休肝日ではなく週単位でアルコール量を管理

「患者さんから聞いた話ですが、その方のお父さんは、成人してから毎日1合、常温の日本酒を飲むのを習慣にしていたそうです。92歳のある日、“今日の晩酌はやめておこう”と言って眠った翌朝、大往生を遂げていたというのです。

 70年近く晩酌を欠かさなかったお父さんにとって、1合の日本酒は良薬だったのでしょう。事実、“適量のお酒は健康にいい”という研究結果が、米国保健科学協議会(ACSH)によって発表されています」

 1日の飲酒量と死亡率の相関関係を見ると、まったくアルコールを飲まない人に比べて、適度の飲酒を習慣にする人は死亡率が下がり、一方で飲みすぎの人は死亡率が上昇することが明らか。これはそのグラフの形状から「Jカーブ効果」と呼ばれている。

「週に1回は休肝日とも言われますが、休肝日の翌日に飲みすぎては意味がない。週単位で摂取したアルコール量を管理するのが合理的でしょう。私は、1日20~40グラム、週140~280グラムまでが許容範囲と考えています。

 無論、高血圧や糖尿病などのリスクを抱えている場合は少量のアルコールでもマイナス因子となるのを忘れてはいけません」

ストロング系は絶対NG

 “適量のお酒は百薬の長”、“毎日飲んで大往生”とは、のんべえにとって朗報だが、栗原先生いわく、すべてのアルコールが薬になるわけではない。

最近流行(はや)っているストロング系の缶チューハイは絶対にオススメできません

 ストロング系缶チューハイは高アルコール度数で人気だが、アルコール度数9%のストロング缶(350ml)の純アルコール量は36グラムあり、これはアルコール度数43%のウイスキーロック(30ml)約3.5杯分だ。テキーラのショットに換算すると約4杯分に相当する。

「さらに、単糖類の果汁とコーンシロップが加えられていますから、体内での分解・吸収の速度が速く、血糖値が急上昇しやすいため、肥満の原因になります

 チューハイ類は甘くて飲みやすく女性にも人気だが、甘い酒は果糖や甘味料が入っているし、飲み口がよくてどれだけのアルコールを摂取したか自分でわかりにくい。

乙類焼酎を自分で割って飲む
アルコールと同量の水を飲む

いちばんよいのは、自分でお湯割りや水割りを作って飲むこと。その際は、乙類焼酎を選んでください。米・芋・大麦などの原料を麹で発酵させて蒸留した乙類焼酎は、風味豊かで作り手の個性も感じられます。

 一方、居酒屋のチューハイや缶チューハイで利用されているのは、甲類焼酎。原料は特定されておらず、いろいろな雑穀でエタノールを生成し、それを水で薄めて製品化するため、低コストで大量生産できるのです」

 ストロング缶の原材料であるウオツカも、同様に低コストで生産されたアルコール。

「私の患者さんにも、ストロング缶を飲んで意識をなくした人や、転倒してケガをした人がいます。安くて早く酔えるからという理由で、お酒を選ばないでください。

 そして、飲酒時には、必ずアルコールと同量の水を飲むのを心がけましょう。アルコールは利尿作用がありますから、水を飲むことで脱水症状を防ぎ、肝機能を助けます。本来、お酒は味わって楽しむものだと忘れないでください」

「流行りのクラフトジンのソーダ割りなどもオススメですよ」(栗原先生) 撮影/山田智絵

(取材・文/ガンガーラ田津美)

《PROFILE》
栗原毅 ◎1951年生まれ。北里大学医学部卒業、医学博士。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医等。現在、栗原クリニック東京・日本橋院長。『セルフ・メディカ 予防と健康の事典』、『禁酒しないでγ-GTPを下げる本』ほか著書多数。