今から24年前に、X JAPANのギタリストであり、ソロアーティスト(hide with Spread Beaverおよびzilch)としても活躍していたロックミュージシャンhideさんが急逝。当時、葬儀には約5万人のファンが訪れ、社会現象になりました。
突然、大切な人を失った家族や仲間が、その悲しみを乗り越えていく希望と絆を描いた映画『TELL ME ~hideと見た景色~』が、7月8日から全国公開されます。
脚本を共著し、メガホンを撮った塚本連平監督に、hideさんの魅力や今でも愛される理由、そして本作の見どころについてお話を伺いました。
ファンと一緒に悩んでくれるような親近感があった
──映画を拝見し、hideさんのファンが納得するように丁寧に作られた作品だと感じたのですが、作品を作るにあたり、心がけたことは何かありますか?
「hideさんのファンの人たち、ご家族、仲間にとって、不愉快なものにしたくないという思いをもって作りました。みんなにとって大事なhideさんであるように、hideさんにとっても大切なファン、ご家族、仲間ですしね」
──“事実をもとに描いた作品”ということですが、原作本と原案本の2冊を使用するだけでなく、新たに取材し、それも反映したのだとか?
「生前、hideさんのマネージャーだった弟の松本裕士(ひろし)さん(※原作本『兄弟 追憶のhide』講談社文庫刊の著者)や、原案協力者であり、hideさんの共同プロデューサーでプログラマーだったI.N.A.さん(※原案本『君のいない世界~hideと過ごした2486日間の軌跡』ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊の著者)のほか、実際にお仕事を一緒にされていたユニバーサルミュージックの方にもお話を伺いました。とくに裕士さんには、hideさんとの子どもの頃のお話などを伺い、作品に反映しました」
──hideさんはどんな方だったと思いますか?
「繊細で優しくて、すごく人を思いやる人。そして、シャイだったようですね。
また、“普通っぽさ”がある人だと思うんです。もちろん才能を持っていらっしゃいましたが、ファンを上から見下ろす感じではなく、“なんとかなるんじゃないの? 俺もこんなふうに悩んでいるし!”と、一緒に悩んでくれるような親近感があって、前向きになれるメッセージを発信されていました。
裕士さんに対して、“死ぬ気でやれよ、死なねぇから”とおっしゃっていたそうですが、それは、hideさん自身にも言い聞かせていたような気がします」
──意外にも、hideさんは子どもの頃、太っていて内気な性格だったんですよね。そんな少年が、高校2年生のときに一気に20キロも痩せ、その後、ヴィジュアル系のミュージシャンになったというのは、かなりギャップがあり、魅力的です。
「(そういう経験があるから)hideさんは“ごくごく普通の人だって、なにかできることはあるのではないか。もしくは、普通のままでもいいんじゃないの”と伝えていたように感じています。
映画に出てくる“キング・オブ・素人”というのは、取材の中で出てきたhideさんの言葉なのですが、すごくステキな言葉だと思いました」
──亡くなって24年がたっても、hideさんは変わらず愛され続けています。「hideさんの曲には、今でも色あせないクオリティがある」というのは、よく言われていることですが、それ以外にもどんな理由があると思いますか。
「誰しもが、人生で一度は通るような悩みや苦しみってありますよね。そんな(多感な)時期にhideさんの曲を通して前向きなメッセージを受け取る人がたくさんいて、現代でも新しいファンが生まれているのではないかと思います」
ライブシーンは圧巻! 音源は劇場用に再mix
──ロックバンド・FUZZY CONTROLのJUONさんが、hideさんにふんしていらっしゃいますが、どんなふうに演じてほしいとお話しされたのでしょうか。
「JUONさんに限らず、実在する人物を演じていただいた方には、“実際のモデルの人に対してのリスペクトは忘れてはいけないけど、ものまねはしなくていいです”とお伝えしました。もちろん、自分自身の素のままでいい、というわけではないのですが。
JUONさんは、雰囲気や骨格がhideさんに似ているんです。劇中の楽曲は、すべてhide with Spread Beaverの音を使っていますが、たとえ演奏をしているふりでも、ギターがうまくないとできない役なんです。キャスティング担当の人は、よく適任者を見つけたなぁと思います」
──今井翼さんを主演に抜てきした理由を教えてください。
「裕士さんが実直で不器用なくらい真面目な方なので、そういった芝居ができて、裕士さんの雰囲気を持っている人ということで、お願いしました。今井さんも真面目過ぎるくらい真面目な方なので、役柄と一致していました」
──1998年に開催された「hide with Spread Beaver TOUR appear!! “1998 TRIBAL Ja,Zoo”」のライブシーンは、圧巻でした。ステージセットや照明も、当時のライブイメージに近づけるように撮影されているので、大きな映画館で観たら、本物さながらの体験ができるのではないでしょうか。
「hideさんの実際の声、演奏を使っていますが、I.N.A.さんが立ち会いのもと、当時のライブ音源をマルチトラックから再mixし、新たな劇場用サラウンドmixを施したので、今まで聴いたことがないような(迫力のある)音になっています。臨場感があるので、劇場で観ていただけたら、一体感を味わえると思います。
この映画の撮影をしたのは今年の1月の終わりから3月までだったのですが、本当は、前の年の同じ時期に行う予定だったんです。コロナが原因で延期になってしまったので、さらに1年間、バンド役のみなさんは、練習をしてくれていました。
ライブシーンの撮影のときには、みんなそれぞれ、モデルになっている人の演奏の細かいところまでコピーできるようになっていました。これだけの期間があったからこそ、その人物像になり切れたのだと思います」
──映画には、hideさんの関連品を多数使われていますよね。
「劇中に出てくるhideさんの車は、ご本人の愛車『ダイムラー ダブルシックス』を使用しました。運転できるよう修理をしていただいたんです。
また、400点以上の写真や、1998年当時のJa,Zooライブグッズなどをお貸し出しいただきました(※『Ja,Zoo』はhideさんの3rdアルバムのタイトル)」
──細かいところまでこだわっているので、ファンの人には、映画を2度、3度と観て、楽しんでいただきたいですね。
「もしかしたら、ファンの方のなかには、“hideさんを他の人が演じるなんて考えられない”と思う方もいるかもしれません。でも、hideさんに失礼のないように、という思いを込めて作りました。ぜひ、試しに観ていただきたいですし、感想を聞かせてほしいです」
“しょーもない”ものを、長生きをして作り続けたい
──今回の作品に限らずですが、塚本監督が作品を作るにあたり、心がけていることは何ですか?
「題材にもよりますが、希望がある作品にしたいと考えています。もちろん“全く救いようのない(悲しい)話を作ってくれ”という依頼があったら作りますが、たとえ血みどろな作品でも、最後は気持ちよく終わりたいというのはあります。最後まで落ち込んだまま終わりたくはないです」
──塚本監督の作品は、『今日も嫌がらせ弁当』(’19年)といい、ポジティブでクスッと笑える作品が多いですよね。実は、世界の“おバカ映画”マニアで、「Z級映画」の名付け親でもあるのだとか。監督は過去のインタビュー記事で、「100歳を超えても“しょーもない”と言われる映画・ドラマを撮り続けたい」とおっしゃっていますが、そこにある思いはなんでしょうか。
「ポルトガルの巨匠、マノエル・ド・オリヴェイラ監督が100歳を超えても映画を撮っていたのですが、僕の場合はそういったアート系作品ではなく、“しょーもない”ものを、長生きをしてひたすら作り続けたい。それであれば、普通の僕でも“死ぬ気でやれば”できるかなって」
──hideさんの「死ぬ気でやれよ、死なねぇから」という声が聞こえてきそうです(笑)。
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塚本監督ご自身も、この映画を撮った経験を通して、hideさんの影響を受け、勇気をいただいているようです。こうしてhideさんは、ずっと多くの人々の心の中で生き続けるのでしょうね。
(取材・文/加藤弓子)
■hideさんについて
X JAPANのギタリスト“HIDE”であり、ソロアーティスト“hide”として、『ROCKET DIVE』『ピンク スパイダー』などの名曲を発信した。その個性的なファッションやメイクは、“ヴィジュアル系”という新たなカルチャーをつくりあげ、革新的で時代を先取りした音楽や、おもちゃ箱をひっくり返したような奇想天外なライブパフォーマンスは、日本の音楽シーンに多大なる影響を与えた。
■映画『TELL ME ~hideと見た景色~』
1998年5月2日にhideが急逝した。制作途中だったアルバムや既に決定していた全国ツアーがあり、兄の意志を継いだ、マネージャーを務める弟・松本裕士は、hideの共同プロデューサーI.N.A.ら仲間たちとともに動き出す。hide本人不在という異例の状況下で奮闘する裕士たちの前に、さまざまな困難が立ちはだかる……。2022年7月8日(金)全国公開。
配給:KADOKAWA
〈PROFILE〉
塚本連平(つかもと・れんぺい)
1963年生まれ、岐阜県土岐市出身。日本大学芸術学部卒業後、テレビ界入り。『ドラゴン桜』(TBS系)、『時効警察』『特命係長・只野仁』『都市伝説の女』(以上、テレビ朝日系)など数多くの人気ドラマを世に送り出す。映画は『ゴーストシャウト』(’04)で監督デビューし、第2作『着信アリ2』(’05)のヒット以降、脚本家・福田雄一とタッグを組んだ『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』(’08)、近年では『今日も嫌がらせ弁当』(’19)、『僕と彼女とラリーと』(’21)を手がけた。企画プロデューサーとしてもドラマ、映画、さらに情報バラエティの開発にも携わっている。