面倒見のよさが寿命を伸ばした
姿を消したレンタル業者もおり、置きっぱなしの喫茶店などから「おたくの製品だと思うんだけれどクジの補充などなんとかならないか」などと問い合わせがくるように。本来ならば売ったあとのことまで責任は持てないが、せっかく置いてくれているんだからと、クジ補充やメンテナンス、特殊なカギでしか開かない100円玉の回収などに対応することにした。
「しかし、連絡をくれた1店舗に対応するだけでは交通費や人件費などで“持ち出し”になってしまう。そこで行く途中にある喫茶店やラーメン店などに飛び込み、“置いていただけませんか”と直接営業をかけるようにしたんです。そうした1つ1つの点がやがて線になり、面になっていきました」(進藤さん)
いわば面倒見のよさが寿命を伸ばしたかたち。
時代の流れに沿って、おみくじに書かれた一部表記を手直ししたり、カギを簡易化するなど改良を加えた。さらに約10年前、全国に散らばるユーザーや購入希望者のためにホームページを立ち上げると再び風が吹いた。
NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』から貸し出し依頼が飛び込み、昭和を舞台とする複数のドラマやバラエティー番組から問い合わせが相次ぐように。エンドユーザーへの配慮がまた寿命を伸ばした。
“思い出”を語る個人客にも支えられて
「最盛期には及びませんが、若い頃や子どもの頃を懐かしんで購入したいという個人客からもたくさん連絡をいただくようになりました」(進藤さん)
喫茶店のコーヒーが1杯150〜200円だった時代、おみくじに100円はなかなか手が出なかった。
《昔、喫茶店で彼女とコレをやりたくて》
《小さい頃、欲しかったんです》
そんな思い出を伝える個人客が少なくなかったという。
かくいう筆者も子どもの頃、家族でよく行くラーメン店におみくじ器があり、なかなか遊ばせてもらえなかった記憶がある。100円を入れずにガチャガチャいじっていたら、おばさん店員に「やらないなら触らないで」と叱られた。大人になってから入った喫茶店で見つけたとき、うっぷんを晴らすようにためらいなく100円を投入したものだ。
テレビで“存命”を知った個人や、喫茶店、ラーメン店の経営者のほか、居酒屋や理髪店などからも引き合いがあったという。同社の現在の地元・滝沢市のふるさと納税返礼品にも選ばれた。
「地元に貢献できるのはうれしい。大人になって購買力をつけた消費者のほか、若い人には目新しさもあるようです」(進藤さん)
ところで、投入する硬貨は100円玉でなくともおみくじは出るのではないか。
「出ません。1円、5円、50円玉には反応しませんから。100円玉より大きい10円玉は投入口に入りません」
電子部品を組み込んでいないにもかかわらず判別できる仕組み。令和の世、例えばルーレットの代わりにデジタル抽選を導入するなどリニューアルは考えていないのか。
「それはないと思います。ルーレットのほうが味があるじゃないですか」
確かに。
製品への愛と自信は揺るぎなく、まだまだ寿命は伸びそうだ。
◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)
〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する