かつての大人気番組、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(以下、ウルトラクイズ)。その第10回大会で、決勝まで行かせていただいた私の体験から、前回、ウルトラクイズの決勝戦の前にヘリコプターで摩天楼の上を飛行したときの裏話をお伝えしました。
●【アメリカ横断ウルトラクイズ裏話】決勝進出者がニューヨーク上空で体験! ほぼ命がけの撮影フライト
今回はその続き、裏話の第8弾。ウルトラクイズの歴史上、唯一、ルートを途中で南米ルートと北米ルートに分け、それぞれのコースのチャンピオン同士で決勝戦を行った、第10回ウルトラクイズのニューヨークの“決勝直前、数時間に起きた”裏話です。
目隠しをさせられて、リバティ島へ船で移動!
ヘリコプターで摩天楼の上を飛ぶ、定番のシーンの撮影後、私はふたたびヘリポートに降り立ちました。
それまでのウルトラクイズは、ニューヨークにあるパンナムビルの屋上で行うのが定番です。「あれ? パンナムビルの屋上ヘリポートじゃなくて、もともと乗ったヘリポートに戻るんだ?」と思う私。
別のヘリコプターに乗っていた司会の福留功男さん(以下、留さん)が戻ってきたので尋ねると、こんな回答が。
「ああ、パンナムビルはハドソン川からボートに乗っていくんだよ。あのビルはね、地下に水濠があって、地下からエレベーターで上がるんだ」
今ならすぐに大ウソ(というかジョーク?)だとわかります。
でも、当時の私は、社会人になったばかりの右も左もわからない純粋(?)な青年で、その言葉を信じ込みました。正確には決勝戦を前に気持ちが高ぶっていて、細かなことはどうでもよくなっていたのかもしれません。
留さんの言葉どおり船に乗り込みましたが、このあたりから私は、目隠しをさせられました。ウルトラクイズでは、本番までクイズのルールがチャレンジャーにバレないように、しばしば目隠しをさせられていましたから、もう慣れっこです。
船(オンエアを見るとそれなりに大きな船ですが、結構波に揺れ、目隠しをして乗っていた私には小さなボートくらいに感じられました)に乗り込んでからしばらくたつと、さすがに鈍感な私も「これは、パンナムビルに向かっていないな」と、気がつきました。
そして、「これ、自由の女神があるリバティ島に向かっているよね……」ということも。
前日の自由時間、自由の女神を見るためにひとりでリバティ島へ行った私は、なんとなくの方向感覚でわかったのです。
目的地に着いたらしく、スタッフに手を引かれて下船。そこからは目隠しをしたまま、ずっと待機。
と、突然、目隠しを外されました。
自分がウルトラクイズの回答席に座っていることを知る私。
早押しボタンと連動している、ウルトラクイズファンにはおなじみの“早押しハット”をかぶるように言われ、ほぼ同時にプロデューサーの声がかかります。
「あのヘリコプターに、決勝の相手が乗っている! さあ、にらみつけて!」
見上げると上空には1台のヘリコプターが。どうやら、その中に決勝の対戦相手が乗っているらしい。でも、ずっと目隠しをしたままだった私は、とにかく太陽がまぶしくて、目を開けるのがやっと。
「もっと、にらみつけて!」
いや、そんなこと言われても、まぶしいんです……。
人生を変えた決勝戦──はじまりのとき
そんなシーンを撮り終えると、私はふたたび目隠しをさせられて待機になりました。いやはや、この待ち時間がとにかく長かった。
考えてみれば、さっき見上げたヘリコプターに対戦対手が乗っていたとすれば、ヘリポートに戻り、ボートに乗ってリバティ島に来るのですから、待たされても当たり前です。
オンエアを見ると、まるでリバティ島にヘリポートがあるようにうまく編集されていますが、実はその間に、とんでもなく長い待ち時間を挟んでいるのです。
この待ち時間。私は緊張から何度もトイレに行きました。そのたびに目隠しした私の手を引いてくれたスタッフさん、さぞ、面倒だったことでしょう。
トイレの中だけ目隠しを外して用を足し、また自分で目隠しをしてから、トイレの外で待つスタッフに手を引かれ解答者席へ……。そんなことを4~5回は繰り返したと思います。
やがて、どうやらすべての用意が整ったようで、「西沢さん、目隠しを取ってください」とようやく声がかかりました。
自ら目隠しを取り、言われるままに、ふたたび早押しハットをかぶります。
いよいよ、始まるのか。
前方の司会席には、すでに留さんがスタンバイしています。
そのまま数分間。……いや、もしかしたら1分くらいだったのかもしれません……。時が止まり、誰も何もしゃべらない沈黙が続きます。
私は、周りの明るさに目を慣れさせようと瞬きをしたり、少しだけ目を閉じたり。
そんなことをしていると、突然、留さんが私の後方に目線を向けて、つぶやくように言いました。
「今、やってきました」
その声にうながされて振り向くと、そこにはキャスターつきの旅行用トランクを引きずりながらこちらにゆっくりと歩いてくる森田孝和さんの姿が。
実は、森田さんとは日本でずっとクイズを楽しんできたクイズ仲間。プライベートでは『タカちゃん』なんて呼んでいました。
そのクイズの強さは、わかりすぎるくらいにわかっています。
実力からして、彼以外が南米ルートから勝ちあがってくるとは、到底思えませんでした。
目が合うと、タカちゃんはニヤリと微笑んで口を開きました。
「オレだよ!」
「やっぱり来ましたね」
「当然!」
台本なしの素のやり取り。
こうして、第10回ウルトラクイズの決勝戦は、“そのとき”を迎えたのでした。
その後の早押しクイズの時間。
それは、私の長い人生の中で、もっともテンションが上がり、もっともアドレナリンが爆発した時間。
結果は敗退しましたが、“その後の人生を生きるうえで、自分に「自信」を持たせてくれた経験”といっても過言ではありませんでした。
(文・西沢泰生)