ついにチロルチョコとの結婚式を挙行
──チロ吉さんの刮目(かつもく)すべき点は、チロルへの愛をアートやデザインで表現しているところにあります。そういえば、チロルチョコが主催したコンテストで受賞されていましたね。
「はい。普通のチロルチョコの24分の1サイズという小さな“プチロル”を活用して遊ぼうっていうキャンペーンのコンテストがあって、金賞をいただきました。私と、私が会長を務める成安チロルチョコ同好会の共同制作です。300カットくらいコマ撮りましたね。冬だったので手が凍えてたいへんでしたが、社員さんからのコメントがうれしくて、うれしくて」
──チロルチョコへの愛がないと、このコマ撮りアニメーションはつくれないですね。愛と言えば、チロ吉さんはついにチロルチョコと結婚式まで挙げていましたね。“ここまでするのか!”とたまげました。
「私が生きるためのエネルギーの源になってくれたチロルにありがとうの気持ちを伝えたくて。そしてチロルをきっかけに進んだ大学4年間の卒業制作として『チロル・チョ婚』を催しました。私にとってはこの4年間というだけではなく2010年からの12年間の集大成という気持ちでした」
──このインスタレーションには、どれだけのチロルチョコのパッケージが使われているのですか。
「ドレスにはチロルチョコ約800個。会場装飾には5200個以上のパッケージを使いました」
──計約6000個ですか。これまで食べてきたチロルチョコに近しい数で、まさにチロ吉さんの12年間の集大成ですね。
「チロル・チョ婚の“チョ婚”には『チロルがちょこんとそばにある人生』という意味もかけたんです。集大成という意味だけではなく、これからもチロルとともに人生を歩みたい。それを宣言するためのセレモニーでもありました」
──そんな祝いの席に水を差すようで心苦しい質問なのですが、これってチロルさんの許可はおとりになっているのですか。
「もちろんです」
──チロルチョコの公式Twitterアカウントが結婚式に祝福の言葉を添えてリツイートしていたのも、心が広いなと感じました。企業によっては「やめてくれ」と言ったり、怒ったりするところもありますよね。
「寛容に見守ってくださっていて、感謝の気持ちでいっぱいです。結婚式の許可をとるとき、そして無事に終わったことを連絡したときも、長文の温かなメッセージをいただきました。寛大な対応で、本当にありがたいです。ますますチロルが好きになりました」
──卒業後はデザイン関係に進まれるのですか。(編集部注:取材は2022年3月の卒業以前に行われた)
「はい。もしもチロルチョコの求人があったなら、入社試験を受けたかったですね。でも、いつかデザインや広報などでつながって、チロルの魅力を伝える人になりたい。それが私の夢です」
──わが人生に悔いなし、ですね。
「そうですね。悔いがあるとするならば、もっと早く生まれたかった。チロルチョコは昭和37年(1962年)に生まれました。記念すべき1作目のミルクヌガー味が発売されて今年で60周年なんです。私はチロルが歩んだ歴史の5分の1しか知らない新参者。それを悲しく思うときもあります。60年前に生きていて、初めて発売されたレジェンドチロルを味わってみたかった。それが心残りなんです」
チロルチョコの製造元である松尾製菓の三代目であり、企画・販売を主とするチロルチョコ株式会社を設立した現会長の松尾利彦さんは著書『チロルチョコはロックだ!』(幻冬舎)において、「ブランドづくりはマーケティングからではなかった」「チロルチョコはロックな自分を表現する唯一の手段、楽しみであった」と記しています。
中学時代にビートルズやポップアートの旗手アンディ・ウォーホルに影響を受け、CMソングにはロックを、パッケージデザインに現代美術を採り入れた松尾氏。お菓子の既成概念を覆し、驚きを提供し続けたそのスピリッツは、デザインを志すひとりの女子大生に、しっかりと届いたようです。
(取材・文・撮影/吉村智樹)