どうもはじめまして、つぶやきシローといいます。今回、フムニューさんにお邪魔させてもらったのは、拙著の『こんな人いるよねぇ~──本を読んでつぶやいた』が4月1日に発売したので、ちょっと日にちが経っちゃいましたが、お知らせさせてもらえるということで参りました。
インタビューかと思ったら、自分で書いてもいいんですよとのこと。とは言っても、と逡巡(しゅんじゅん)しているとフムニューさんの方から、本のタイトルにちなんで「今まででいちばん“こんな人いるのか・・・!!!”と衝撃を受けた人物」というテーマはいかがでしょうか? という提案をいただきましたので、まさに、今まででいちばん“こんな人いるのか!”と衝撃を受けた話を書きたいと思います。
愛すべき紙の路線図に思いを馳せて
え~、電車に乗っていたときのことなんですけど、最近、駅のホームに掲げてあるはずの「駅名の看板」少なくなってない?
停車した駅が何駅なのか、すぐわかるところに駅名が書いてない。急行に乗っていて、通過している駅名を確認しようと首を左右に素早く動かす準備はできてるのに、肝心の看板が出てこない。昔はもっといっぱいあった気がするんだけどな、気のせいかな? あ、ごめんなさい、いきなり脱線しちゃったね。
つまり、普段から利用してない路線って、今どこにいるのか不安じゃない? 特に急行となると、駅とばして行くしね。僕はそのときたまたま座っていて、そろそろ目的地に近づいてきたし、路線図を確認したくて、立ち上がり、ドアに向かって何歩か歩いた。
ドアの上には電光掲示もあるが、僕は昔ながらの紙が好きだ。電光掲示だと、よーく見たいのにすぐ次の表示に変わってしまう。その点、紙の路線図は一生見られる。特急、急行、準急、各駅と色分けしていてわかりやすいし、全部停まる駅は大きく駅名が表示されているが、各駅しか停まらない駅はちっちゃく表示。この残酷なヒエラルキー、そして準急は停まりますという駅のなんとも言えない切なさがたまらない。
そこに住んでいる人は、「各駅だけじゃないよ、準急が停まるよ」と常に言っているのでしょう。その地道な努力、わかります。僕もそこに住んでいたらその啓蒙活動を怠らないと思います。紙の路線図がドアの上にあってよかった。同じ目線だったらとっくに涙がこぼれていた。あ、また脱線しちゃってすみません。
たまたま座っていた車両で、まさかの展開!
本題に戻らないとね。えーっと、急行に乗っていて自分の降りる駅が過ぎていないか不安になり、ドア付近に近づいたってとこまで話したよね。車内は混んでいるとまでは言わないが、立っている人はちらほら、席は埋まっているって状態かな。
普段は座らない派の僕がたまたま座ったんだけど、なんか落ち着かないんだよね。お年寄りが乗ってきたら席を譲らなきゃという思い。じゃあ最初から座らなければいいじゃんという思い。わざわざ譲って、お礼を言ってもらいたいの? いい人アピールしたいの? 違う! でも僕が座っていなかったら誰か行儀の悪い若者が座って、お年寄りに席を譲らないかもしれない、そのために僕は席をとっているつもりで座ってるんだ! 実際、目の前にお年寄りが現れたとき、たくさんの人の視線の中で席を譲る勇気はあるのかい?
・・・この一連の葛藤に悩まされ、結果ドア付近に立っているのがいつもの僕だ。いいように言ったりもしたが、自分はお年寄りに席を譲れるような優しい人間じゃない、ただ勇気のない人間だ。周りにもそう見られてるんだろうな。「席どうぞ!」と口に出して言えないから立っているんだって。
こんな僕にはドアの横がお似合いさ。満員電車であろうが空いていようが関係ない、いつもの位置。駅についてドアが開くたび、降りる人の邪魔にならないように、わざわざ1回降りてまた戻ればいいさ。わざわざ降りたのに誰も降りる人がいなくて、車内の苦笑いを誘えばいいさ。あれ? 脱線してるよね? またまたすみません!
もーいいかげんにしないとね。えー、電車に乗ってたんだよね。座っていたのに一気に人が降りて、たまたま自分と隣の人だけ並んで残っちゃうと、見た目「知り合い?」って感じになるよね。おっと危ない、また脱線してマスコットキャラクターのフムッフィーに怒られるとこだった。
路線図を見にドアに歩み寄り、まだだな、あと2駅だなと確認して踵(きびす)を返した刹那、イスの足元の様子がおかしいことに気づく。ぜんぶ足がある違和感。ないはずの場所にも足が見える。ま、まさか! この一瞬のうちに座る? 僕は恐る恐る顔を上げた。スーツ姿の若い男性が、さっきまで僕が座っていた場所に座っていた。こっちを見ようともしない。わかるでしょうよ! ちょっと見に行っただけだなって! 戻ってくるなって! 席取るの早すぎでしょ! あの人席取られてやんのって、ここにいるみんなそう思ってんだろうな。なんかこっちが恥ずかしくなった。
以上「今まででいちばんこんな人いるのか! と衝撃を受けた話」でした。っていうか、テーマのハードル高いよね。面白い話しますって言ってから話すみたいな。別にいいんだけどね。途中いっぱい脱線しちゃったね。文中の「脱線」って文字を見るたび、心の中で「電車だけに」と思う、こんな人いるよねぇ~。
(文/つぶやきシロー)
【PROFILE】
つぶやきシロー ◎1971年3月10日、栃木県生まれ。お笑いタレントや俳優として活動するかたわら、2011年からは小説も執筆。2021年には、著書『私はいったい、何と闘っているのか』(小学館刊)が安田顕主演で映画化された。2022年4月、新著『こんな人いるよねぇ~──本を読んでつぶやいた』(自由国民社刊)を上梓。また、2009年から公式Twitterでほぼ毎日「あるあるネタ」をつぶやき続けて大人気に。フォロワー数は97万7千人を超える。(2022年4月現在)
公式Twitter→@shiro_tsubuyaki