日常にころがっている刺激がいちばん刺激的
──お仕事以外で大切にされている時間はどんなときですか?
「何もしないことですかね。仕事がないときは何もしない(笑)」
──それは、役者の仕事が趣味に近いくらい大好きだということですね?
「もちろん、それはあると思うんですけど。当時、自分自身に何もなさすぎたので、“みっかった!”って思いましたね」
──役者という天職を見つけちゃったんですね?
「はい(笑)。見つけました。大学でも就職でも何も見つけられなかった自分が、“あ! みっかった!”って思ったところから、30数年続けられているので。役者はオファーがこないと始まらない仕事。だからその奇跡をいつも待っていて。仕事がきたときには、毎回飛び上がるくらいうれしいというか。その繰り返しを待っていられることに、いま幸せを感じています。だって、いついらないって言われても仕方ないんですから。役者はごまんといて、そこにたった一個しかない役を与えてくれるということは、ほぼ奇跡。毎日が奇跡だから、それを待つのには不安じゃなくて希望を持っていないと。いま希望しかないっていうのは、そういうことでもあるんです」
──甲本さんが今、生き方で大事にされていることは?
「何でもなかったことに、だんだん気づけてくるのが50代なんじゃないかな。若い頃は、流行っているものに飛びついたりするけれど、何でもないっていうことが一番すごいなって思うし、何でもないことを何でもないようにできることが一番幸せだし」
──それは日常の生活の中のことですか?
「そうですね。日常にころがっている刺激がいちばん刺激的です。日頃はそれに気づかずに歩いているだけで。でも、気づいたときに、“あ~これだ。毎日やってたな、これ”って。“あ~、ここにドキドキがあったんだな”って、気づく瞬間とか。それは、ごはんを食べることもそうだし、家族に“おはよう”って言う一言だってそうだし。“お疲れさま”っていいなとか。そんなことを感じられるのって、今の年齢になってやっとだなと、しみじみ思うんですよね」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
こうもと・まさひろ 1965年6月26日、岡山県出身。1989年から’94年まで東京サンシャインボーイズに在籍。在籍中『12人の優しい日本人』『ラヂオの時間』『彦馬がゆく』『ショウ・マスト・ゴー・オン』『罠』(以上、作・演出:三谷幸喜)など全作品に出演。’95年に劇団が充電期間に入り、活躍の場をTVドラマ・映画にも広げ、テレビ・映画『踊る大走査線』(フジテレビ系/’97-’12)、『遺留捜査』(テレビ朝日系/’11-’21)、『三匹のおっさん』(テレビ東京系/’14-’19)等のシリーズ作品でも活躍する。近年の主な出演作は、【舞台】『世界は嘘で出来ている』(’14-’17)、朗読劇『冬の四重奏(カルテット)』(’18)、『デジタル本多劇場』(’20)、【映画】『たたら侍』(’17)、『浜の朝日の嘘つきどもと』(’21)、『高津川』(’22)、【TV】『大江戸もののけ物語』(NHK BSP/’20)、『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京系/’21)、連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK/’21-’22)、『だから殺せなかった』(WOWOW/’22)、6月19日より「連続ドラマW 松本清張『眼の壁』」(WOWOW/日曜22時~、全5話)に出演。
●公演情報
舞台『テーバスランド』
作:セルヒオ・ブランコ
翻訳:仮屋浩子
演出:大澤 遊
出演:甲本雅裕 浜中文一
日程:2022年6月17日(金)~7月3日(日)
会場:KAAK 神奈川芸術劇場 大スタジオ
公式Twitter:@TebasLand
問い合わせ:TEL.03-3234-9999(チケットスペース 平日10:00~12:00/13:00~15:00)