「私な、子どもが欲しいと思ったことがないねん」
大学を卒業して、2年くらいたったころだったと思う。
私は、新卒で就職した会社で仲よくなった同期数人とカフェにいた。全員、女性だった。
恋愛と仕事に夢中だった私たちの話題は、ほとんど“恋バナ”である。妊娠や出産に関しては、まだリアルなものだと感じていなかった。
「子どもが欲しいと思わない」は言ってはいけないこと?
だから私は話の流れで、何気なくそう言った。
瞬間、その場が静まり返った。
「なんで?」
そう聞かれて、どう返事をしたらいいのか、わからなくなった。
まだ「子どもを産むか産まないか選ばないと」という差し迫った気持ちはなく、自分が子どもを望まない理由を考えたことがなかったからだ。
その場にいたほとんどの友人が、口々に言った。
「出産も子育ても貴重な人生経験になるから、私はいつか産みたいなあ」
「たぶん自分の子どもが生まれたら、可愛いと思うで」
「少子化やし、ひとりでいいから産んだほうが、世の中のためにもいいんちゃうかな」
グループ内での私の立ち位置は「よく変なことを言うボケキャラ」だったので、みんな「また、りおちゃんが天然ボケかましてるわ」と思ったのかもしれない。
「大丈夫、すぐに子どもが欲しいと思えるって」
そう諭すみんなの口調は、妹を励ます姉のようだった。
不思議だった。
どうして励まされるのだろう? 私はそのことで悩んでいるなんて、一言も言っていないのに。
友人の中のひとりが、じっと私を見ているのに気づいた。彼女はほかの人たちと異なり、落ち着いた口調で言った。
「子どもが欲しいのに授からなくてつらい思いをしている人もたくさんいるんやから、そういうこと、外で言わないほうがいいんちゃう? りおちゃん無神経やで」
がん、と頭に固いものがぶつかったような気分になった。
そうか。これは言ってはいけないことなのか。
でも、あれから10年経った今、思う。
どうして言ってはいけないことだったのだろう?