大切な用事で現地に向かうとき、乗ったタクシーが渋滞につかまってしまって、イライラしたという経験はありませんか?
そんなときは、いったい何を考え、どうすればよいのでしょうか?
これは、そんな状況に陥ってしまった、あるセミナー会社の社長秘書(30代・女性)の体験です。
セミナーの朝、タクシーが大渋滞にはまる!
その社長秘書さん。仮にMさんとしましょう。
Mさんが秘書を務める社長さんのセミナーが開催される日。セミナーが行われる会場へは、当日の朝、社長は自宅から自家用車で、Mさんは電車で向かう予定でした。
しかし、体調がすぐれなかったMさんは、現地までタクシーを使うことにしたのです。
慎重派のMさんは、遅刻しないように、かなりの余裕を持って自宅を出たそうです。
タクシーが高速に入ると、車の数が多い。合流地点での渋滞に、思わずため息をつくMさん。
「いや大丈夫。時間は十分にあるから、焦らなくても大丈夫」
自分にそう言い聞かせ、こんなときこそ余裕を持たなければ……と、運転手さん相手に、「ひどい渋滞ですねぇ」なんて談笑するMさん。
しかし、ここで追い打ちが……。高速の案内板に、こんな掲示が出たのです。
<〇〇出口付近 事故発生>
すぐさま無線で情報収集を始める運転手。
しかし、無情にも、やがて、掲示の内容が変わります。
<〇〇出口 通行止め>
セミナー会場へ行くための高速の出口が封鎖されてしまったのです。
窮地で思い出した、社長の教えとは
もはや、ひとつ先の出口を目指すしかありません。
それなのに、乗っているタクシーは1ミリも動いてくれません。
な、な、なんで! 今日に限って、どうして?
「このままではセミナーの開始時間に間に合わない……」
さすがに焦るMさん。
しかし、ここでMさんは、普段から社長に言われていた、「ある教え」を思い出したのです。
その教えとは、こんな内容でした。
【今できる最高最善の行動をとりなさい】
【For me ではなくFor you。自分ではなく、相手の立場になって考え、行動しなさい】
その言葉を思い出し、少し冷静になったMさん。
いったい、「今の自分にできる最高最善の行動は何か?」「誰のために、何をするべきか?」を考えました。
出てきた答えは「情報の共有」。
Mさんは、すぐさま社長に連絡を入れました。
自分が遅れるという連絡ではありません。
今日の自分と同じように車で高速を使って会場に向かう可能性が高い社長へ、事故渋滞が発生しているという情報を伝えるための連絡です。
社長にとっては慣れた道ですから、もしかしたらカーナビもセットしていないかもしれない。
もし、社長がこの渋滞に巻き込まれたら、セミナーの主役が会場入りできなくなってしまう! セミナーに参加する人たちのためにも、それだけは防がなければ!
今の時間ならまだ、社長は家を出ていないはずだと考えたMさんは、最善の行動として、社長へ「事故、通行止め」の情報を伝えることを選択したのです。
「災い」を「福」に変える考え方って?
社長への連絡を終えたMさん。
次の「今できる最高最善の行動」を考え、「会場入りしてからやろうと思っていたプレゼンの最終的な準備」のうち、車内でできるものをできる限り進めたのでした。
そして、こう考えました。
「今日、私がこの渋滞につかまったのは、もしかしたら、社長がこの渋滞につかまらないようにするために、神様が仕組んでくれたのかもしれない」
そう考えれば、今日に限って体調が悪くなり、いつもは使わないタクシーを使ったことも納得できるのではないか……と。
このときのMさんの考え方こそ、「災いを福に変える考え方」ではないでしょうか。
この考え方ができれば、どんなトラブルにあっても前向きにとらえられるようになります。
事実、Mさんは、「自分の判断ミスですみません」と恐縮する運転手に対して、まったく別の話を切り出して、笑いながら雑談をすることができたのだとか。
そのときMさんは、トラブルに対して、そんなふうに前向きに考えることができた自分に驚いたそうです。
社長秘書になる前の自分なら、渋滞にイライラするだけだったはず。
その自分の成長ぶりを誇らしく思い、感動したといいます。
こういう瞬間が、「自分の成長を実感できた瞬間」なのかもしれません。
(文/西沢泰生)