誰もが知っている「吉本」こと「吉本興業株式会社」は、長いあいだ、お笑い界を席巻してきた。創業110年、そして吉本新喜劇は、創設されて64年がたつ。この間、どれだけの人々が新喜劇に笑い、活力をもらってきたのだろう。3月1日は吉本新喜劇設立記念日。それを記念して今月21日には、なんばグランド花月で「吉本新喜劇記念日2023」公演をおこなう。
プログラムは、2022年4月から実施してきた「GM杯ネタバトル」の月間優勝者らによる最終戦、そして往年の人気芝居『あっちこっち丁稚(でっち)』が復活する。これは1975年から’83年まで、日曜昼にテレビ放送されていたコントバラエティ番組。大阪の老舗カステラ屋を舞台に、家族や従業員が織りなすドラマで、当時、若かりし間寛平さんが丁稚(職人・商家などに年季奉公をする年少者。雑用や使い走りをした)として人気を博していた。寛平さんは、40年後の今回も丁稚を演じ、店のお手伝い役は、新喜劇座長のすっちーさんが務める。
昨年、新喜劇のGM(ゼネラルマネージャー)に就任した間寛平さんと、すっちーさんに話を聞いた。
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寛平師匠、子ども役を再演! ふたりの心境は
寛平 『あっちこっち丁稚』を一緒に盛り上げてきた、かつてのメンバーの多くはもう亡くなってしもて。これが始まったころ、僕は20代半ばですわ。今回は、みんなそれなりのベテランで腕があるから、当時より何十倍もうまくできるんとちゃうかな。すっちーが、かき回してくれるでしょう。
すっちー こいさん(カステラ屋の娘)が(座長の酒井)藍ちゃんやから、お笑い要素も強いかもしれませんね。当時より今のほうがアドリブも多くなってますしね。
寛平 あのころは檀上茂さんという作家さんが台本を書いていた。きっちり書く人で、セリフ間違えたら革靴で殴られるんですわ。わざわざ脱いで、パッカーン! って。今やったら大変なことやで(笑)。
──すっちーさんはプレッシャーがありませんか?
すっちー 日ごろから一緒にやっていますからね、プレッシャーは特にないです。ただ、役どころとして丁稚の3人が、寛平師匠と大ベテランの内場(勝則)さんと吉田(裕)なんですよ。そもそも丁稚って、本来は子どもやないですか。吉田は後輩ですけど、それでも40代。ええ大人が丁稚するのも面白いし、寛平師匠と内場さんというすごいキャリアの大御所がいちばん下の役をやるのも、どうなるのか楽しみです。
寛平 僕はいつもペコペコしながら生きてきたから、なんともない(笑)。
昭和の芸人、現代の芸人、何が違う?
──寛平さんは今やGMでもありますが。
寛平 ほんまは昨年の10月くらいには引退しようと考えていたんです。でも一昨年の6月ごろ、会社に嫁と一緒に行って、「すいませんけど引退……」と言おうとしたら、GMとして新喜劇をもう一度盛り上げてくれへんかと言われて、昨年2月に就任しました。打診を受けたとき、「それやったら、若い子を育成したほうがいいから、若手用の劇場を作ってもらえないか」と言ったら実現してくれたんですよ。すっちーは座長として頑張ってくれてるけど、その下の世代が続いていない。それが心配やったんで。本当は引退して、大きな夢を追おうと思ってたんやけどねえ。
すっちー 僕らは寛平師匠がGMになってくれたので、僕らの声が世間にも会社にも届きやすくなるやろなと思ってました。
寛平 ほんまか? 正直に言いや(笑)。
すっちー 本当は「大丈夫かー」と思ってました(笑)。いやいや、本当に、師匠はいろいろ経験されているから、世間は「寛平が何か言うてるな」と思ってくれるし、会社も「じゃあ、形にしましょうか」となる。僕らはやりやすくなりました。
寛平 とはいえ、社員もみんな年下ですからね、若い子たちに僕らの考えが伝わっているかなと今でも思ってます。例えば、僕は昭和の人間だから、何か場を与えられたら「すぐに結果を出さなあかん」と思うわけ。それを若い子にも求めてしまいがち。でも今の若い子たちは、「そんなに慌てんでも、ちゃんとしたものを作ったほうがええやん」と思ってる。
すっちー そのあたりは確かに昭和世代とは違うかもしれませんね。
寛平 昔の芸人は売れるのが早かった。負けるなと言われて育ってきて、僕だって23歳でふたり座長、24歳でひとり座長になった。三枝兄さん(現・桂文枝)や、やすきよ(横山やすし・西川きよし)さんだって、ブレイクは20代前半やった。30過ぎたら、おっさんやと思うてた。今、40歳手前くらいでキャーッと言われるようになることも多いやんか。(お笑いコンビの)錦鯉なんて50歳。だから、コンビ別れして新喜劇に入ってくる年齢も上がってるんやろね。すっちーはいくつで来た?
すっちー 僕はコンビを解散して新喜劇に入ったのが35歳です。
寛平 今どきとしては早いほうや。キャリアを重ねてから入ってくると、ネタも作れるし腕があるから即戦力になるんです。
新喜劇の劇場には「笑いの神様が住んでいる」
すっちー ただね、僕は漫才を11年やってたんですけど、そのキャリアはいったん忘れんといかんのです。しばらくたって慣れてきたら、ようやく漫才の経験が生かせるようになる。同じお笑いでも、新喜劇は別物なんだなと思いましたね。コンビでもピンでも、通常のお笑いだと、早く笑いが欲しくなるんです。出ていってすぐ、まず笑いをとってから、話が流れていく。でも、新喜劇でそれをやったらダメなんですわ。
寛平 新喜劇のホン(台本)って独特なんです。45分の中でひとつの話が展開していくんやけど、単純な喜劇とも言い切れない部分があって。
すっちー 例えば、うどん屋の設定があって、その娘が結婚したいと相手を連れてくるけれど、親は大反対。でも、「こんな男あかん」と言っていると45分じゃ終わらない(笑)。そこへチンピラがやってきてさんざん笑わせたあげく、娘にちょっかいを出し、彼氏が身体を張って助ける。すると、そこにドラマが生まれる。チンピラは、ただボケるために来るわけではないんです。笑いだけではなくて、人間のいろんな感情をいろんな人が見せるから、ふっと客席を見ると泣いている人もいたりする。(新喜劇は)誰にとっても感情移入しやすいんやろなと思います。
寛平 64年続いているということは、もうすでに新喜劇は“文化”なんやろなと思います。ときどき、この64年でのべ何十億人の人を笑わしてきたのかなと考えることもあります。せやから僕は、劇場には笑いの神様が住んでいると思ってる。一生懸命やってたら、神様が降りてきてくれる。手抜きしたら、スベる。不思議やなと思います。僕んときは、「今日は神様いてくれへんな〜」ということが多いですけど(笑)。
すっちー 劇場の一体感ってありますね。舞台だけじゃなくて、ものすごくいいタイミングで客席の赤ちゃんが泣いたり、子どもが放ったひと言で、客席と舞台が急に近くなったり。ミラクルみたいなことが起こるんですよ。それがライブの面白さでしょうね。850席ほどのキャパなので、大きさもちょうどいいと思うんです。
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息ピッタリでインタビューに答えてくれた、寛平さんとすっちーさん。「新喜劇は“文化”」という言葉も、長年にわたってこの舞台から笑いを届けてきた寛平師匠が発すると、非常に重みを感じられる。インタビュー第2弾では、20代から80代まで幅広い年齢層が属している新喜劇ならではの特徴や、おふたりが大切にしていることについて話を伺った。
(取材・文/亀山早苗)
【PRIFILE】
間寛平(はざま・かんぺい) ◎1949年7月20日生まれ、高知県出身。’70年に吉本新喜劇入団。’74年、座長就任。「ア~メマ~」「アヘアヘ」「かい~の」などのギャグで人気爆発。’89年に退団し、東京進出。’11年1月に地球1周「アースマラソン」を完走。’16年には若手芸人育成を目的として『劇団間座』を立ち上げた。’22年には吉本新喜劇のGMに就任し、今なお現役でお笑い界を盛り上げている。
すっちー ◎1972年1月26日、大阪府出身。お笑いコンビ『ビッキーズ』として活動し、’07年より吉本新喜劇所属。すち子のキャラクターで人気を博す。’13年には松浦真也とのユニット・すち子&真也で「歌ネタ王決定戦2013」優勝。’14年には吉本新喜劇の座長に就任した。吉田裕とのコンビ芸「ドリルすんのかいせんのかい(乳首ドリル)」も人気。
ネタバトル最終決戦、年間王者は誰の手に!? そして『あっちこっち丁稚』、え!? 寛松だけ!? 利松、木松はいったい誰が!? さらにGMからサプライズも!!!
日時:2023年3月21日(火祝)@なんばグランド花月(※配信あり)
開場:18時45分 開演:19時15分
料金:オンライン2000円(※好評につき劇場チケットは完売、オンラインチケット発売中!)
出演:間寛平/川畑泰史/すっちー/酒井藍/池乃めだか/内場勝則/辻本茂雄/吉田裕 ほか
チケットに関するお問い合わせ:0570-550-100
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