なぜ動物園で事故が絶えないのか
冒頭でもお話ししましたが、今年1月に那須サファリパークにて、飼育員3人がベンガルトラに襲われてケガをするという事故が発生しました。実は「動物園で飼育員が動物に襲われる事故」は毎年のように発生していて、2019年には東京都の多摩動物公園で、2018年には鹿児島県の平川動物公園でそれぞれ男性飼育員が1名ずつ死亡しています。それではなぜ、動物園でこういった事故が起きるのでしょうか。
動物園で事故が起きる最大の理由は、「動物舎の施錠や戸締りを行う・確認するのが人間」だからです。動物園において動物が暮らす場所は動物が逃げ出さないように、外部の人が内部に入らないようにどこの扉も何重にも、かつ厳重に施錠されています。トラやライオンなどのいわゆる猛獣が暮らす場所については、動物と飼育員が同じ空間に入らないような仕組みになっていて、扉を開閉する手順なども決められています。
報道によると、今回の那須の事件は、開園に向けて担当飼育員がトラを屋内の飼育施設から屋外に移動させる準備をしていたとき、本来、トラがいないはずの移動用の通路付近で鉢合わせをして襲われた可能性があるとのことです。
実際に飼育員の仕事に就くと、まず「動物舎の鍵は確実に閉めること、何度でも確認すること」を徹底的に教えられます。私が勤めていた園でも、「飼育員として最も恥ずべきことは動物を逃がすことだ」と教えられました。
しかし飼育員も人間です。人間である以上、どれだけ意識していても注意していてもうっかり鍵を閉め忘れる、手順を間違えるといった初歩的なミスは必ず起きるものです。みなさんも外出先で「家の鍵を閉めたかどうか」と、不安になったことがあるのではないでしょうか?
また上記の理由の他に、「飼育員は(正規職員以外では)基本的に給料が安く、長く続けることが難しい職業である」という点も、動物園で事故が起きる理由の1つだと考えられます。特に臨時職員では最低賃金レベルの給料しかもらえないため、結婚や子育てなどを考えて辞めてしまう人が非常に多いのです。そのため動物園では経験豊富なベテラン飼育員が育たず若手飼育員ばかりになり、その結果、判断が甘くなりミスが増える……という負の連鎖が起きています。
憧れの職業だが、なれる人はひと握り
一見、華やかで楽しそうに見える飼育員の仕事も、実はもどかしいことが多いものであるということが伝わったでしょうか。
さまざまなことを書きましたが、「動物園の飼育員」は非常に楽しくやりがいのある仕事です。飼育員として働いていた当時は動物たちが日々、元気に過ごしている姿を見たとき、繁殖したとき、お客さんに動物について聞かれて「そうなんだ!」と言ってもらえたときなど、事あるごとに「飼育員になって本当によかった、楽しいな」と思っていました。
実は飼育員は憧れる人が非常に多い反面、(特に正規職員の)求人数が非常に少ないことから、なること自体が難しい職業です。しかしもし飼育員になりたい! と考えている人がこの記事を読んでいたら、ぜひ情熱を持ち、全力で夢を追ってみてください。いち動物好きとして、元飼育員として、夢を追いかけるみなさんのことを全力で応援しています。
(文/三日月影狼)
《PROFILE》
三日月影狼(みかづき かげろう) フリーライター/動物イラストレーター。東京農業大学の畜産学科を卒業後、牧場(養豚)・商社・動物園を渡り歩いてきたヘンテコ物書き。好きな動物はトラとブタとウサギで、47都道府県の動物園水族館制覇を夢見ている。