なかた・せいな、と読む。
2021年に公開された映画『街の上で』で鮮烈な印象を残した中田青渚が、一気に連続ドラマの主役に躍り出る。枠はNHKのBS時代劇。直木賞作家・西條奈加の作品が初めて映像化されるもので、タイトルは『善人長屋』。
今後さらなる活躍が期待される22歳にインタビュー。
素直さに行動力が伴っている女の子
──初主演おめでとうございます。しかも時代劇!
「私もびっくりしました。とにかく初めてのことだらけで。最初にマネージャーさんから、こういうお話があります、みたいに紙(企画書)を見せられたんですけど、え!? え!? という感じで、うれしさよりも驚きが大きかったです。本当にびっくりしました。
主演は初めてですし、時代劇というとなんとなく奥ゆかしい、静かなイメージがあったので、“私で大丈夫かな”と不安だったんですけど、台本を読んで少し安心しました(笑)。いい意味でドタバタしているというか、テンポがあるんです」
演じるヒロイン・お縫(ぬい)は、長屋に住む江戸の町娘。持ち前の勘の鋭さと正義感で毎回、人助けと事件の解決に乗り出していく。
「素直さに行動力が伴っている女の子で、しかも共感性がすごく高いんです。長屋にはいろんな事情をかかえた人がやってくるんですけど、お縫は困っている人に対して自分のことのように共感して、そして助けてあげたいという思いになる。
そこから実行にうつす行動力もあって、私よりもしっかりしている子だなぁと思いました(笑)」
──お縫には人の善悪を見抜く不思議な力があるんですよね。
「そうです。人を見て善い人か悪い人か、一瞬でわかる、みたいな力があります。それが人助けの役に立ったり。善人長屋の住人と力を合わせて、事件を解決していきます」
実は住人たちは“善人”どころか裏稼業をもつ小悪党ばかりなのだが、詐欺師、掏摸(すり)、美人局(つつもたせ)といった凄腕(すごうで)を生かして人助けに奔走することに。それを引っ張っていくのが、お縫の正義感と明るさのよう。
──主演のプレッシャーはありましたか?
「ありました。共演する方を見ていただいたらわかると思うんですけど。吉田鋼太郎さん、高島礼子さん、溝端淳平さん……え、え、えー!? ですよ(笑)。
長屋の住人も先輩方ばかり。溝端さん以外ほぼお会いしたことがなくって、みなさん “初めまして”だったので、すごく緊張してしまいました。最初はちょっと怖かったくらいです」
──長屋を取り仕切る“差配”でお縫の父・儀右衛門を演じるのが吉田鋼太郎さん。とっても楽しい方のように見えますが。
「はい、楽しかったです。現場に入ったら楽しかったんですけど、まず吉田鋼太郎さんというお名前だけでドキドキしちゃうというか(笑)。初めてお会いしたときも、吉田さんのほうから話しかけてくださったんですが、私、それに緊張しちゃって。
自分からコミュニケーションをとりにいかなければいけないところを、たくさん話しかけていただいたので……」
──若い主役を盛り立ようというお気持ちですよね。
「明るい方ばかりで、そこに助けられた部分は大きいです。クランクインは3月末だったんですが、撮影の前に本読みやリハーサルの時間もありましたし、所作の先生についてお稽古もできました。
自分ひとりで役を作っていくというよりも、監督や共演者のみなさんとすり合わせて。本当にたくさん助けていただきました」
──撮影で大変だったことは?
「お父さんのことを “お父っつぁん”って呼んだり、セリフの言い回しが現代ものとはぜんぜん違うので、最初のほうは言いづらかったです。口になじむまで何回も声に出して読んでいたら、だんだん慣れましたけど。
イントネーションの違いだったり聞き慣れない言葉も多くて。(盗品と知りながら売買する)“系図買い屋”とか “贋作(がんさく)作り”とか。もともと知らなかった言葉がけっこう出てくるので、そこは苦労しました」
──完成した作品を見ていかがですか?
「テンポよく見られますし、登場人物ひとりひとりキャラクターが立っていて、群像劇みたいな面白さがあります。
善人と悪人の境目とは? みたいな、すごく考えさせられる部分もあって。悪いことをしている人が本当に悪い人なのか、そういう奥深さというか。自分で見ていて “本当に面白いドラマだな”と思いました」
──毎回、さまざまな事件が起こります。
「ゲストの方もすごい豪華で。台本をもらうたびにお名前が書かれていて、今回はこの方がいらっしゃるんだって。ドキドキしながら……。
1話ごとにだいぶ雰囲気も違うので、それも楽しんでいただけるかと思います。ぜひ8話まで見てください」
終わってから “ごめんね”って(笑)
出身は兵庫県。上京&デビューのきっかけとなったのは、コミック雑誌の『Sho-comi』(小学館)が主催する「Sho-comiプリンセスオーディション2014」でグランプリを獲得したこと。
──オーディションにはご自分で応募したんですか?
「はい。雑誌の『Sho-comi』で。当時、マンガをいっぱい読むのも集めるのも好きで。『メイちゃんの執事』というマンガが20巻くらいあって、そろそろお小遣いで集めるのは限界かなっと思っていたら、図書カードもらえるよ、みたいに書いてあるのを見つけて」
──入口はそっちなんですか!
「マンガを集めたいという気持ちに逆えず(笑)。私もなんで自分が選ばれたのかわからないんですけど(笑)」
──グランプリが中学3年(14歳)のときで、デビューは高校1年。
「オーディションの流れで今のアミューズ(芸能事務所)に入ることになりました。
それまで特に女優やモデルさんになりたいとかもなかったんですけど、月に2回くらいお芝居とダンスのレッスンを受けているうちに、“お芝居っていいな”と思ったのがきっかけです」
──縁ですね。もしかしたらガールズグループとかに入っていたかも。
「私、ダンスすごい苦手なんです(笑)。
わりと軽い気持ちで東京に来たのもあるんですけど、高校の3年間は芸能のコースに行っていたので周りに仕事している人がいて、“私ももうちょっと仕事したいな”と思いながら生活していて。当時なりの焦りも、けっこうありました」
最初に注目を集めたのは映画『3月のライオン 後編』(大友啓史監督/2017年公開)での演技。クラスでいじめの首謀者となる生徒役だったが、中学校側に露見しても反省するそぶりを見せず、ふてぶてしい態度をとり続ける。
「映画でちゃんと役をいただいたのが『3月のライオン』が初めてで、しかもオーディションでいただいた役なので、頑張ろうと思いました。
いじめの演技は、後ろめたさがあると振り切れないというか、受けている側にも失礼かなと思って、もう仕方ない! と思ってやりました。で、終わってから “ごめんね”って(笑)」
──相手は清原果耶さんでした。
「はい。あの時は自分の芝居というよりは、神木(隆之介)さんとか清原果耶さんの芝居がすごくて、“こんなにすごい人がいるんだ”っていう驚きが大きかったです。そっちのほうが覚えています」
それから映画やドラマへの出演を重ね、作品ごとに爪痕を残してきた。
映画『見えない目撃者』では犯人に拉致監禁される女子高生。『君が世界のはじまり』では退屈な高校生活をツレと一緒にやりすごし、『あの頃。』ではオタク青年・松坂桃李を翻弄(ほんろう)する大学生。
香取慎吾主演のドラマ『アノニマス〜警視庁“指殺人”対策室〜』では、第1話ゲストで登場し重要な証言をするモデル役など。
──ドラマにしても、映画にしても、それぞれ10作品以上に出演しています。
「自分でも少し手応えを感じる時もあれば、がっかりする時もあって。特に映画だと撮影してから公開されるまで、見るまでにタイムラグがあるので、大体がっかりします。
写っているのは “過去の自分”って言ったらあれですけど、その時よりは一歩先を行ってる自分が、当時の作品を見ているので……。あとで見ると、はーっ(ため息)てなることが多いです」
──そんな中で女優を続けているのは、演じることが楽しいから?
「楽しいというよりは、全然できないなと思うことのほうが多いので、そこで逆に “じゃあ、やる!”というか。できないことを乗り越えていく楽しさみたいのが大きいかもしれないです。
もちろんお芝居そのものが楽しい時もありますけど、いろいろ悩んだりして答えを見つけた時が楽しいとか。そういう感じかもしれないです」
──答えは簡単には見つからない……。
「そうですね。答えても答えても、また難題がやって来るみたいな……終わりがないからいいのかな」
──この先の目標は?
「ずっと言ってるのは朝ドラに出たい、と。
大学を卒業して、学生生活が終わって、この仕事(俳優)一本で行くんだ、踏ん張りどころだなと思っています」
ぜんぶ受けてもらえる安心感
特にあざやかな印象を残したのは、2021年公開の映画『街の上で』(今泉力哉監督)。
下北沢の街を舞台にした群像劇で、主人公は古着屋で働く青年・荒川青(若葉竜也)。ふとしたきっかけから自主制作映画に出演することになり、制作スタッフのひとり・城定イハ(中田青渚)と出会う。
──『街の上で』は作品そのものも素晴らしいのですが、映画の中盤から中田さん演じるイハが登場してさらにギアが上がります。
「ありがとうございます」
──その日初めて会った男女が、飲み会からの流れでお互いの恋バナを打ち明け合う展開になりますが、ふたりの心理的な距離が縮まるにつれて、セリフの関西弁が全開になりますね。
「最初の台本は普通に標準語で書かれていたんですが、私が兵庫県出身というのもあって関西弁のほうがなじみがいいんじゃないかということになって、関西弁で読んでみるとハマったんですね。“じゃ、関西弁で” ということになりました」
──2人がイハの部屋で話すシーンが、10分以上にわたってノーカットの長回しで撮影されています。ちょっとしたセリフの間合いとか、照れたような笑いとか本当に自然で、まさにリアルにその場に存在しているように見えます。どうしたらあんな演技ができるんでしょう?
「あれは本番の1回しか撮っていないんです。セリフは基本的には台本の通りでアドリブとかはないんですが、若葉(竜也)さんがぜんぶ受けてくださる方なので。
私は本当にポーンと、どこにでも(球を)投げてるじゃないですけど、どうセリフを投げても、どう芝居をしても返してくれるという安心感があって、自由にさせてもらえたんだなぁ、というのがあります」
──あの2人の長回しのシーンは、何度見ても “今日はこの人と出会えてよかったな”という幸せな気持ちになります。
「いつ見てもいい作品だと思います」
深夜ドラマの『初情事まであと1時間』(2021年放送)も印象深い。
毎回1組の男女が初めて結ばれるまでの直前1時間を描く恋愛オムニバスドラマだが、第4話『姉と妹』に限ってはヒロインが2人。妹(中田)が姉(青山美郷)の彼氏(望月歩)を誘惑するようなハラハラさせる展開も。
──『初情事〜』はかなり異色の回でした。
「そうですよね。ちょっと不思議な撮影でした。ずっとモワモワしているというか、熱い感じがするというか(笑)。
これまで、ああいう役が多かったかもしれません。なんかちょっかい出す、じゃないですけど。そういうのを見てくださった方からすると、今回の『善人長屋』はだいぶ印象が変わるんじゃないかなぁと思います」
──『初情事〜』のラストで男性が待つ部屋に入る女性の脚が、姉と妹どちらなのか、見ている人によって解釈が分かれるような不思議な終わり方で……。
「わかんないですもよね、最後(ドアが)開くときの脚は。カメラも後ろから撮っていて、どちらかわからないようになってます。
自分たちが見てたら “ああ、◯◯◯の脚だ”ってなるんですけど、ほかの人からしたらどっちなんだろうって(笑)」
──今、お仕事以外ですごく充実している、生きてるなぁと感じる時間は?
「いっぱい寝てる時です(笑)。アラームをかけずにベッドに入る時とか。私、本当に寝るのが好きで。次の日に予定があると絶対にアラームをかけて寝なくちゃいけないんですけど、休みだったらもう目覚めればいいから。
時間をぜいたくに使って自分が目覚めた時間に起きるというのが、いちばん“生きてるなぁ”って感じがします」
(取材・文/川合文哉)
《作品情報》
BS時代劇『善人長屋』
2022年7月8日(金)スタート
毎週金曜よる8時 NHK BSプレミアム・BS4K
原作/西條奈加 脚本/森下直
出演/中田青渚 溝端淳平 高島礼子 吉田鋼太郎 ほか
《PROFILE》
中田青渚(なかた・せいな)
2000年1月6日生まれ。兵庫県出身。身長165cm。
「第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014」でグランプリを獲得しデビュー。ドラマ『中学聖日記』『すぐ死ぬんだから』『ここは今から倫理です。』などに出演。2021年に公開された映画『街の上で』『あの頃。』『うみべの女の子』の演技で第43回ヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞。BS時代劇『善人長屋』で連続ドラマ初主演!
スタイリスト/有本祐輔(7回の裏) リング(TAKE-UP)シューズ(JELLY BEANS)その他スタイリスト私物
ヘアメイク/石田絵里子