ほぼ毎日、映画レビューをTwitterに投稿している生粋のホラー映画オタク・人間食べ食べカエルさん。インタビュー第1弾、第2弾では幼少期から現在までを振りながら、「なにがきっかけでホラー映画にハマったのか」を教えていただいた。
◆第1弾:視聴数は年間、約500本! 人間食べ食べカエルさんが「ホラー映画」にハマった理由を幼少期からひも解いてみた
◆第2回:Twitterフォロワー約17万人の人間食べ食べカエルさん、ホラー映画をレビューしまくる背景と奇跡的な名前の由来
今回は「ホラー映画を長年にわたって楽しみ続けられる理由」についてインタビュー。その背景には「ピュアな目線で物事をとらえることの大切さ」があった。
年に約500本見てもホラー映画に耐性がつかないという“才能”
──インタビュー第1弾で「今は年間500本くらいのペースで映画を見ている」とおっしゃっていましたが、この生活はいつからなんですか?
「大学生の後半くらいからです。単位を取り終えて時間ができたんですよね。それと、“きっと就職したら映画を見る時間なんてなくなるから、今のうちに”って焦っていたんですよ。結果、就職してもずっと映画を見続けているんですけど(笑)」
──すごすぎます。人間食べ食べカエルさんのTwitterを見てると「マジで誰が見るんやこの映画……」というマニアックな作品がわんさか出てきてびっくりなんですけど、どうやって作品を発掘しているんですか?
「過去の作品なんかは、北米版のAmazonでログインして『ホラー映画』でソートして、調べています。
新作や日本未上陸の作品などを探す際は、YouTubeで『Horror Trailer』などのキーワードで検索をかけて発掘しますね。もちろん、Twitter上に流れてくる情報を参考にすることもありますよ」
──なるほど。北米版Amazonも使っているんですね……。これだけの数を見て「もう飽きたな~」ってことはないんですか?
「いや、それが飽きないんですよ。年間400本見てもホラーに耐性がつかないといいますか……。今でもショッキングなシーンがくると“新鮮に”ビビりますからね。特に、映画館の音響設備で見ると、身体が”ビクっ!”て(笑)」
──えぇ! 意外です。もうなんか勝手に「眉ひとつ動かさずに腕組んで仙人みたいな表情で見ているのかなぁ」と思ってました(笑)。第1弾の記事で「根がビビり」という言葉がありましたが、今でも変わらないんですね。
「変わらないですね。ほんと何本見ても全然、慣れないんですよ。
でも、これって“恩恵”だと思っていて。“ビビりだからホラーにハマり続けられる”という部分は絶対ありますね。ホラーの醍醐味(だいごみ)である“恐怖”に慣れてしまったら、もう作品を楽しめないと思うんです」
──なるほど。確かに「怖い」と思えるから「面白い」と感じるのか。これだけホラーに詳しくても、根底はピュアなんですね。
「そう。だからホラー映画が好きな人って、意外とビビりな人が多いと思いますよ」
テクノロジー・トレンドともに進化するからこそ”新鮮さ”が失われない
──人間食べ食べカエルさんが「慣れない」ことも重要ですが、同時に、作品自体も常に刷新され続けていますよね。これも魅力を感じ続けられる理由の1つなのかな、と。
「そうですね。ホラー映画って、現実世界の“テクノロジーの進化”や“トレンドの変化”によって、次々に新しい作品が出てきています。
例えば、コロナ禍でリモートワークが増えてきた2020年には『ズーム/見えない参加者』という作品で、リモート会議ツールの画面を使った『Zoomホラー』というジャンルができました。
この作品の監督がロブ・サヴェッジという方なんですけど、彼は『Dashcam』(原題)という作品で車載カメラを用いています。これも革新的でしたね。実際の生活に近い視点を描けるので、よりリアリティをもって情景を描写できるんです」
──なるほど。現実のテクノロジーに合わせて進化しているんですね。
「そうです。実は、ちょっと前は『Skypeホラー』ってのもありましたね。テクノロジーはもちろんですが、『社会的なトレンド』が反映されやすいのもホラー映画の特徴だと思います。
その点でいうと、2022年7月1日から上映中の台湾映画『哭悲/THE SADNESS』は、今年見たなかだとトップクラスに面白かった。明らかにコロナ後のことを描いているんですよね。風邪っぽい症状の病気が流行(はや)る。でも落ち着いてきたから、みんなマスクを取って生活するようになる。すると、そのタイミングでウイルスが突然変異し、人の脳に作用して“とにかく残酷なことをしたい”と思う欲求だけを全開にさせるという」
──うわ、怖っ……。コロナ後のことなんて誰も想像つかないから、なんだか「もしかしたらありえるかも」と思えてきます。
「マジで“なんて嫌な設定を思いつくんだ”って感じですよね(笑)。こういう“世間のトレンドを過剰に演出してエンタメにする”っていうのも、ホラー映画ならではの面白い部分だと思いますね」
──なるほど。
「さらに、社会的な要素に加えて『映像表現のアイデア』も進化しまくっています。
例えば、最近でいうと『ナイト・ハウス』という作品では、トリック・アートで怪異を表現していました。これは斬新でした。
ホラーって、“驚かせる”とか“怖がらせる”ことに力を注いでいる。すると“王道パターン”が完成されてきて、視聴者も“どうせこのパターンでしょ”と、先の想像がついてしまうこともあります。だから制作者側はアイデアで想像を超えるシーンを作らないといけないんですよね。
その結果、ホラー映画って、ほかのジャンルよりも斬新な映像表現を突き詰めていると思うんですよ。見ている側としては“次はどういうものを見せてくれるんだろう”っていう気持ちを持ち続けていられるし、私のなかでも大きな楽しみ方になっています。
たとえ低予算だとしても、アイデアで想像を超えてくる作品を見ると、ものすごく興奮しますね」
──面白いです。例えば「振り返ったら化け物がいる」というベタなパターンでも、今は「いない」っていう“スカし”のほうが多いですもんね(笑)。
「ですね。今、一発目に振り返ってマジで化け物がいたら、逆に新鮮で怖いですよ(笑)」
──(笑)。もしかしたら5年後とか、一周まわって「振り返ったら“いる”パターン」が流行っているかも。
「こういう“出尽くしたパターンを逆手にとる”っていうサイクルを繰り返していったら、斬新な表現が無限にできますね。“怖がらせるパターンのトレンド”が常に移り変わるから、ずっと新鮮さを感じられる。だからハマり続けているのかな、って思います。本当に、見れば見るほど奥が深いジャンルですね。ホラーは」
「ほんのちょっとのきっかけ」が、苦手な人を“ホラー沼”に引きずり込む
──いやぁ、全3回にわたって、めちゃめちゃ興味深い話をありがとうございました。最後に「ホラー映画はちょっと苦手だけど、これからチャレンジしたい」という人にメッセージをいただいてもいいですか?
「はい。一口に『ホラー映画』って言っても、“ショッキングなシーンに特化した作品”や“密室もの”、“サイコパス殺人鬼が出てくるスラッシャー映画”など、さまざまです。
なかでも苦手な人は、ミステリーのような“人間ドラマを中心にしてホラーのエッセンスを加えた作品”から入ることをおすすめしたいですね。ただのベタなドラマではなく、“ちょっとした非日常感”に楽しみを覚えていただけたら、それがホラーにハマるきっかけになるんじゃないかなって思います」
──人間食べ食べカエルさんもそうだったと思うんですが「ほんのちょっとのきっかけ」でびっくりするくらいハマることってありますよね。
「そうですね。私はテレビ放送がきっかけだったんですけど、今はネットも発達して、いろんなところで影響を受けられると思います。私の記事やTwitterの投稿が、ホラー映画にハマるきっかけになってくれたら嬉しいです」
作品を肯定的にとらえる「ピュアな目線」が自分も周囲も幸せにする
何らかのオタクが「ピュアな心を維持する」というのは、かなり大変なことだ。オタ活を続けるにつれて知識がたまり、表も裏も掘っていくと、ちょっと斜に構えてしまうことは多々ある。映画をはじめ小説、アニメなどの場合、知識を蓄積したオタクはいつの間にか「批評家」に変貌し、なぜか無意識に“減点式で作品を見てしまう病”に侵されがちだ。
その点、人間食べ食べカエルさんは「ずっとピュアにホラーを見ている」という点がすごい。もちろん知識量や過去の記憶はあれども、根底では慣れていない。人間食べ食べカエルさんのツイートや記事を見ていただけるとわかるが、基本的にものすごく肯定的な言葉が並んでいる。ピュアな心を忘れず“空っぽな状態”で映画に没入できるからこそ、加点式で映画を受け入れられるのだろう。だから、おすすめされる側もハッピーな気持ちになれるし、共感できるのだと感じた。
さて、日本列島には例年より早く猛暑が到来した。こんな暑い日こそホラー映画だ。部屋を暗くしてガタガタ震えながら見て涼んでみては? ……なんて、ベッタベタなパターンは、それこそ「振り返ったら化け物がいる」ってなもんで、この記事に絶対そぐわない。
ぶっちゃけ、ホラー映画に季節は関係ない。春夏秋冬いつだって「気になったときに見る」ものだ。もし見たい作品が決まってない方は、人間食べ食べカエルのアカウントをのぞいてみるといい。そこには、初心者のあなたが共感できる「ピュアな視点で紹介するおすすめホラー」も取りそろえられている。
(取材・文/ジュウ・ショ)