夫婦の関係は「宇宙船の乗組員」みたい
──ベテラン主婦でもある香さんですが、主婦として50代になってから、やるのを止めたことや何か変化させたことはありますか?
「今までは、自分の肩書は“お母さん”または“家庭の主婦”で、ちょっと音楽やっていい? みたいな感じだったんですね。だから、家のことはちゃんとしなきゃなとやってきたんですけど。子どもたちが高校でアメリカに留学して巣立って、少し変化したのかな。夫は大人ですからね。うちの夫婦の関係性って、船とか宇宙船の乗組員みたいなんですよね。宇宙戦艦ヤマトでいうと、古代進と森雪じゃなくて、古代進と島大介なんで(笑)」
──本当に並列なご夫婦関係なんですね?
「だと思います。あっちはどう考えているかは知らないけど(笑)。一応、私の部署の役割として、メシを作るみたいなこともあるわけで。前は、仕事で地方に行くときも、おかずを作り置きして、チンして食べればいいようにしてましたけど。最近は、できるときはやるけど、やれないときはやれないって体制にもなって。それで問題も起きてないですね。夫も“いいよ別に”って感じです。まあ、50代になってそれが一番変わったかな。たぶんお互いに自分のペースでやりたいと思っているから、家にいるときでも、時間のあるときに作っておいて、“どうぞ勝手に食べてね”ってしておくと、すごく変な時間に食べていたりもするから。子どもにはちゃんと責任をもってやりますけど、夫は乗組員同士だから、よろしくねと(笑)。
うちの家族って全員がマイペースで、自分の好きなように生きてるんですよね。子どもたちも、自分の意志でアメリカの高校に進学しちゃったし。4人とも自分で決めて好きなようにやってるのが、今すごく開花しちゃているという感じですね」
──香さんにとって、ご家族はどんな存在ですか?
「やっぱり一番大事なものですよ。音楽は2番。だけど、どっちもないと私の人生じゃないから、甲乙つけがたいですけど。どっちか捨てなきゃいけないって言われたら、音楽でしょうね(笑)。そのくらいのもん。だから今、こんなふうに音楽を楽しめるのかな。ゴルフが好きな人は仕事だと早起きが苦痛でも、ゴルフだったらすごい早朝から飛んで行ったりするじゃないですか。それみたいに、趣味でいられるって、最強のエネルギーだと思うんですよね。だから、私は、ほんと音楽は一生の趣味でいたいなと思っています」
「人と違うことを」無意識でしていた教育法
──2人のお子さんたちに対しては、将来こうなってほしいとか、希望はありますか?
「子どもたちが、私や夫のことを“自己肯定感が高い”って表現するんですけど。つまり自分が大好きな自分っていうことですよね(笑)。その言葉を借りるならば、自己肯定感がもう満々な人になってほしいなと思うし、生まれ変わるんだったら、もう1回、俺がいい。私は私がいい。そう思ってくれる人生を歩んでくれたら、多少ヘンテコでもいいかなって思います」
──そういう人に育つように、何かしてきたことはあるんですか?
「強いていうなら、私自身が人と違ってなんぼっていう仕事のミュージシャンだからなんですけど。隣の人と同じ音楽をやっていたらダメだし、隣の人と同じ歌じゃダメだし。この人ならできる、成立するっていう仕事をしてきたから、人と違うってことに、どうやら重きを置いて子どもの教育をしてきたみたいなんですよね。ただ、私は無意識のうちでしたけど。
息子が小学生のとき、塾に行くのに私のお気に入りブランドの子どもバージョンのTシャツを着せていて。かなり特殊なデザインのものだったんだけど、それを恥ずかしいからって裏返しに着て塾に行ったことがわかって、息子に理由を聞いたら“あんなの誰も着てないからヤダ。僕はみんなと同じようなのがいい”って、言ったことがあったんですよ。それで私は、“クラスの何人もの子が同じの着てるじゃない、それがいいの? なんで? 人と同じなんてイヤじゃん”って、すごく言ったのを覚えているんですけど。そのときに“私、人と同じっていうのは、いいことって教えていないんだなって”思って。
だから、今、二十歳になった子どもとたまに飲んだりすると、“うちはお母さんに、人と同じがどんだけつまらないかって、教育されてきた”って言うんですよ。それで、2人とも“人と同じじゃつまらない”って思うようになってるみたいですね」
──個性があるんですね?
「ギョッとするような娘と息子です(笑)。結果的に私の教育が正しいかどうかはわからないけど、それであの子たちが幸せならいいなってことだから。成功か失敗かはまだわかりません(笑)」