幸せの沸点が低い。極めることは考えていない

──ちなみに、今は移住先の台湾から日本に帰国されていますが、どのような生活をしているのでしょうか。

「31歳から3年半、台湾で隠居生活をしていました。一時帰国したときにコロナ禍になり、現在の収入源であるトラベルライターの仕事がゼロになってしまったんですよね。しかも、2年も続くとは思わなかったので、なかなか台湾にも帰れず。だから収入は落ちるなって思ったんですけど、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが私の本を紹介してくれたんです。そこから売り上げが一気に伸びて、年収はそこまで変わっていないです。

 仕事のペースとしては、1日2、3時間くらいを本の執筆にあてています。この2年で3冊くらい書いてるので、疲れちゃいました(笑)。今はあんまり何もしたくないです」

──世間のイメージだと、大原さんは“もともと何もしたくない人”みたいに見られていると思いますが、実際は、かなりエネルギッシュですよね」

「気になったことに対しては、エネルギーを集中させちゃいますね。けれど、好きなことをやっているから、“早く終わらせちゃおう”じゃなくて、“楽しいな”って思いながら作業ができています。満足度が一定に達したらいったん止めて、また再開して……ということを毎日繰り返している感じです」

──熱中しているあいだに1秒でも多くやって、飽きたら惰性で続けることはないんですね。

「そうですね。コロナ禍になってから、よくマンガを読んでいたんですけど、1日に2、3冊読んだら“よし、満足”って感じますね。たぶん、自分は幸せとか満足の沸点が低いんですよね。純粋に楽しいと思えることが目標ですし、どこかに到達しようとか、極めるってことをあんまり考えていないんです。そのほうが長続きしますしね

展望とか夢とか目標は持たない

──大原さんの、今後の人生の展望はありますか?

「私の場合、夢とか目標とか、人生の展望を持たないようにしてきたんですよね。そうすると、いろいろと寄り道ができて、さまざまな可能性に気づけるので。ていうか、そもそも事前にいろいろ考えていたら、20代で隠居なんて発想には至らないですよね(笑)」

──確かにそうかもしれません(笑)。

あと、自分のような生き方を人にすすめるつもりはなくて、誰かが己の価値観を固めるヒントになればいいなって思っています。“これをそのまんまやれば幸せ”っていうことはないし、当人に合ってるものは、人によって絶対それぞれ違うので。

 私は現代社会の価値観には合わなかったですけど、合う人もいると思いますし、それはそれで全然いいことですしね。

 でも、自分の価値観を探すのって個人的にはけっこう楽しいので、興味がある人はやってもいいんじゃないかなって思います(笑)」

──著書『フツーに方丈記』のなかで「今死んでも大丈夫」と断言していますが、その意図はなんでしょうか。

「死ぬのって、すごく怖いイメージが漠然とあるじゃないですか。けれど、死ってものすごく自然なことだと思うんですよね。誰もが生まれるし、誰もが死んでいく。ただそれだけの話なんで。それがいいか悪いかとかは考えないようにしています。

 あと、死ぬことだけは“一度、体験してみるか”っていうことができないんですけど、両親がどちらも病気で死にかけたんです。そのときってどういう感じだったんだろうと気になって聞いてみたら、2人とも“なんにも覚えてない”っていうんですよ。当時、病院のベッドでいろいろと話していたのに。

 そうなると最終的には、死ぬときの痛さ、つらさ、恐怖って、結局そんなものないんじゃないかなって感じたんです。

 じゃあ、“死ぬのが怖いという植えつけをすると誰が得するのかな?”って考えてみると、いろいろ見えてくるものがあったり。だから、死ぬことが怖いなんて別に思わなくてもいいやって感じます。死ぬって感覚はわからないですけど、わからないからこそ、悪い方向にとらえなくてもいいかなと

◇   ◇   ◇

 お金との接し方や死生観に対しても、一歩引いて、“当たり前と思われているものは本当にそうなんだろうか”という疑問を常に投げかける大原さん。自身にとって心地のいい価値観を探るヒントになるようなお話でした。

 次回、インタビュー第3弾では、「現状維持のすばらしさ」「新著『フツーに方丈記』に込めたメッセージ」について語っていただきました。

(取材・文/翌檜 佑哉)


【PROFILE】
大原扁理(おおはら・へんり) ◎1985年、愛知県生まれ。トラベルライター、作家。高校卒業後に海外ひとり旅を経て25歳のときに東京・国分寺市で月7万円程度の隠居生活を送り始め、31歳で台湾に移住。一時帰国後、コロナ禍により台湾へ戻れないときに読み返した『方丈記』から着想を得て、自身の経験を交えながら現代に昇華させた『フツーに方丈記』(百万年書房刊)を上梓。そのほかの著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』(K&Bパブリッシャーズ刊)『年収90万円で東京ハッピーライフ』(太田出版刊)などがある。
公式ブログ→https://ameblo.jp/oharahenri
公式Twitter→@oharahenri

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