たまたま座っていた車両で、まさかの展開!

 本題に戻らないとね。えーっと、急行に乗っていて自分の降りる駅が過ぎていないか不安になり、ドア付近に近づいたってとこまで話したよね。車内は混んでいるとまでは言わないが、立っている人はちらほら、席は埋まっているって状態かな。

 普段は座らない派の僕がたまたま座ったんだけど、なんか落ち着かないんだよね。お年寄りが乗ってきたら席を譲らなきゃという思い。じゃあ最初から座らなければいいじゃんという思い。わざわざ譲って、お礼を言ってもらいたいの? いい人アピールしたいの? 違う! でも僕が座っていなかったら誰か行儀の悪い若者が座って、お年寄りに席を譲らないかもしれない、そのために僕は席をとっているつもりで座ってるんだ! 実際、目の前にお年寄りが現れたとき、たくさんの人の視線の中で席を譲る勇気はあるのかい?

 ・・・この一連の葛藤に悩まされ、結果ドア付近に立っているのがいつもの僕だ。いいように言ったりもしたが、自分はお年寄りに席を譲れるような優しい人間じゃない、ただ勇気のない人間だ。周りにもそう見られてるんだろうな。「席どうぞ!」と口に出して言えないから立っているんだって。

 こんな僕にはドアの横がお似合いさ。満員電車であろうが空いていようが関係ない、いつもの位置。駅についてドアが開くたび、降りる人の邪魔にならないように、わざわざ1回降りてまた戻ればいいさ。わざわざ降りたのに誰も降りる人がいなくて、車内の苦笑いを誘えばいいさ。あれ? 脱線してるよね? またまたすみません!

 もーいいかげんにしないとね。えー、電車に乗ってたんだよね。座っていたのに一気に人が降りて、たまたま自分と隣の人だけ並んで残っちゃうと、見た目「知り合い?」って感じになるよね。おっと危ない、また脱線してマスコットキャラクターのフムッフィーに怒られるとこだった。

 路線図を見にドアに歩み寄り、まだだな、あと2駅だなと確認して踵(きびす)を返した刹那、イスの足元の様子がおかしいことに気づく。ぜんぶ足がある違和感。ないはずの場所にも足が見える。ま、まさか! この一瞬のうちに座る? 僕は恐る恐る顔を上げた。スーツ姿の若い男性が、さっきまで僕が座っていた場所に座っていた。こっちを見ようともしない。わかるでしょうよ! ちょっと見に行っただけだなって! 戻ってくるなって! 席取るの早すぎでしょ! あの人席取られてやんのって、ここにいるみんなそう思ってんだろうな。なんかこっちが恥ずかしくなった。

 以上「今まででいちばんこんな人いるのか! と衝撃を受けた話」でした。っていうか、テーマのハードル高いよね。面白い話しますって言ってから話すみたいな。別にいいんだけどね。途中いっぱい脱線しちゃったね。文中の「脱線」って文字を見るたび、心の中で「電車だけに」と思う、こんな人いるよねぇ~。

(文/つぶやきシロー)


【PROFILE】
つぶやきシロー ◎1971年3月10日、栃木県生まれ。お笑いタレントや俳優として活動するかたわら、2011年からは小説も執筆。2021年には、著書『私はいったい、何と闘っているのか』(小学館刊)が安田顕主演で映画化された。2022年4月、新著『こんな人いるよねぇ~──本を読んでつぶやいた』(自由国民社刊)を上梓。また、2009年から公式Twitterでほぼ毎日「あるあるネタ」をつぶやき続けて大人気に。フォロワー数は97万7千人を超える。(2022年4月現在)
公式Twitter→@shiro_tsubuyaki

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