人気放送作家として活躍している長崎周成さんは、人気タレント・フワちゃんのYouTubeチャンネル『フワちゃんTV』の放送作家として、よく動画に登場している。その様子は、放送作家というよりもフワちゃんと気の合う友達にしか見えない。
長崎さんの著書『それぜんぶ企画になる。』(左右社)の巻末に収録されたフワちゃんとの対談でも、長崎さんは、「僕はフワちゃんと出会うまでは、“遊ぶように仕事”なんて、裏方には不可能だと思ってた」「気持ちは遊びでも、いい仕事は上げられる。遊びと仕事って、裏方でも両立できるんや! って、僕はフワちゃんに教えられた」と語っている。
長崎さんが2019年に設立した、さまざまな企画やコンテンツをプランニングする株式会社チャビーは、同世代で友人でもある放送作家たちがメンバーだ。「遊ぶように仕事をする」「友達と仕事をする」と聞くと、自分もそんな友人や仕事に恵まれたいと思う人も少なくないのではないだろうか?
インタビュー後編では、長崎さんに、コロナ時代の友人との関係性の深め方や、自分自身の保ち方、今後の展開などについて聞いてみた。
(フワちゃんとの出会いや、企画を通す際に大事なことや、実際に長崎さんが作成した企画書については、インタビュー前編で詳しく紹介しています→記事:フワちゃんを見つけたときの直感と先見の明──売れっ子放送作家・長崎周成「この意味不明な魅力を解き明かして世の中に伝えたい!」)
Netflixとの仕事さえも、実は雑談から機会が生まれた
2020年から広がった新型コロナウイルスの感染拡大により、学校や会社はリモートが主流になり、飲み会がなくなり、イベントや旅行の機会も激減した。そのため、新たに友達をつくることが困難な状況が続いている。長崎さんなら、どうやって友達をつくっていくのだろうか?
「“会えない中で友達になる”って、相当難しいですよね。僕も初めは誰かと直接会って、そこからつながっていったので……。でも、自分がどんな人か伝わらなければ人は集まってこないから、自己発信や自己表現が大事だと思うんです。SNSでもアイコンやプロフ(プロフィール)に何も設定していなければ、その人にどうツッコんでいいかわからないですし」
実は、長崎さんは、自分自身は平凡な人間で、かつ、自信がないと感じているという。これは長崎さんに限った話ではなく、多くの人たちが「自分に自信が持てない」と感じているのではないだろうか。そうなると、自己発信は少しハードルが高そうでもある。
「自己発信する手前で、自分で止めてしまっていることってあると思うんですよね。例えば映画が好きでも、詳しい人はいくらでもいるから、“自分はそこまで詳しくない”と発信するに至らないとか。
でも、僕はそんなことは関係ないと思っていて、“映画が好き”という事実をそのまま発信すればいいと思うんです」
自己発信が何につながるかわからないということは、長崎さん自身も経験済みだ。長崎さんは今、Netflix Japanと仕事をしているが、そのきっかけになったのは、知り合いとの何気ない雑談だったからだ。
「僕はよくゲームをするのですが、ある日、週明けに提出しなくてはいけない宿題から逃避して、先輩とボイスチャットをつなげてゲームをしていたんです(笑)。
先輩に“最近どうなの?”と聞かれて、素直に“Netflixとお仕事してみたいです”って言ったら、その先輩の大学時代の同級生がNetflixに入社したばかりで、紹介してもらえることになったんです。
これも自己発信のひとつ。遊ぶことも、誰かとしゃべることもつながっているなと思いました」
“嫌みなデブになるのはやめよう”と決めたとき、すべてが回りだした
そもそも長崎さんは、自分のことを「友達が多いタイプじゃない」と思っている。
「僕は友達と会社をつくりましたが、仲いいやつと形にしただけで、数が多いわけじゃない。むしろ僕は自己防衛反応ばかり働く、バリアー人間。初対面の人に対して、あまのじゃくな対応を取ってしまうことがあります。
本当は仲よくなりたいと思っている人に対して、その人が僕にツッコんできてくれたときに、“自分の嫌な部分を出したくない”“嫌なことを言われたくない”という気持ちから、逆に突っぱねることを言ってしまうんです」
興味を持ってくれた人に対して、そんな態度を取っていれば、仲よくなれるかもしれないものも、うまくいかないのではないか? そんな長崎さんが変わるきっかけになったのは、ある先輩の指摘だった。
「僕は見た目がぽっちゃりして、しゃべり方もわりとおおらか。それなのに、“話しかけてみたら突っぱねられたり、入ってくるな! みたいな雰囲気を出したりしているのは、マイナスギャップすぎる。イヤなB面すぎる!”って言われたんです。
話しかけやすい雰囲気なのに、しゃべってみたら、はねのけられる。こんなマイナスギャップがあるやつに、仕事が増えるわけがない。嫌みなデブになるのはやめよう、と思いました」
それからの長崎さんは、自己防衛本能で自分を見せないのではなく、自分を小出しにさらけ出していく、という方法に切り変えた。
「自分はこういう人間だ、と一気にさらけ出すと相手は引いてしまうけど、小出しならキャッチしてくれるもの。そして、相手に本気で興味を持ち、いっぱい質問するようにしたら、僕の話を聞いてくれるようになり、自分のことを知ってもらえるようになっていきました」
また、当時の長崎さんは、自己防衛本能が過剰になっていたうえに、放送作家として評価されたいという“戦闘モード”も上乗せされ、ますます近寄りがたい雰囲気を発していたという。
「その先輩とテレビ局のエレベーターに乗っていたときに、“目がガン決まりになってる”と言われ、ふと鏡を見ると、鋭い目をしてにらみ付ける自分がいました。“こんなやつが面白いこと言えるわけない”と、自分を客観視できました。
戦闘モードは僕の素の状態ではなかったし、友達といるときの自分のほうが、ベーシックな状態に近いことに気づいたので、仕事相手にもギアを落とした状態で接したほうがいいということに気づきました」
料理も企画も、共通点は“因数分解して考える”?
仕事でも、友達といるときでも、フラットな自分でいることで楽になれた長崎さんには、プライベートで楽しみにしていることがある。それはゲームと料理だ。料理については、好きが高じて調理師免許まで取ったというハマりっぷりだ。
「最近、食べたい欲よりも人に振る舞いたい欲が上回ってきている。とにかくおいしい料理を作って、食べてくれた人の笑顔をみて喜ぶという、キモキモ独身男性に仕上がってきました(笑)。
お店で食べた味を再現するのが好きで、プロの作ったものには遠く及ばないんですけど、わりと近いものにはできます」
友人に振る舞った料理の中で、印象に残っているのはハヤシライス。
「友達と“ハヤシライスって、結構どれも味が一緒じゃない?”という話になって、ハヤシライスについて改めて考えてみたんですけど、玉ねぎをいっぱい使っている料理だということに気づきました。
だから、とにかく大量の玉ねぎを使ってルーに入れて。さらに、新玉ねぎを輪切りにしてオーブンで焼き、岩塩とオリーブオイルをかけて、ハヤシライスの上に乗せてみました。エビが好きな友達だったので、最後にエビクリームも作って、味変できるようにしました。
食材費は僕持ちで、食べる友達からは“支払ってもよいと思った金額をもらう”というルールでやっています。あくまで趣味なのですが、とにかく“おいしいと言ってもらいたい”という、謎のエネルギーが働いています」
目の前のことに没頭することで、他者と比較することがなくなった
2022年の後半から2023年1月まで、人生の中でもかなりバタバタしていたという長崎さん。特に年末年始に担当した『このテープもってないですか?』(BSテレ東)と、『あたらしいテレビ2023』(NHK)は、長崎さんにとって印象に残る仕事になったという。
そんな長崎さんの2023年の目標は「没頭」。実は2022年も同じ目標で、仕事を手広く広げていくよりは、集中して仕事に取り組みたいという考えにシフトしている。
「今、みんなが面白いものを作っているから目移りしがちなんですけど、“それが自分ができることなのか、自分のやりたいことか”というのは別の話。自分がやれることに集中したほうが、ストレスがなくなるんです。
誰かほかの人が面白いことをやっていても、イライラ、ハラハラ、ソワソワする夜がなくなって、“へー”と、言えるようになりました。昔だったら“くそー”って思っていたんですけどね」
また、海外で仕事をしてみたいという気持ちもあるという。コロナで海外への往来が難しくなった一方、どこにいてもリモートワークで仕事がしやすくなった。それは、コロナによって選択の幅が広がったとも捉えられる。
「僕はあまり英語が話せないし、やみくもに海外に行きたいわけじゃない。海外の考え方やモノの作り方、企画の考え方を勉強して、いろいろ取り入れていきたいと思っています。
日本にいようが、海外にいようが僕は僕だから、“日本人で放送作家をやっている僕が、海外で挑戦できることだけやれたらいいな”と思っています」
長崎さんは幼いころ、『周成』という自分の名前がイヤだったという。両親が「周りの人」を「成り立たせられるように」という願いを込めてつけてくれた名前だが、自分ではなく他人をサポートする人生を決めつけられていたような気がしたからだ。
しかし、放送作家になった今、『周成』という名前が仕事に通ずる部分もあり、好きになったという。
「僕だけの意味を込めてくれ、ありがたい名前をいただけて感謝しています。これからも“周りを成り立たせる人生”を楽しんでいきたいと思っています」
(取材・文/吉川明子、編集/本間美帆)
【PROFILE】
長崎周成(ながさき・しゅうせい) 1991年生まれ。放送作家。株式会社チャビーCEO。芸人、テレビ制作会社勤務を経て、現職。地上波テレビ番組の企画構成を担当しつつ、2018年にYouTubeチャンネル『フワちゃん TV』/『フワちゃん FLIX』をフワちゃんとともに開設。2019年に20代放送作家を中心とした企画会社チャビーを設立。お笑い・バラエティを中心に、『ZIP!』(日本テレビ系)『週刊さんまとマツコ』(TBS系)『ドラえもん』(テレビ朝日系)など、さまざまなメディアを横断して企画。Twitter→@shuuuuuusei