小じわにはレチノール、顔のたるみには表情筋エクササイズが効く……などなど、あまたあるエイジングのお悩みに次々と福音がもたらされている昨今。そんな中にあって、取り残されている感があるのが白髪対策。カラーリング剤こそ巷(ちまた)にあふれているものの、大枚はたいて髪をサロンで染めても、2週間もたてば、こめかみのあたりに光るものがチラホラ。まったくもう、ため息のひとつもつきたくなっちゃう……。
「白髪対策、予防ぐらいでしたら実は簡単にできるんですよ。正しい白髪対策法を3~4か月も続ければ、眉毛とかヒゲとかにどんどん黒い毛が出てきます。もちろん、髪の毛にも出てきます」
こう語るのは、管理理容師で、ヘッドスパ専門店としては日本最多の店舗数を誇る『PULA(プーラ)』創業者の辻敦哉さんだ。
理美容師ならみな知っている、白髪の意外な「素顔」
創業前、ヘアサロンの店長として1万人以上のお客さんに接してきた辻さんは、多くの女性客が白髪の悩みを訴えるのを見聞きしてきた。男性が薄毛を気に病むように、自分の白髪に悩みに悩んでいる女性も少なくなかったという。
「ところがわれわれ理美容師は、仕事の中で白髪が黒毛に戻ったり、戻った黒毛がまた白髪になってゼブラ模様になったりした髪を、ちょくちょく目の当たりにしているんです。科学的に確立した方法ではないにしろ、白髪を黒髪に戻すことはできるし、予防することもできると思ったのです」(辻さん)
理美容師でない私たちでも、ふと手にした1本の髪の中で黒髪と白髪が前後に混じりあい、ゼブラ状になった白髪とも黒髪ともいえない髪を見つけ、「なぜこんなことが……?」と思ったことがある人は少なくないはず。髪の専門家たる辻さんも同じだった。そんな素朴な疑問のもと、自らを実験台にし、生み出したのが辻式白髪予防法。髪にゼブラ毛が混じっていたり、あるいは金髪のように髪に薄く色がついている状態ならば、これ以上の増加を予防したり、あるいは挽回することは十分に可能と語る。
ではどうすれば、あのイヤな白髪が予防できるのか──?
予防効果を確実にするためにも、まずは白髪について正しく知っておくことから始めよう。
髪はもともと白髪として誕生する
「意外と知られていない事実だと思いますが、そもそもすべての髪は白髪として生えてきます。“白髪=老化”と思いがちですが、生えてきたその瞬間の髪は誰でも、たとえ生まれたての赤ちゃんであっても、白髪なんです」(辻さん)
私たちの髪は、メラニンという褐色の色素が誕生したばかりの白い毛を染めることで黒くなる。この白い毛を染める細胞をメラノサイトというが、このメカニズムは、赤ちゃんから私たち白髪に悩む世代までまったく同じ。だが私たちの場合、さまざまな要因でメラノサイトの働きが鈍くなっているがゆえに、髪は白いままになり、いわゆる「白髪」に悩むことになるわけだ。
メラノサイトが働かなくなる要因はいろいろあるが、ひとつには遺伝的要素であると辻さん。
「白髪になりやすい家系というのは確かにあるように思います。おじいさんやおばあさん、両親に白髪が多い人は、白髪になりやすい傾向にあります」(辻さん)
遺伝的要素以外にも、しばしば「髪が太くて剛毛」「クセがある」「茶髪より真っ黒な髪」が白髪になりやすいといわれたりするが、これは間違いであるそう。
「白髪になりやすい家系の人は、髪がやわらかい人でも白髪になります。白髪になりやすい・なりにくいに、毛質はあまり関係ありません」(辻さん)
ちなみに、「白髪の人は薄毛になりにくい」という俗説もあるが、これも間違いで、白髪を抜くのも間違い。ひとつの毛穴から生えてくる髪は1本ではない。白髪を抜くことでともに生えているほかの髪にもストレスを与えることになり、白髪を増やす原因となるからだ。白髪を見つけたら、根本からカットしよう。
とはいえ、もしも白髪が遺伝だけでできるものならば、家族はみな、ほぼ同じ年齢で白髪になるはず。白髪ができるのはだいたい35歳ぐらいからといわれてはいるものの、10代から目立ち始める人がいたり、両親は若いころから白髪頭だったが自分は40歳を過ぎてからなど、白髪が現れ始める年齢には幅がある。こうした差はいったいどうして生まれるのだろうか?
「その原因こそが、生活習慣の善し悪し。食生活の乱れや運動不足など生活習慣の乱れが、白髪ができる年齢を左右しているのです」(辻さん)
白髪対策、キモは「ミネラルとたんぱく質」
「白髪発生を早くする要因はさまざまですが、“食生活の乱れ”がもっとも大きな原因になっています」(辻さん)
辻さんが指摘するのは加工食品の数々。私たちの食卓には、手っ取り早くお腹を満たすための菓子パンやスナック菓子、インスタント食品などが氾濫(はんらん)している。
「こうした『加工食品』や『超加工食品』に分類されるものは、炭水化物こそ十分なものの、加工に加工を重ねることで栄養はスカスカになっています。特に不足しているのが、ミネラルとたんぱく質ですね」(辻さん)
ミネラルとは、食物に含まれる微量元素のこと。特に身体が必要としているミネラルは「必須ミネラル」と呼ばれ、マグネシウムやナトリウム、リンやイオウなど、16種類が知られている。ちなみにこれら必須ミネラルは、食べ物として食品やサプリから摂る以外、摂取することはできない。
<必須ミネラル16種>
マグネシウム、マンガン、ナトリウム、鉄、リン、コバルト、イオウ、銅、塩素、亜鉛、カリウム、セレン、カルシウム、モリブデン、クロム、ヨウ素
(『白髪は防げる!』かんき出版刊より)
さて、髪はケラチンと呼ばれる18種類のアミノ酸が結合してできたたんぱく質で構成されているが、髪を黒く保つためには、メラノサイトがきちんと働くことが欠かせないのは前述したとおり。
このメラノサイトが作り出すメラニン色素は18種類のアミノ酸のひとつであるチロシンを原料に作られるが、チロシンを黒い色素に変化させるのがチロシナーゼという酵素。この酵素の働きを活発化させるのが、実はミネラルなのだ。
「ところがそのミネラルは、髪以外にも歯や骨を作ったり、身体の機能を保つために欠かすことができません。黒い髪よりも、歯や骨、身体機能の維持のほうが大切ですから、ミネラルはまず、そちらから使われます。
つまり、ただでさえ不足しがちなミネラルが、髪を黒くするチロシナーゼの働きを活発化させる前に、もっと必要とされている部分に使われてしまっているのです」(辻さん)
さらに髪そのものの原料となるたんぱく質も不足している。たんぱく質が豊富に含まれる食材といえば、肉類や魚介類、卵や乳製品など。肉類や乳製品はダイエットを心がける女性には敬遠されがちだし、菓子パンやスナック菓子、インスタント食品といった加工食品にも、たんぱく質は不足ぎみだ。厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、現代の日本人のたんぱく質摂取量は、戦後間もない1950年代と同じ程度まで落ち込んでいるという。
「先ほどのチロシンも、まず髪の毛の材料を作るために働き、余ったものがメラニン色素の原料となります。チロシンはたんぱく質に含まれているので、たんぱく質不足はチロシン不足につながります。こうしたミネラルとたんぱく質双方の不足が負の連鎖となって、白髪増加に拍車をかけているわけなのです」(辻さん)
#2では、日常生活でできる具体的な白髪予防法について辻さんに聞いていく。
〈PROFILE〉
辻敦哉(つじ・あつや)
ヘッドスパ専門店としては日本最多の店舗数を誇る『PULA(プーラ)』創業者。管理理容師、元ヘアサロン店長。東京文化美容学校、ロンドンTONI&GUYアカデミー修了。アジアの優れた企業家に贈られる『アジアゴールデンスターアワード2017』で日本人で2人だけにしか授与されていないマスター大賞を受賞。『白髪は防げる!』(かんき出版刊)など著書多数。現在は後進の育成と、自身が考案したプーラ式のヘッドスパを習得した仲間とともに、ヘッドスパ専門店を全国展開中