昨年秋にシングルEP『まばたき』をリリースし、同曲はABEMAドラマ『恋愛ドラマな恋がしたい in NEW YORK』の主題歌にもなったシンガーソングライターの藤原さくらさん。2月10日より公開中の『銀平町シネマブルース』では映画に初出演し、小さな映画館で働くアルバイトの足立エリカを演じている。
アーティストでありながら映画・ラジオ・ドラマと表現できる場を広げつつある藤原さんがそれぞれの現場で気づいたこととは?
映画の舞台はレトロなミニシアター
「お話をいただいたときはとってもうれしかったです。映画館に通いつめて“あと何回で、(ポイントが貯まって)タダで見れるー”なんてホクホクしていた10代のころを思い出します」
『銀平町シネマブルース』は架空の町・銀平町を舞台に、一文無しの映画監督の近藤猛(小出恵介さん)が古びた映画館「銀平スカラ座」で働きはじめ、支配人の梶原(吹越満さん)や街の人々と触れ合い、映画への情熱を取り戻していく。ロケは埼玉県に実在するレトロな映画館の川越スカラ座を中心に行った。
小江戸・川越の空気感を存分に生かしたこの作品。昭和から時間が止まったようなミニシアターで撮影ができたことを藤原さんは、
「雰囲気のよい映画館でした。セットではなくて、落ち着く場所だったので、自分も自然体でいられた気がします。チケットのもぎりも経験できて楽しかったですね。お休みの時間に観光や食べ歩きもできて」
と振り返る。川越の街並みを味わいながら作り上げていった映画は、何よりも映画好きが集まった人情劇に。
「映画に救われた人には、ぜひ観てほしいです。そして無気力になってしまって、どうしたらいいかわからなくなってしまっても、計らずにいつしか赦(ゆる)されたり、前に進めることがあるのが人生だし、リスタートできるんだという気持ちになれました」
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映画好きな藤原さんだが、好きな作品について聞くと「ダムをぶっ壊していく映画とか結構ニッチなものが好きです」とのこと。ダムをぶっ壊していく?
「『ダムネーション(DAMNATION)』(2014年)というアメリカの作品です。雇用を生むために造りすぎたダムが魚を絶滅させ、負の遺産になってしまう。結局、何十というダムを爆破していくのですが、そこでまた雇用が生まれるというのが面白かったですね。
ミニシアター系で観ることも多くて『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』(2016年)は、ダンサーのセルゲイ・ポルーニンに密着して撮った映像美に号泣してしまいました。両方とも実話がモデルなので、ドキュメンタリー的な作品が好きなのかも」
日高七海さんとのゆるいトークラジオが気づきをもたらす
『銀平町シネマブルース』で共演したバイト仲間役の日高七海さんとは今、ポッドキャストの番組で一緒にトークをしている仲だ。この「ファミジワ」こと『今ファミレスにいるんだけど隣の席の女子が話してる内容がジワジワきてるんだが共有してもいいですか?』では、2人が仕事やプライベートで気づいたことなら何でも、雑談のようにゆるいトークを繰り広げている。
「撮影で仲よくなってから、私が一方的に誘いました(笑)。もともと音楽に関するラジオ番組をレギュラーでやっているのですが、それよりもラフな雰囲気というか、私たちの身のまわりのことを何でも話せる番組をやってみたかったんです。
リアルでの友達同士さながらに、まじめなこともちょっと笑えるネタも話していくんですが、他愛もないトークに終始しているので聴いた後に何も印象が残らないかも(笑)。でもそれがかえって番組の醍醐味で、飽きないで聴いていただけているようですね」
以前からポッドキャストをよく聴いていた藤原さんだが、特に好きな番組が『叶姉妹のファビュラスワールド』だという。いったい、あのファビュラスな彼女たちのどんなところに興味津々なのだろうか?
「常人ならざるところというか(笑)、もう考え方からして普通の人とかけ離れた思考をお持ちの方たちじゃないですか。その哲学を聞けるのが面白いんです。初めは理解できないんですけど、聴いているうちにこういう考え方もあるんだという気分になります。私に実践できるかはまた別問題ですが(笑)」
世間一般の価値観にとらわれないライフを送っている叶姉妹のトークに感銘を受けることも。
「恋愛の価値観ひとつとっても、固定のパートナーを持たなかったり。彼女たちの話を聞いていると、私たちが常識と考えているものって絶対的な尺度ではないなと思えてきます。当人たちがよければそれでいいんじゃない? と自分の考え方を相対化できるんです。文字だけだと誤解されそうな発言があっても、リアルタイムで聴いていれば話し手の感情までわかるのもトーク配信のよさですね」
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人は千差万別で、生き方や考え方も興味も無数にあるとわかるのがフリートーク番組の面白さだと、聴き手としても作り手としても感じている。
「エンタメの仕事をしていると本当にいろんな考えの人と接するので、世の中の多様性を実感しますね。私たちの番組も、こんな人たちもいるんだなくらいに聴いてもらえたら嬉しいです」
後悔しない! 何事もプラスにしていく思考法
2022年末にはドラマ『束の間の一花』(日本テレビほか)で6年ぶりにドラマヒロイン役、映画にラジオと音楽界を離れた活躍が続く。
「すべて音楽に通じるのかなと思っているんです。いつかは1人で完結する音楽も作ってみるのが夢ですが、表現のためにもいろんなものに触れたいなと実感していて。
それぞれの仕事の現場で人の多彩な価値観に触れることで、私はこうなんだという軸がよりクリアになってきます。人としてここは譲れないというポイント、私らしさが明確になって、曲作りに落とし込めたり」
俳優業でもラジオでも、失敗やネガティブな風評があっても後悔しないという藤原さん。
「全然うまくいかなくても、“やってよかった”と思えるタイプですね。演技で失敗しても次はこうやってみようと切り替えていけますし、よくない評判に触れても“やらなきゃよかった”とふさぎ込まないで何かしら収穫を見つけることができます。
それにどの現場も楽しいので続けているんですね。私でよかったと少しでも思ってもらえればそれが作品への貢献で、私自身の進化でもあると思います」
どんな活動でも表現者同士、言葉や演技をぶつけ合うことで思考がクリアになり、血肉になっていく。そのプロセスが藤原さんの創造力に深みをもたらしてくれている。
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(取材・文/大宮高史、ヘアメイク/筒井リカ、スタイリスト/岡本さなみ)
《PROFILE》
藤原さくら(ふじわら・さくら) 1995年生まれ、福岡県出身。2015年3月メジャーデビュー。シンガーソングライターとしてだけでなく俳優としても活躍し、’20年にはレギュラーラジオ『HERE COMES THE MOON』がスタート。’22年3月からは日高七海さんとのポッドキャスト番組『今ファミレスにいるんだけど隣の席の女子が話してる内容がジワジワきてるんだが共有してもいいですか?』を配信中。’22年11月、シングルEP『まばたき』をリリース。現在、自身初の全国弾き語りツアー”heartbeat”を開催中。4月21日(金)・22日(土)にはツアーファイナルとなる東京公演を三越劇場で開催。
【Information】
●映画『銀平町シネマブルース』
出演:小出恵介 吹越満 宇野祥平 藤原さくら 日高七海 中島歩 黒田卓也 木口健太 小野莉奈 平井亜門 守屋文雄 関町知弘(ライス) 小鷹狩八 谷田ラナ さとうなほみ 加治将樹 片岡礼子 藤田朋子/ 浅田美代子 渡辺宏之
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ