これまで1万枚以上の自動販売機を撮影してきた、自動販売機オタク・石田健三郎さん。前回のお話では自販機の楽しみ方、私たちが思いもよらない機械の優しさについて存分に語っていただいた。
【第1弾インタビュー→『マツコの知らない世界』で話題のマニアが語る「自動販売機は優しさがつまった箱」そのディープすぎる魅力】
今回は自動販売機とテクノロジーの関係についてインタビュー。今後、自動販売機がどのように社会に貢献してくれるのかを伺った。
10年で100万台減!「コンビニ」と「缶コーヒー」にみる自動販売機の現状
──前回、「外国人留学生が日本の自動販売機の多さに驚いた」というお話がありました。普及率でいうと日本は世界トップだそうですね。
「はい。台数でいうとアメリカがトップで日本は2位ですが、普及率だと日本がダントツで1位です」
──なぜここまで日本で自動販売機が普及したんでしょう。
「まず日本人が“新しいものを取り入れるのに抵抗がない”という部分ですね。例えば自動ドアの普及率も世界トップクラスといわれています。自動化や機械化に惹かれやすい国民性であることが、自動販売機が増えた理由のひとつです。
また、治安のよさも大きな要因です。日本だとほとんどの自販機は屋外に置かれていますが、これは世界的に見るとめずらしいんですよ。例えばアメリカだと、屋外に置いてしまうと壊されてお金を盗まれるので、屋内のほうが多いです。日本じゃないと、こんなに置けないと思いますよ」
──そうなんですね。いい国だ……。
「ただ、ここ数年でいうと自動販売機の台数が減ってきてるんですよ。2010年だと500万台ほどあったんですが、今は400万台ほどです」
──え、てっきり増え続けていると思ってました。減った理由は何なのでしょう。
「シンプルに採算が取れない筐体(きょうたい)がどんどん撤去されているからです。以前は飲料メーカーさんや自動販売機のベンダーさんが、空いているスペースに自販機を置きまくってたんですよ。でも採算が取れずに撤去される自販機が増えてきたのがここ数年の流れです。
ちなみに“競合であるコンビニエンスストアが増えてきた”というのも理由のひとつですね」
──なるほど。確かに自動販売機が近くになかったらコンビニで買っちゃうかも。
「そうですよね。コンビニが増えたことで自販機の売り上げが落ち、撤去されてしまうケースもあるようです。なかでも商品として打撃を受けているのが、主力である缶コーヒーなんですよ」
──え、どうしてですか?
「コンビニエンスストアやファストフード店がコーヒーを提供するようになったからです。またペットボトルのコーヒーが出てきたという点も逆風ですね。“おいしさ”と“保存しやすさ”の2点で缶コーヒーを上回る製品が出てきた。しかもほぼ同じ値段で買えてしまうという現状もあり、缶コーヒーの需要が下がってしまいました。
そのうえ、コロナでリモートワークが増えて出勤する人が減りましたよね。家だと自分でドリップする人もいるじゃないですか。やっぱり缶コーヒーはビジネスパーソンがオフィスで飲むものなので」
──なるほど……。ちなみに僕は喫煙者なんですが「タバコと缶コーヒーの相性」ってのは味だけじゃなくて、渋さ全開の絵面としても好きなので、なんかちょっと寂しいですね。
「喫煙者が減っているのも逆風かもしれないですよね。私も自動販売機オタクとして、なんとか缶コーヒーが再燃しないか、と考えたんですよ。
いま『ブルーボトルコーヒー』が都内に11か所(2022年10月現在)の自動販売機を出していて、1つ640円と高めですが売れ行きがいいらしくて。だから缶コーヒーも高級志向に寄せるのはいいのかなと。でもリピーターは少なそうだなぁ、とかいろいろ悩んでいます」
──自動販売機愛が強すぎて、もはやメーカーさん思考なのがおもしろいです(笑)。これを読んでいる飲料メーカーさんがいらっしゃったら、ぜひ石田さんをアドバイザーに加えてほしい(笑)。
「いえいえ、ただの愛好家ですから(笑)。でもなんとか自動販売機の台数が増えないか、ひとりで悩んでます」
台数は減るもニーズは急上昇! 石田さんが「今後は増える」と言う理由
──ただコロナ禍で自動販売機のニーズが高まった面もあるんですよね。
「そうですね。コンビニと違って非接触で購入できるので、自動販売機が求められてきています。特に『ど冷えもん』は今まさにブームですね。『全国の名店の味を冷凍食品として提供する自動販売機』です。従来の自動販売機だと小さいサイズの決まった形の製品しか売れなかったんですけど、ど冷えもんは筐体内の4種類のストッカーを組み合わせることで大型の商品を売れるようにしたんですよ」
──これがまず大きな革命だったわけですね。冷凍食品なのに味もすごくおいしいと聞きます。
「はい。すごくおいしいですよ。冷凍食品の命である“鮮度”を保つための仕組みがいくつもあるんです。業務用冷凍庫レベルのマイナス25℃まで冷やせるうえ“消費期限になると販売停止する機能”や“90分間以上、マイナス15℃以上の状態が続くと自動で販売停止にする機能”もあります。
──すごい企業努力ですね。ちょっと今日は帰りに絶対買います。
「本当に再現性がすごく高くておいしいですよ。自動販売機の値段としては高めですが、全国の名店の味が24時間365日いつでも食べられることを加味したら、安いと思います。
最近だと『ど冷えもん』だけではなく、富士電機さんからも『FROZEN STATION』という冷凍自販機がリリースされています。“自動販売機 × 冷凍食品”の分野は需要が伸びそうです」
──コロナ禍で自動販売機は衰退と隆盛の両面を経験しているわけですね。石田さんとしては今後、台数はどう推移するとお考えですか?
「私は増えると思っています。まず働き方改革でコンビニが“24時間営業をやめましょう”という流れになっているというのが大きいです。すると深夜に買い物をする際の選択肢が自動販売機しかない。となると、自ずと台数は増えるはずです。
今は飲み物だけでなく、おいしい冷凍食品も 買えるようになりましたからね。コンビニと遜色ないレベルまで利便性が高まっていくんじゃないかなと思います」
──なるほど。確かに24時間営業がなくなれば、自動販売機の天下ですね。腑に落ちます。
「それと、少子高齢化で労働力が減るにつれて、今後は無人で稼働できる自動販売機の需要が伸びてくるんじゃないかな、と予想しています。
今は“自走式の自動販売機”も開発されはじめているんですよ。今まではこちらから働きかけることしかできなかったんですが、今後は自動販売機のほうから来てくれる光景を見られるかもしれません」
──すごい! 超画期的ですね。
「そう。これは自動販売機の課題をクリアできる発明だと思っていて、例えばビジネス街って土日は人の出入りがほぼないじゃないですか。するとそのエリアの自動販売機は売り上げが落ちるわけですよ。それをAIで学習して、例えば“土日だけ銀座や渋谷に移動する”みたいなことができれば、少ない台数で売上を増やせるはずですよね。
もし“いくらでも予算を割くから、好きなように自動販売機を作ってもいいよ”って言われたら、こうしたものを作りたいですね(笑)」
命と治安を守るために、自動販売機の場所を覚えておいてほしい
──おもしろいです。自動販売機にはまだまだ可能性がありますね。石田さん自身は趣味活動としての目標というかゴールはあるんですか?
「いや、あくまで趣味なので明確にはないです(笑)。ただ“自動販売機が人助けをする姿を見届けたいな”と思っていますね。
その点でいうと、先日まで新宿駅で試験運転をしていた『薬の自動販売機』には本当に感動しました。症状や薬名から薬を選べて、その場で薬剤師さんとビデオ通話をつないで、許可を得てから買えるんです。
例えば、これを医師と遠隔でつなぐと“その場で診察してもらい、そのまま処方箋を受け取れる”ということもできるわけですよ。すると身体をうまく動かせない方や離島に住む方も満足に医療を受けられますよね。この機能が完成したら、私のオタ活はゴールといってもいいかもしれないです(笑)」
──自動販売機を通して医療を受けられる時代が来たら、これはもう立派な社会インフラですね。水や電気みたいな必需品ですね。
「その点でいうと、私はすでに自動販売機は社会インフラのひとつだと考えています。例えば、今は“災害ベンダー”といって、災害時に飲料を提供できる機能がある。またショッピングモールや駅などにはAEDを搭載した自動販売機もあります。
それだけじゃなく、実は自動販売機って立っているだけで暗い夜道を照らしてくれるわけで、防犯にも貢献しているんです。自動販売機がなくなったら、日本中がすごく暗くて危険な場所になってしまうと思います。もう立派な社会インフラですよね」
──なるほど。想像できないですが、確かに自販機がなくなったら社会はもっと危険な場所になってしまう……。
「そうなんですよ。ですので、この記事を通して“自動販売機がある場所を覚えていてほしい”ということを伝えたいです。いざというとき、自動販売機の場所を思い出すだけで危険を回避できたり、命を救えたりする可能性があります」
──もはや風景の一部なので見過ごしがちですが、ちゃんと存在を認識することが大事ですね。前回、自動販売機を擬人化するお話がありましたが、そう考えると自動販売機って「いつも優しく見守ってくれてる大人」みたいに見えてきます。
「そう思っていただけたらうれしいですね。自動販売機はとことん優しいんですよ。だからこそ、私たちも自動販売機に対して丁寧に接するべきだと思います。
リサイクルボックスにサイズが合わないプラスチックカップを入れるのなんてもってのほかです。そもそもゴミ箱じゃなくリサイクルボックスなので、カン・ビン・ペットボトル以外は捨てちゃいけません。これも意外と知られていないので、ぜひ伝えたいです。
もう一度、自動販売機の優しさを認識することで魅力に気づき、私たちもインフラである自動販売機に丁寧に応える。それが自動販売機の可愛らしさとか、おもしろさに気づくきっかけになると思っていますね」
「自動販売機を趣味にすること」は素晴らしく裕福だ
石田さんは「自動販売機は日本のおもてなし文化の象徴です」と語った。いやいや、私にとっては、石田さんこそがおもてなしの人だった。
取材日は9月中ごろの暑い日だったが「記事が出るのは10月ですよね。半袖だと季節感が合わなくなりますから……」と、撮影用にジャケットを着用してくれた。相手を気遣えるからこそできる行動である。
石田さん自身に思いやりの心が備わっていたからこそ、自動販売機の優しさに気付けたのかもしれない。いや、自動販売機からの学びがあったのかも。どちらにせよ、日本人にとってもはや風景の一部と化した自動販売機に注目すること自体が、すばらしく豊かだ。
メンタルに焦りがなくゆとりがあるからこそ、見慣れた光景を再確認できるし、人におもてなしの心を注げる。これはサブカルチャー全般にいえるのかもしれないが、自動販売機を趣味にできるって、実はすごく裕福なことなのかもしれない。石田さんのお話を伺いながらしみじみと感じた。
石田さんがおっしゃるとおり、自動販売機はいたるところにあり、気軽に楽しめる趣味だ。気になった方はあらためて「飲み物を買う」という一連の流れを、ゆっくり楽しんでみてはいかがだろうか。人として成長できる”おもてなし”を学ぶきっかけになるかもしれない。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)