「知ったかぶり」は軽蔑される

(10)酢豆腐(すどうふ)たるなかれ

「酢豆腐」とは、古典落語の題名(別名「ちりとてちん」)です。いつも知ったかぶりばかりする若旦那が、イタズラされて腐った豆腐を食べさせられているのに、「これは、なかなかオツな酢豆腐ですな」なんて言いながら四苦八苦して食べてしまうという噺(はなし)。

 知ったかぶりをして、落語の若旦那のように嫌われるくらいならまだしも、ビジネスの世界で知ったかぶりをすると、あとで大変なことにもなりかねません

(11)賛成居士(さんせいこじ)たるなかれ

(12)反対居士(はんたいこじ)たるなかれ

「賛成居士」は「相手の言葉になんでも賛成する人」、「反対居士」は「相手の言葉になんでも反対する人」です。会議のときにいますよね、そういう人。

 どっちの人も、「自分の意見はないのか?」って、そのうち、誰からも相手にされなくなります。

(13)軽薄才子たるなかれ

「軽薄才子」とは、夢声さんによれば「オッチョコチョイ」「交際上手とか、話上手とか言われる人には、この型が多い」とのことなので、「調子がよい人」という感じでしょうか。

 そういう人は、相手の言葉に調子よく合わせるのがうまいけれど、上っ面だけの会話で何も残りません。

 夢声さんは「結局、人間として、信用されない」と、なかなか手厳しいことをおっしゃっています。

(14)木念仁(ぼくねんじん)たるなかれ

「木念仁」とは、「愛想のない人」「シャレがわからない人」「融通が利かない人」のこと。

 例えば、何を言っても無表情で「別に……」としか言わない人。冗談を言っても、愛想笑いのひとつもしてくれない人とは、1分の会話が1時間に感じられてしまいますよね。

(15)敬語を忘るなかれ

 ローラやフワちゃんならいざ知らず、普通は、目上の人と話すときは敬語を使います。敬語や謙譲語があるのは、日本語の欠点のひとつと言われますが、日本で暮らすうえでは必要不可欠。なかには、年下からのタメ口に敏感で、すぐにブチ切れてしまう先輩もいますから、ご用心、ご用心!

時代を超えても「根っこ」は同じ

 元祖マルチタレントにして話術の達人、徳川夢声による「座談十五戒」、いかがでしたか?

 この「座談十五戒」が載っている『話術』が最初に刊行されたのは、戦後間もない昭和22年(1947年)。ということは、今から4分の3世紀も前のこと。

 それほど前の本であるにもかかわらず、この十五戒、あまり古さを感じさせないことに驚かされます。

 会話の根っこにある「禁止事項」は、昔も今も、たいして変わらないのかもしれません。

(文/西沢泰生)

※参考:『話術』徳川夢声著/新潮文庫