映画『カノジョは噓を愛しすぎてる』のオーディションで、約5000名の中からヒロインに抜てきされ、2013年、ヒロイン・小枝理子役で鮮烈なデビューを果たした大原櫻子さん。映画内で結成したバンドのボーカル兼ギターとして、CDデビューも飾った。以来、俳優とアーティスト、二足のわらじを履き続けている。
2021年10月期のドラマ『つまり好きって言いたいんだけど、』では、主人公を演じたうえ、エンディングテーマ曲『ポッピンラブ!』を自ら作詞作曲歌唱した。12月7日には、この楽曲を含む6thアルバム『FANFARE』をリリースした。
多方面に活躍の場を広げる大原さんは、新作『FANFARE』で“さまざまな愛”をテーマに歌っている。それぞれの楽曲に込めた思いや制作秘話、さらにはキャリア観についても明瞭かつ率直に語ってくれた。
(アーティスト活動の他、俳優としても活躍する多忙な日々の中で、大原さんの心を解いてくれる愛用グッズの紹介や、個人事務所へ独立後、変化した心境についてのお話は前編で紹介しています→記事:大原櫻子、アーティストと俳優の二足のわらじ「こらえきれなくなってパンクしたことも」慌ただしい日々の中で、心をほっと解いてくれるもの)
満を持してのアルバムリリース──それぞれの曲に込められた思いとは
──6thアルバムのタイトル『FANFARE』には、どんな意味や思いが込められていますか?
「タイトル曲『Fanfare』は、最後にレコーディングした曲で、このメロディを聴いたときに、“ひとりの女性が先頭に立って歩いていて、みんなを引っ張っているみたいだな”というイメージが浮かびました。他の曲と比べても、強さや前向きさが突出していると感じ、この曲を中心にアルバムのタイトルをつけたいと思いました。
作詞家の前田甘露(まえだ・かんろ)さんと歌詞について話し合う中で、私がメロディから浮かんだイメージを共有しつつ、コロナ禍だったり、世界で紛争などがあり、“今ってなかなか気分が浮上できない感じがあるよね”って話になったんです。そこから、ひとりでは前を向こうとしても難しいけど、みんなと一緒に進んでいけばいいと、歌の主人公が気づくストーリーにたどり着きました」
──なるほど。曲を聴いたとき、大原さんが先頭で旗を振って行進するイメージが浮かんだ訳がわかりました。
「ありがとうございます。ジャンヌ・ダルクではないですが、そうしたイメージを曲にしていただきました。多分、私自身もどちらかと言えば先頭を切って歩こうとするタイプ。この歌からは、主人公の後にみんながついてきてくれているという印象を受けて、すごく安心したし、勇気づけられました。ライブなどで、この曲を一緒に歌えたらすごくいいなと思いながらレコーディングをしました」
──アルバムではさまざまな愛をモチーフにした曲を歌っているそうですね?
「『Fanfare』で高らかに始まり、そのあとに『ポッピンラブ!』のようなかわいい曲があったり、切ない気持ちや胸がきゅんとする曲、かと思えば初恋に戻ってみたり……といろんな感情が表現されています。これまでの作品も私の人柄が出ていたと思いますが、今の大原櫻子がぎゅっと詰め込まれているなと感じます」
──ご自分で作詞・作曲した楽曲と、クリエイターの方が作った楽曲で、歌唱の際に違う感覚はありますか?
「私自身が書いた曲は自分の要素が強くなると思いますが、制作をお願いする際もテーマや思いをしっかり私自身がお伝えするので、“これは自分の中にまるでない世界観だな”と感じる曲は少ないんです。
それとは別に、あえて私からかけ離れた人物を主人公にして書いていただくことも。それはそれで、歌う際に新鮮で面白いんですよね。大人っぽい恋愛を描いた『愛のせい』は、そうしたテーマで書いてほしいと、私からお願いしたものです。メロディを聴いたときに、この曲には大人っぽい恋愛が似合うなと思ったので、そのイメージに近い女優さんの名前などを伝えながら、蒼山幸子さんに歌詞を書いていただきました」
──『愛のせい』で、男性を翻弄(ほんろう)するような小悪魔的な女性像を歌った感想は?
「素の大原櫻子ではちょっと恥ずかしくて言えないことも多く、どこか役を演じているような、歌の主人公としてその世界に入り込んで歌う楽しさがありました。もしこのテーマを自分で作詞していたら、恥ずかしくなって挫折したと思うので(笑)。書いていただいて正解でしたね」
──『ポッピンラブ!』のようにご自分で作詞・作曲した楽曲はいかがですか?
「ドラマのエンディングテーマだったので、登場するキャラクターの気持ちになって書きました。マンガ原作のドラマなので、情景が浮かびやすかったのですんなり書けました。むしろ、『それだけでいい』は具体的な情景がなかなか見えてこなくて悩みましたね」
──なぜクリエイターに制作を依頼しなかったのですか?
「実は、『それだけでいい』のメロディを聴いたときに、インスピレーションを感じてこの曲で歌いたいなと思い、そのときに“私が歌詞を書きます!”って宣言しちゃったんです(笑)。まさか、その後めちゃめちゃ悩むとは思わなかったですね」
──どうやって突破口を見つけましたか?
「全然見つかりませんでした(苦笑)。あまりに出口が見えないから、知り合いのアーティストさんにLINEをして“書けないときはどうしてる?”って聞きまくりましたよ(笑)。でも、そのたびに“(歌詞のアイデアが)降ってくるまで我慢する”とか“(気持ちが)わかるよ~”って言われるだけで、答えは見つからず……。
煮つまったときは、友達に会って気分転換することもあります。このときも、“いま、歌詞で悩んでいるんだけど、こういうときって、どう思ってるのかな?”って相談しました。すると、“私は意外とこう思ったりするよ”と思いがけない反応が返ってきて、その言葉がまたリアルだったので、すごくいいヒントになりました。結局、歌詞のことばかり考えていて、気分転換になったかどうかはわからないんですけどね(笑)」
アーティストと俳優業どちらも全力投球できるわけ
──俳優業も順調で、音楽活動との同時進行はご苦労もあるのでは?
「かつては切り替えができず、苦しんだ時期もありますが、いまはすぐにでも切り替えられるようになりました。『Greatest Gift』の制作中は、ドラマの撮影真っただ中でした。電話でスタッフさんと曲についてあれこれ話し合っていたら、現場の方から“撮影です”って呼ばれたんですよ。スマホを片手に、パッと俳優の自分になっていくのがわかって、“われながらよく切り替えられるな”って不思議に感じたし、笑っちゃいましたね(笑)。
それに、二足のわらじを履いているからこそ、よりいっそう“歌う意味って何だろう”って考えます。音楽を愛するリスナーとして、歌詞のひと言に救われる感覚を知っています。だから、“なぜ、いま私はこの曲を歌うのか”を、すごく大事にしていて。そもそも、聴いたときに、何か救われる気持ちになれたり、元気が出たりするような、“これはいい歌だ”と私が強く信じて歌わなければ、聴いてくださる人に失礼だと思うんです」
──そうした大原さんの音楽への強い思いが形になったアルバムなのですね。
「ええ。ふと思ったのですが、今作は『Fanfare』もそうですし、3か月連続リリースした楽曲も、女性の強さが共通しているのかなと。『Door』は失恋の歌ですが、単に弱さだけでなく“私は先に行く”という終わり方をしています。『愛のせい』は、“好きなら、あなたもそんな余裕、捨てればいいんじゃないの”と、ちょっと上から目線じゃないけど、自立した女性を感じますよね。『初恋』はすごくピュアだけど、やっぱり最後は“進め私”と自分の背中を押しています。そうした、女性の前向きさとか強さが表現できたことは、とてもよかったなと思います。
このアルバムも演技のお仕事も、2022年は女性にフォーカスする1年だったなと思います。お芝居では、女性社会で生きていくキャラクターなどを演じたことを通じて、ひとりの人間として強くなれた気がします。そうした影響から、アルバムができていったのかもしれません」
──しなやかで凛(りん)とした女性像がアルバムに通底していますね。ユニークな『ふわふわ』からは、ひとり焼き肉を楽しむ大原さんの強いハートを感じました(笑)。
「あはは。この曲は女性の強さというより、もはやおじさんですよね(笑)。いまって、いったん緩やかになったペースを取り返そうと、みなさんすごく頑張っているなと感じます。そんな方々に向けて、“お疲れさまです”と言える曲を作りたいと思いました。それで、“私のご褒美って何だろう”と思ったら、ビールと焼き肉が浮かんで(笑)。このアルバムを見わたして、ひと息つけるような曲になったと思います」
──2022年も全力で走ってきたことが伝わってきますね。
「おかげさまで、充実しているなと感じます。17歳でこの世界に入り、その直後に大学に進学したときは、身体がしんどすぎて授業中に居眠りしていました。でもあるとき、“待てよ、1回の授業は少なくとも500円はかかっているな”と思い(笑)、試しに真剣に授業を受けてみたんです。そうしたらすごく面白くて、居眠りしていた自分を悔やみましたね。なんてもったいないことをしてたんだろうって。
それからは何事も、まじめに取り組まないと楽しいものも楽しめないんじゃないかなって思うようになりました。今年はさらにたくましさも身につけられたので、2023年はますます力強くムキムキになっているかもしれませんよ(笑)。いまのお仕事が好きなので、それぞれをより深めていきたいですね」
(取材・文/キツカワユウコ、編集/本間美帆)
【PROFILE】
大原櫻子(おおはら・さくらこ) 1996年生まれ、東京都出身。日本藝術大学映画学科卒業。2013年、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の全国ヒロインオーディションで5000人の中から抜擢され、スクリーン&CD同時デビューを果たす。2014年、女優として『日本映画批評家大賞』新人賞を受賞。歌手として『第56回輝く!日本レコード大賞』新人賞を受賞。以降、歌手活動と並行して、数々のテレビドラマや舞台へ出演。さらに12月7日には1年10か月ぶりのアルバム『FANFARE』をリリース。Twitter→@staff_sakurako、Instagram→@sakurako_ohara
《リリース情報》
New Album『FANFARE』
さまざまな「愛」を歌うアルバムであり、今の「大原櫻子」が歌うことに、こだわり抜いて描かれた作品。
2022年12月7日(水)発売
初回限定盤A:4950円 CD+DVD※MV「Fanfare」+メイキング映像
初回限定盤B:4950円 CD+DVD※特典企画映像「ご褒美企画!? 櫻子のソロデイキャンプ」
通常盤:3300円 CD
※価格はすべて税込み