5年前にオープンし、7時間待ちの行列もできた原宿発のアイスクリームショップ「ROLL ICE CREAM FACTORY」(ロールアイスクリームファクトリー)。ロールアイスクリームとは、冷たい鉄板の上でクリーム状のアイスやフルーツなどの具材を混ぜ合わせて薄くのばし、ヘラで削りながらロール状に巻き上げて作る新感覚スイーツのこと。
ロールアイスクリームファクトリーはその後も全国各地に店舗を展開。一時的なブームで終わらず、いまだ人々に支持され続ける理由は何なのでしょうか。同店を運営している株式会社トレンドファクトリーの浅野まり社長へのインタビュー第2弾では、その秘訣を伺いました。
【第1弾インタビュー:議員秘書にナレーター、雑誌ライターまで! 7時間待ちの行列アイス店を生んだ浅野まり社長の「職務遍歴」】
ロールアイスができるまでの時間は“お客様だけの時間”
──オープン当時はかなり話題になり、中にはもの珍しさから来店するお客様もいたと思いますが、5年たった今でも、お客様から支持され続けている理由は何だと思いますか。
「今年は、TVアニメ『吸血鬼すぐ死ぬ』や竹下製菓さんの“ブラックモンブラン”とコラボレーションをしたり、スポーツブランドのFILA(フィラ)さんのタイアップ企画を行ってきました。現在は、アーティストのNiziUとコラボ中です。今後もコラボの企画はあります。そういった試みによって、新たなお客様を獲得しています」
──これまでも、『ポケモン』『おそ松さん』『ペルソナ』『ラブライブ!スーパースター!!』など、いろいろな人気アニメとのコラボをしています。常に新しい魅力を発信していますね。
「そもそもアイスクリームというのは、とても魅力があるものなんです。それは、“幅広い世代にお召し上がりいただけるもの”だというのも理由の1つです。地域によっては、若い人だけでなく、おじいさん、おばあさんが食べに来てくれるお店があるんです。
また、冬は売り上げが弱くなりますが全く売れないわけではなく、“クリスマスアイス”などをお求めになる方もいらっしゃいます。さらに、アイスは保存期間が長いのです。それがコロナ禍には助けになりました。トッピング以外は破棄しなくてはいけないものがありませんでした。
通販や贈り物で使っていただくことが多いのも魅力です。「おうちDEロールアイス」は、ご自宅でトッピングの盛り付けを楽しんでいただいて、“ロールアイスクリーム屋さん気分”になっていただける商品になっています」
──コロナ禍がきっかけで通販を始められましたが、逆境すら結果的にプラスにもっていっていますね。それで言えば、一般的な飲食店では「提供時間が長い」のはデメリットになりますが、ロールアイスクリームの場合はできあがるまでに6分ほどかかるそうで、むしろそれが魅力になっているようですね。
「その時間は、“あなたのためだけに作る”、そのお客様だけの時間なんです。ほとんどのお客様は、作っている様子を動画に収めて、SNSにアップしてくださいます。初めは“アイスに850円(税込み)は高い”と思っていたお客様も、その工程を見ると、納得してくださることは多いです」
──インスタ映えする可愛い商品であることも、ポイントですよね。
「“これ、可愛くて、食べるのもったいない”というものを提供していきたいんです。多少、手間がかかったり、利益が少なくなったりしても、ステキな時間、体験、そして、感動を提供したいと思っています」
社員を雇うのは、その人の人生を背負うこと
──浅野さんは、常に“お客様目線”を大切にされているように感じますが、いかがですか?
「私自身もカフェ巡りが好きなので、お客様目線は大事にしています。カフェに行くと、飲み物だけでなく、必ずケーキなどお菓子を頼むのですが、“一番のオススメは何ですか?”とか“名物は何ですか?”と聞いて、それを注文することが多いです。それによって、どういうお店なのかがわかるんです。
また、場合によってはスタッフの方に“あなたのオススメは何ですか?”と聞くこともあります。スタッフが“何を好きだと思って、そのお店で働いているのか”が知りたくなるからです」
──常にアンテナを張っていらっしゃるのですね。浅野さんは、いろいろな職歴がありますが、「経営者になり、従業員を雇うことになったことで学んだことや心がけていること」は何かありますか?
「現在、社員は4人で、アルバイトは60人いるのですが、20代の女性がほとんどです。彼女たちのお母さんが私と同じ年くらいのことも。だから、従業員の気持ちをくみながら、モチベーションを上げるように気を付けています。
例えば、飲食業界では珍しいのですが、弊社ではネイル、ピアス、髪色、洋服は自由にしています。従業員も楽しみながら働いてもらいたいし、お客さんから憧れられるような存在であってほしいと思っているからです。
社員を雇うというのは、“その人の人生を背負うこと”でもあります。実は最近、社員の1人が家を買ったんです。“ほぼローンで”と言われたとき、どうしようかと思いました(苦笑)。社員として雇うときは、“一生、この人の面倒を見られるかな”ということを考えます」
無駄なことと言われても、お客様の満足のために
──コロナ禍だった昨年8月に、鎌倉で新業態の「Flower Power Cafe(フラワーパワーカフェ)」をオープンしたそうで。花いっぱいの空間とメニューが、とても好評のようですね。
「コロナ禍になる前に、ロンドンでフラワーカフェが流行っている、というのをSNSで見つけてロンドンに視察に行っていたんです。どれも可愛くて、“絶対に日本でやろう”と思いました。
コロナ禍になって、ちょうどいい物件が空いたのと、その時期は旅行の自粛で遠くに行けない人が多かったので、“お花いっぱいの空間で、癒やしを提供したい”と思い、出店しました。花をモチーフにしたり、花の食材を使った料理を提供したりするのはもちろんのこと、おしぼりもアロマの香りがするようにして、細かいところまでこだわっています」
──同店でも、TVアニメ『吸血鬼すぐ死ぬ』とのコラボカフェが期間限定で開催されていましたね。
「コラボのアフタヌーンティーセットを提供していたのですが、どうしてもビジュアル的に器の下に“お花の輪っか”を置きたくて、前日の夜中までお店でお花の輪っかを作っていました。それが売り上げに直結するわけではないので、人から見たら、“どうしてそんな無駄なことをしているの?”と思われるかもしれません。でも、今日、お店の口コミをチェックしたら、お客様がSNSで“大満足だ”というコメントを発信されていてので、やってよかったです」
──そういった“期待以上のサービス”ができるかどうかが実は重要で、それによって、お店への評価が大きく変わってくるのでしょうね。それで言うと、飲食店に限らずですが、「いい商品を作ること」と「きちんと利益を出すこと」のバランスって、多くの人が悩むところです。その点はどのように考えていますか?
「もちろん折り合いは大切ですよね。でも初めからいい商品を作ると、お客様に喜んでもらえるから、それが結果的に利益につながると考えています。
最近、スタッフから、“この食材を使うと、手間もお金もかかってしまうのはわかっているのですが、可愛いのでどうしてもやりたいんです”と相談されたことがありました。もちろんOKしました。そういう提案をしてくれたことがすごくうれしかったです。
今までメニューは私が全て考えていたのですが、これからは自分以外の人にもお仕事をお願いしていかなくてはいけないと考えていて、毎月の社員会でメニュー提案をしてもらって、採用するというのをやっています。みんな張り切ってくれて、キレイなパフェの絵を描いて持ってきてくれたりすると、やらせてあげたいなって思います」
殺処分寸前にお迎えした保護犬“メロンちゃん”の存在
──お客様や社員だけでなく、家族でもある愛犬のメロンちゃんの気持ちも大切にされているようですね。現在は、もともとのオフィスだけでなく、こちらの愛犬同伴が可能なオフィスも借りて、お仕事をされることが多いのだとか(※編集部注:取材はこのオフィスで行われた)。メロンちゃんは、もともと保護犬だったようですね。
「1号店となるロールアイスクリームファクトリー原宿・表参道本店がオープンする1か月前の多忙なときに、たまたまSNSでワンちゃんの保護情報を目にしたんです。なぜだかわからないけど、気になってしまって……。
保健所に電話したら、前日には殺処分する場所に移されていたんです。でも、まだ殺処分はされていなくて、“この電話で引き取るといってくれたら、ストップします”という話になり、すぐにお迎えをすることを決めました。
当時住んでいたマンションでは、ワンちゃんが飼えると思っていたのですが、大家さんにダメだと言われてしまって……。2、3週間の時間の猶予をいただいて、お店のオープンまであと1週間という過酷な状況の中、引っ越しをしたんです(苦笑)」
──大変でしたね。保護したワンちゃんのために、家を引っ越し、その後、ワンちゃん同伴可能なオフィスまで新たに借りるというのは、普通の人にはなかなかできないことです。浅野さんは、「仕事を通して社会貢献をしたい」とも考えていらっしゃるのだとか。
「カトリックの学校に通っていたので、“報いを期待することなく奉仕する”というのが校訓にあり、そういう教えが身についているんです。今は、ロールアイスクリームファクトリーで、1日店長として子どもたちを受け入れたり、特別支援学校の生徒さんにアイスクリーム作りの体験をしていただいたりしています。
私は、喜んでもらうことが好きなんです。ときどき(お店の)現場に入って、ロールアイスを作ることがあるのですが、作ったものをお渡しするときに、パッとお客様が笑顔になるんです。その瞬間が好きなんですよね」
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“報いを期待することなく奉仕する”……お客様、従業員、そして愛犬に対しても愛情深く、ホスピタリティあふれる浅野さんだからこそ、ビジネスにおいても、他とは一線を画するところがあるのでしょう。
浅野さんは、第1弾の記事で、“最後は、人(が重要)なんだ”ということを強くおっしゃっていました。魅力的な商品を提供し続けることはもちろんのこと、こうした人を大切にする“心配り”こそが、一過性のブームで終わらず、未だにロールアイスクリームが支持され続ける理由なのかもしれません。
(取材・文/加藤弓子 撮影協力/ビジネスエアポート京橋)
〈PROFILE〉
浅野まり(あさの・まり)
株式会社トレンドファクトリー代表取締役。一般社団法人日本外食リサーチ&PR協会代表理事。ナレーター、雑誌ライター、国会議員秘書を経て、俺のイタリアンなどを展開する「俺の株式会社」創業期の企業戦略や広報を担当したのちに独立。現在、おもに中堅・大手外食企業の広報・PR業務支援を行う傍ら、中小企業庁の全国支援事業「専門家派遣事業」のPR専門家としても活動中。
■ロールアイスクリームファクトリー:https://rollicecreamfactory.com/
■フラワーパワーカフェ:https://www.hotpepper.jp/strJ001282539/