ハードな医療現場と華やかなモデル業界とのギャップ
──普段は、どのような医療現場で働いていますか?
「訪問看護の仕事をしていて、在宅での介護や看護が必要な方の自宅をまわっています。看護師のときは動きやすさが命なので、ナース服で、髪もまとめています」
――看護師の仕事は大変ですか?
「20歳から25歳の5年間は大学病院で働いていました。夜勤もあったのでハードでしたし、肌荒れがすごかったですね。不規則な生活だったのですが、夜勤明けになぜかマクドナルドのメニューを食べたくなるんですよ。看護師ならこの感覚、わかってくれるんじゃないかと思う。でも、そのせいでさらに肌が荒れて太りました(笑)」
──看護師の仕事で印象に残っていることはありますか?
「看護師1年目のとき、ステルベン処置(エンゼルケアとも呼ばれる死後のケア)を担当していたんです。霊安室に遺体を持っていくまでに、服を着替えさせて、身体をきれいにする処置を行います。夜勤は、例えば患者さんが50人いる中で、看護師は3人しかいないような環境。
まだ20歳だったので、遺体を前に“えっ、どうしよう”って慌ててしまって、なぜか鼻血が出てきました。でも、どうすればよいのかいいのかわからない。そんな状況を経験して、“(仕事が大変なぶん)もっと自分の好きなことをやったほうがいいなって感じました。それがロリータファッションを着ることにつながっているかもしれません」
──肉体的にもハードな中で、看護師を続けられているのはなぜだと思いますか?
「白衣に憧れていたというのもありますね。看護師になりたいという気持ちの中には、“白衣を着てみたい”っていう単純な理由もあったんです。ロリータと同じで、ファッションでモチベーションをあげたかったんです」
──ご自身のTwitterでは、アパレルブランド『ローラ アシュレイ』とコラボしたメディカルウェア(ナース服)を着用した画像もアップされていましたね。
「看護師も可愛いナース服が着たいですし、それでモチベーションを持つ人も多いと思うんです。今は聴診器もさまざまな色があるので、好きなものが選べます。でも、地味じゃなきゃいけない、こうじゃなきゃいけないっていう束縛が医療業界にはまだ強い気がしますね。
看護師のイメージって、きつい・汚い・くさいの3Kだと思うんです。コロナ禍で、“3Kな職場”というマイナスなイメージがさらに強くなってしまった。だからこそ、可愛いナース服を作ることで、若い方々にも興味を持ってもらいたいとも思っています」
──今は、看護師の仕事とモデルの仕事の割合はどれくらいですか?
「モデル業とブランドとのコラボやプロデュースが9割で、1割が看護師です。ここ最近は、企業とのコラボ企画も増えてきました。でも、コロナ禍でモデルの仕事が減ってしまい、少し前までは看護師が9割で、モデル業が1割でした」
──美沙子さんが看護師とモデルの仕事を両立されていることに対し、周りから何か言われたりしますか?
「二足のわらじを履いていると、“看護師だけに絞らないのか”と言われたりもします。同業者の中には“看護師という職業を極めるべきだ”という価値観を持っている人もいるので、2つの仕事をすることは、業界的にはよくないことという印象だったみたいですね。“看護師としての熱意はないのか”って言われたこともあります」
──それでも、看護師業を続けられた理由はありますか?
「熱意を持ってやっているという自負がありますし、コロナ禍でも仕事がある看護師という職業はありがたいなって思います。逆に、モデルのような芸能界の仕事ってギャンブル。売れるかどうかわからない不安定な状況はストレスで、これ1本では自分には耐えられないと感じました。だから、わりと安定した仕事をしつつ、モデルの仕事もするほうが、生活と心の安定を保てるかなって。実際に、2年くらい前は、コロナ禍でモデルの仕事が減ったので、看護師の仕事をめちゃめちゃ頑張りました」
──異なる業種の仕事をしていることでのメリットはありましたか?
「看護師の仕事をしていると、時に病むというか……。つらいこともあるなって思っていて。普段の医療業界とは違う世界に自分を置きたい、みたいな願望は以前からありましたね。だからこそ、モデル業のよさや楽しさがわかったし、視野も広がった。ただ、看護師の仕事は、今後モデル業がいくら忙しくても、たとえ月1回でも続けたいと思っています」
──確かに、今は副業や複数のキャリアを持つのも当たり前になってきていますね。
「人それぞれの働き方があると思うんです。ファッションも多様性を受け入れようと言われる中、働き方も多様性が必要だと感じています。看護師の中には、私以外にも二足のわらじを履くタイプが増えてきていますし、そのあたりは昔よりは変わってきたかもしれません」