にとどまらず、映画やドラマにも多数出演されている峯村さんですが、撮影時に苦労したエピソードはありますか?
「最初に出演した大河ドラマが『真田丸』(’16年)なんですが、NHKって本番が始まるとき、「よーい、はい!」ではなくて、ブザーが鳴るんですね。ブーッと鳴った瞬間にプレッシャーが押し寄せて、一気に緊張してしまって……。主演の堺(雅人)さんとふたりのシーンだったんですけど、現代では使わない言葉ということもあり、台詞が飛んで何も言葉が出てこないまま、カメラを4回連続で止めてしまったんです。“もうこの世界からいなくなりたい”って本気で思いましたね(笑)。でも堺さんが“大丈夫、大丈夫。100回くらいやっても平気だから”っておっしゃってくださって。なんとかやっていくうちに、だんだんと逆ギレみたいな気持ちがわいてきたんですよ。“もう、こんなのできないよ”みたいな(笑)。そうしたら気持ちがちょっと楽になって、台詞が言えるようになりましたね」
──なんとか乗り切れてよかったです。生物(なまもの)である舞台では、本番で失敗してしまったことなどありましたか?
「1回だけあります。ナイロンの舞台で、ことわざを言わなきゃいけないシーンがあって、それがどうしても頭に入らなかったんですよ。私の横には三宅(弘城)さんがいて、練習ではすかさず“〇〇だよ”って教えてくれていました。さすがに本番では“もう覚えたし、大丈夫だろう”って思っていたのに、本当に台詞が出てこないときがあって……。“それはアレですよね、ことわざにある、ほら……”って濁らせていたら、周りも“これはまずいぞ”って察してくれたんでしょうね。三宅さんがまさかの、いっこく堂さんの腹話術のマネをして、モゴモゴと台詞を伝えてくれたんです(笑)。奇跡的に乗り切れました」
ナイロンの舞台ではアドリブ禁止!? 作品を選ぶ基準は“人”が大きい
──昨年は三谷幸喜さんの作品『ショウ・マスト・ゴー・オン』にも出演されていました。三谷さんは演出面が厳しいという話を聞いたことがあるのですが、実際はどうでしたか?
「台詞の一字一句まで正確にチェック……というほどは厳しくなかったですね。稽古場で“アドリブを入れたい”と俳優が言ったら、その都度、OKか否か判断されていました。逆に、ケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ。ナイロンの主宰で劇作家)は、こだわっているセリフだと、“てにをは”までも厳しく直していましたね。ケラさんの現場では、アドリブも一切ダメ。本当に怒られます(笑)」
──さまざまなジャンルの作品に出演されている峯村さんですが、出演作を選ぶ基準はありますか?
「最初に、“こういうお話があるんですけれど”って提案をいただいた段階で、脚本があれば読んでいます。自分が一緒にやったことがない演出家の方や、“この人と共演してみたかった”というように、かかわってみたい方がいるかどうかで選ぶことは多いですね」
“いじわる役”も「無理して演じている感じはしない」と語るワケは
──イベントなどで峯村さんを拝見したときは、歌のサビを何度も楽しそうに歌われたり、笑顔が多かったりと、すごくチャーミングな印象があるのですが、『真田丸』や『エール』では“いじわる役”を演じ、話題になりました。自身とのギャップなどは感じていますか?
「顔つきとか、背の高さ(173センチ)から、そういう役が来ているのかもしれないですね。思えばケラさんと組んだ初めての舞台でも、かなり厳しいバーのママ役をいただいて、竹刀を持って“黙りなさい! “って言ったりしていました」
──それはインパクトのある役ですね。キツめの人物などは、演じていてつらくなったりもしますか?
「う〜ん、私ね、もしかしたら自分の中に、ちょっと性格がキツいところもあるんだと思うんです。だから決して(いじわる役を)無理して演じているっていう感じはしないんですよ。強い台詞でも普通に言えるので」
──それだけ役に没頭されるタイプなのだと思います。ちなみに自分にも厳しいのですか?
「自分には甘いですね、すごく甘い(笑)。私は親しい人にははっきりとものを言うほうで、相手もそういうタイプが多いので、ときにはお互い、叱り合っています。だから上辺(うわべ)だけでなく、深い仲になりやすいのかも。でも、“友達が多いね”ってよく言われますが、本当に信頼できるような間柄の人は、各グループに1人か2人くらいですよ。、お酒をよく飲む仲間、お芝居のことを語る仲間、好きなグループの話で盛り上がる仲間……って、それぞれカテゴリごとに分かれている感じですね」
“推し”のおかげで『帰ってきたマイ・ブラザー』で感情移入ができるように
──好きなグループの話で盛り上がる仲間がいるとのことですが、具体的には?
「BTS! BTSにハマってから、その話題を共有できる仲間ができて、LINEでもグループを作り、必死にチケットをゲットし合ったりしています。そのうちのひとりが、犬山(イヌコ)さん。同じ劇団で出会ってからもう38年くらいなんですけれど、ふたりでこんなにキャッキャするのは初めてですね(笑)。
’21年に出演したナイロンの舞台『イモンドの勝負』の楽屋で、俳優陣にイチオシのBTS動画を送ったんですよ。そのときは犬山さんも“あ〜、なんかダンスがうまいニャー”なんて言って興味なさそうだったのに、半年後には、どハマりしてくれていました(笑)」
──すごくイキイキとしたお顔をされていて、楽しさが伝わってきます! 峯村さんがBTSにハマったきっかけは?
「コロナ禍で家にいる時間が増えたとき、身体を動かしたいなって思ってYouTubeを観ていたら、“踊ってみた”的な動画ですごくノリのいい曲が使われていたんです。“誰の曲だろう”と気になって調べてみたら、BTSで。そこから実際に彼らのパフォーマンスの動画を観ていくうちに、ダンスがものすごく洗練されていることに感動して、すぐにファンクラブにも入っちゃいました。ここまでハマったのは人生初ですね」
──“推しメン”はいるのですか?
「基本的には、箱推し(グループ全体を応援する人)です。あえて誰か選ぶなら、テテ(V)かな。あとは、末っ子のグク(JUNG KOOK)がメンバーからすごく愛されているんですけど、その様子が舞台『帰ってきたマイ・ブラザー』での堤(真一)さんと重なるんですよ! 水谷(豊)さん、段田(安則)さん、高橋(克実)さん、堤さんが、かつて大ヒット曲を放った兄弟グループを演じるのですが、いちばん年下で、稽古場でも可愛がられている堤さんが、グクの立ち位置とちょうど一緒だなあって。ほほえましく見つめています」
──峯村さんは、その兄弟グループ“ブラザー4”の、かつての熱狂的なファンという役どころですよね。ちょうど感情移入しやすいのではないでしょうか。
「そうですね。これまでは、例えば同じお芝居を毎日のように見に来てくださる方に対して、すごくありがたいのですが、“内容はいつも一緒なのに、どうして何度も?”と思っていたんですよ。でも、今は完全にその気持ちがわかります!(笑)」
つらかった『劇団健康』時代、手塚とおるとのエチュードでスランプから脱却
──長く女優を続ける中で、特につらかった時期はありましたか?
「もう30年ほど前ですが、『劇団健康』にいた時代ですね。私の芝居の感覚とか、面白いと思うことって、ホースに例えるとすごく細かったと思うんです。でもケラさんや、その周りにいた犬山さん、手塚(とおる)さんに、無理やりガーッて広げられた気がするんですよ。最初のうちは、みんなが面白いって感じるようなことが絶対にできず、“こいつはつまらない”って思われていることに気づいていた。求められることに応えられないし、認めてもらえないことを稽古場で毎日実感して、いちばんしんどかったですね。“私、あのときなんで辞めなかったんだろう”って思うくらい。特に、若い団員が入ってきて、その子たちのほうが面白かったりすると、“はぁ~(ため息)”って思いっきり落ち込んでいましたね」
──どのようにスランプを乗り越えたのですか?
「手塚さんと、稽古場でエチュード(即興劇)の相手役として組ませてもらったんです。手塚さんは、こちらのセリフや動作を拾ってツッコむのがすごく上手で、一緒に演じていて本当に楽しくて。もう、ずっとそのエチュードをやっていたいくらいでした。それを見たケラさんが“リエちゃん、ボケ役をやるのが似合いそうだね”と言って、『予定外』(’93年上演『NYLON100℃ 1st SESSION インタラクティブテクノ活劇 予定外』)でそういう役を書いてくれたんです」
──手塚さんとの共演で、峯村さんの本来の魅力が引き出されたのですね。
「手塚さんとのエチュードで、あんなに苦労した“面白いこと”が簡単にできた。“これか! みんなが面白いと思っていることは!”とやっと気づけて、道が開けたんです。そう思うと、手塚さんが人生のキーパーソンみたいな感じですね」
“芝居を押し出しすぎない女優”が好き。大事にしている言葉とは?
──峯村さんは、映画『ふがいない僕は空を見た』(’12年、タナダユキ監督)でのネグレクトの母親役や、ドラマ『あなたの番です』(’19年、日本テレビ系)のシュールな住人役など、出演シーンは短くとも、印象に残る役を数多く演じています。そのような深みのある人物を、どうやって演じられるようになったのですか?
「もしかしたら、いろいろな現場で多くの女優さんを見てきたことが影響しているかもしれません。私が好きな女優さんって、自分のお芝居が前面に出すぎていない人たちなんです。だから共演したときに、“いいな”って思うところをマネしたいなと思って、観察していました。でも……やっぱり、なんでしょうね~。この年齢になって、少しは深みが増したのかも(笑)」
──最近は、演劇よりもYouTubeのような映像で表現をする人が増えてきています。そのような風潮をどう感じていますか?
「今はYouTubeなどで簡単に表現する方法があるけれど、それに世間が飽きてきたら、まただんだんと舞台のほうに関心が戻ってくるんじゃないかって思いますね」
──最後に、ご自身の生き方に影響を与えた言葉や、大事にしている考え方はありますか?
「劇団健康時代に、客演で出てくださった秋山菜津子さんがおっしゃった、“腐ったら負けよね”っていう言葉なんですけれど。誰でも、腐りたくなるときが多々ありますよね。私なんて、演劇とか好きなことをしていても、“あ〜、もういいや”ってなるときもあるんですよ。でも、そのままでいたら、もうすべてが終わってしまう。そこから“よいしょ!”と奮起して頑張ることが大切だなと思って、秋山さんの言葉を常に自分に言い聞かせています」
◇ ◇ ◇
ドラマなどで演じている、ときに少しとっつきにくい役柄とは違い、コミカルに優しい口調で語ってくれた峯村さん。年齢を重ねながら、さまざまな演技に挑戦し続ける姿勢に、観ているほうも勇気づけられます。これからもいろいろな作品で活躍されていくのが楽しみです!
(取材・文/池守りぜね)
【PROFILE】
峯村リエ(みねむら・りえ) ◎1964年、東京都生まれ。身長173センチ。『ナイロン100℃』所属。数々の舞台・ドラマ・映画に出演を続ける。’16年以降の出演作に、映画『あなたの番です 劇場版』『犬も食わねどチャーリーは笑う』、大河ドラマ『真田丸』『青天を衝け』、連続テレビ小説『エール』、テレビドラマ『あなたの番です』(日本テレビ系)、『最愛』(TBS系)、『漂着者』(テレビ朝日系)、舞台『ザ・ウェルキン』など。’23年4月からはテレビ朝日系『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』、舞台『帰ってきたマイ・ブラザー』、7月~8月は舞台『ピエタ』に出演。
シス・カンパニー公演『帰ってきたマイ・ブラザー』
作:マギー/演出:小林顕作
出演:水谷豊/段田安則/高橋克実/堤真一/池谷のぶえ/峯村リエ/寺脇康文
【東京公演】2022年4月1日(土)~4月23日(日) @世田谷パブリックシアター
※東京公演後、名古屋、大阪、福岡、西宮、新潟、札幌、仙台、京都と各地で上演
《ライブ配信決定》4月15日(土)にライブ配信を実施! 詳細は公式サイト(https://www.siscompany.com/brother/)をご覧ください