毒親の被害者を追い詰める環境が整っている
毒親という存在について周囲に相談したり、SNSでカミングアウトしたりする際に、被害者側が「甘えるな」などの辛らつな言葉を浴びせられることも少なくありません。
ゆきこさんは、そんな事態に陥っている背景には、主に2つの問題があると指摘します。
「1つは、幸せな家庭で生きることができた人が、つらい境遇にある人の心境を理解できずに、毒親の被害者を傷つける発言をしてしまうパターンです。これは、想像力が足りないというか、実態を知らないという知識不足からくるものなので、まだ理解ができます」
年功序列が色濃く残っている時代を経験した上の世代は、長いものに巻かれる習慣が根強く、また、体罰があったため自分も殴られて育ってきたという経験から、被害者の苦しみを想像しきれず「この程度で毒親なんて」と疑わずに思っている人が多いそうです。
しかし、これは重大な問題ではなく、もう1つのケースが、毒親問題の深刻化に拍車をかけていると言います。
「より問題なのは、実際に自分も毒親の被害にあっている人が、世間の常識にとらわれたり、“自分は毒親に苦しめられてなんかいない”と自己欺瞞による正当化をしたりするために、同じ立場の被害者へ心ない言葉を発してしまうパターンです。これは言われたほうも救われないし、言っている側も救われないんです」
悪意なく人を追い込みやすい環境が整っていることに加えて、本来、互いの境遇を理解して手を差し伸べあえるはずの被害者同士ですら、相手を追い込む発言をしてしまうことが、根本的な解決の難易度を大きく引き上げているというのです。
「相談してもまともに取り合ってもらえないこともあるし、誰かから“周りに相談したほうがいいよ”と言われても、否定されることを恐れて"私が我慢すればいいだけだから”と引っ込んでしまう。そして、親や周囲から“おまえが悪い”と言われ続けたら、やがて本当に自分が悪いんじゃないかと思い込んでしまう。毒親の被害者をとりまく環境には、この先の本人の人生を大きく狂わせてしまうリスクが潜んでいます」
ゆきこさんはこう続けます。
「特に幼い子どもたちは、自分の状況を客観視することが難しく、親自身も自分が悪いことをしているとは思っていないから、対処が難しいんです」