18歳以上の毒親に悩む人々を苦しめる“福祉の空白”

 妹とともに、なんとか我慢して過ごし、実家から近い国立大学に進学しましたが、ついに父親の態度に耐えきれなくなり、19歳で家を出ました。父親は玄関先まで罵詈雑言を吐き続けて追ってきたものの、「とにかく今、逃げるしかない」と思ったゆきこさんは、最小限の荷物をまとめて飛び出します。

 残りの学費を自分でまかなうため、バイトを始めようと労働契約を結ぼうとしたり、奨学金の申請を試みたりしますが、未成年という理由でさまざまな契約に親の同意が必要なため、思うように進まなかったそうです。

「未成年だと新たに家を借りることもできないし、携帯電話も契約できません。私の場合、携帯電話を父に解約されたので電話番号が使えませんでした。それでも、私は自宅に泊めてくれる友人がいて、そのあと運よく学生寮に入れたし、家を出た母親とも連絡が取れたのでなんとかなりましたが、ほとんどの人が逃げ出せても路頭に迷ってしまうんです」

 と、ゆきこさんは訴えます。事実、19歳という年齢は、18歳未満が該当する“児童虐待”や、配偶者や恋人からの暴力を対象とする“家庭内暴力(DV)”にも該当しないため、親から暴力をふるわれても相談できる公的機関がないという“福祉の空白”の存在に苦しめられます。この状態が子どもたちの泣き寝入りを誘発していると、専門家からも問題視されました。

 その影響もあってか、2022年4月に法律が改正され、成人年齢が20歳から18歳に引き下げ。福祉の空白に関する問題は多少、改善されたものの、完全な解決には至っていません。

「成人年齢が引き下げられ、18才以降は毒親について弁護士にも相談ができるようになったので、確実に以前よりマシにはなりました。とはいえ、まだまだ充分とはいえません。苦しんでいる被害者をこれ以上増やさないために、声を上げていくべきだと考えています」

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 毒親からの脱出方法についてまとめた文章を公開して被害者の手助けになる情報を共有し、毒親問題を解決できるよう弁護士を目指すなど、自身の経験をバネに新たな道を切り開こうとする様子が印象的なゆきこさん。 

 学生寮に入寮してからも、奨学金や学費免除の申請に奔走しながらアルバイトをし、食費を極力削り、なんとか生きながらえる日々だったそう。その後、奨学金の貸与や学費の免除が決まり、バイト代と奨学金とで多少は余裕のある生活が送れるようになったとのことですが、結局、両親からの援助は一切受けないまま、2022年の3月、無事に大学を卒業しました

成人式での振袖姿。ゆきこさんに輝かしい未来が訪れることを願っています! 写真:本人提供

 インタビュー第2弾では、そんなゆきこさんに「親だから」という言葉の重さや、当事者として虐待に苦しみながら生きる「毒親サバイバー」に向けた言葉を伺いました。

(取材・文/翌檜佑哉)

【参考文献】
◎『毒になる親』(毎日新聞出版刊/スーザン・フォワード著/玉置悟訳)
◎『わたし、虐待サバイバー』(ブックマン社刊/羽馬千恵著)


【INFORMATION】
◎ゆきこさんTwitter→https://twitter.com/kkym_yukiko
◎ゆきこさんnote→https://note.com/fujitoko